最弱村娘に転生した私、魔王さまが毎日プロポーズして来ます
通勤中の私は、めまいで倒れた。
目が覚めたら、視線の先には見知らぬ天井。
でも、病院じゃない。
体を起こしたとき鏡に映ったのは、小柄な黒髪の女の子。
これは……誰?
そう思ったとき、私の前に浮かんだ画面は——
「ステータス……ウィンドウ?」
そこには、『エリカ』という名前、
防御力や素早さの横に並ぶいくつもの『1』、
それから『職業:村人』の文字。
なにこれ……
私がエリカっていう少女になったってこと……?
っていうか……
「私のステータス、低すぎっ!?」
◆◇◆◇
あのあと家を歩き回ってわかったのは、
私は小さな村で一人暮らしをしていたこと。
それから、ここが『魔法の世界』ということ。
外に出ると、村の人たちからは「魔物に食われる未来しか見えん」と言われ、
私はひたすら畑仕事や薬草採りで日々を過ごしていた。
そんなある日、私が近くの森で薬草を摘んでいたときのこと――
「見つけたぞ、人間」
低く響く声に振り向くと、
そこには漆黒の鎧をまとい、金色の瞳を光らせるイケメン……
見たこともないようなイケメンなのに、なぜかどこかで見たことあるような……?
私が動けずにいると、ズイズイと近付いてくる。
ついには目の前まで来て、死を覚悟した、その瞬間——
イケメンは片膝をつき、私の手を取って言った。
「私は魔王。……やっと会えた。我が妃よ」
……え、魔王さま?
私が妃!?
ええええええ!?
「ち、ちち、違いますっ!!」
私はそう叫んで、全速力で家まで逃げた。
でも、私が走っても早歩きみたいな速さしか出ない……。
私が最弱だから!?
「はあ、はあ、、、」
なんとか家まで戻ってくると、魔王さまはついてきてなかった。
◆◇◆◇
でもその日から、魔王さまは毎日村までやってくるようになった。
理由はもちろん、『妃を迎えに来た』。
「今日は魔界で一番美しい花を持ってきた」
「あの、白くて綺麗だけど、なんか毒がありそう……」
「少しだけな。食べるのか?」
「食べませんけど!」
魔王さまは、毎日プレゼントをくれた。
花、宝石、キラキラのアクセサリー……
どれも高価なものみたいだったけど、私は受け取らずに逃げた。
村人たちは最初こそ腰を抜かしていたけど、
魔王さまが畑仕事を手伝ったり、子どもにお菓子を配ったりするうちに——
「今日もいい天気じゃのう、魔王様」
「うむ」
……普通に挨拶されるまで馴染んでしまった。
いや、馴染ませちゃダメでしょ!
◆◇◆◇
ある日、魔王さまはぽつりと言った。
「お前は前世で、私を救ってくれた」
前世で?
……あっ!
もしかしたら、会社の帰り道に助けてあげた黒ネコかも!
魔王さまはその記憶を持ったまま転生し、ずっと私を探してたらしい。
「だから必ず迎えに行くと誓った」
「……でも、今の私はただの村娘ですよ?」
「関係ない。私はお前の魂を愛している」
真剣な目でそんなこと言われたら、
まっすぐ見つめ返すことができない……
その日は、胸がドキドキして眠れなかった。
◆◇◆◇
翌日、村に魔物の大群が迫った。
人間領の援軍は間に合わない。
村人たちは避難を始めたが、私は足がすくんで動けなかった。
取り残された私は、すぐに魔物たちに取り囲まれた。
死を覚悟したとき、思い浮かんだのは魔王さまの姿——
そのとき、黒い影が私を包んだ。
魔王さまがシュタっと私の目の前に降り立ち、高らかと宣言する。
「我が妃を脅かす者は、すべて滅ぼす!」
次の瞬間、闇が大地を包み、魔物たちは一瞬で灰と化した。
怖くて、安心して、思わず泣き出してしまった私を、
魔王さまは優しくなでてくれた。
◆◇◆◇
私が落ち着くと、魔王さまは跪いて私を見上げた。
「村は守った。今度こそ、返事をくれ」
そして私の手を取って、真剣な目になった。
「私と共に生きよう」
私は息を吸い込み、しっかりと答えた。
「……はい!」
魔王さまの瞳が、喜びで揺れる。
「後悔しないか?」
「絶対に、しません!」
次の瞬間、私は軽々と抱き上げられていた。
「今日から、お前は私の妃だ」
◆◇◆◇
私のお城生活が始まって、1週間。
ここに来てからは、畑仕事も薬草摘みもいらない。
使い魔たちが毎日私をもてなしてくれて、
大変なことも、退屈なこともなくなった。
それでも、彼がいないときは少し寂しくなる。
その彼、魔王さまはというと、
「おはよう、妃よ」
と、毎朝優しく微笑んでくれる。
そのあとはずっと私といてくれる日もあるけど、
1人でどこかに行く日もある。
でも、夜は決まって、2人きり。
魔王さまは気まぐれで、いたずらしてくる夜もあれば、
優しくなでてくれる夜もある。
今日の彼は——
「少し、甘えてもいいか……?」
甘えんぼの日みたい。
私はそっと頭をなでた。
彼は私の肩に顔をうずめて、満足そうに目を閉じる。
今日も、甘い夜になるみたい。