表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/40

おまけ(第17.5話①) エルヴィンは少女に心を乱される

 シャルロッテが目を覚ました数日後、彼女の風邪はすっかり良くなり、再びマナーの練習を始めていた。

 いつものようにアルマが部屋に訪問し、挨拶をかわす。

 もう立派なカーテシーを披露できるようになったシャルロッテは自信ありげに、そして誇らしく胸を張ってマナーを勉強していた。


「それにしてもよかったですわ、シャルロッテ様がお元気になられて」

「ご心配をおかけしてすみませんでした」


 二人の稽古の時には基本何も口を出さないラウラが、今日ばかりはという様子で会話に入って来る。


「もうっ! シャルロッテ様が倒れられたので、エルヴィン様が大荒れで大変だったんですからね!」

「大荒れ?」

「あらまあ、聞きたいわ」


 首をかしげるシャルロッテに対し、アルマはにやにやとしながら興味津々で耳を傾ける。


「それはもう、ナイフとフォークを間違えてまともに食事もとれないし」

「まあ!」

「水を飲みながらグラスを放すのを忘れて溺れかけたり」

「あら!」

「訪問してくださったクリストフ様への紅茶をこぼしてお召し物を汚したり」

「それはなんだかクリストフ様が逆に喜んでからかってそうですね」

「それはそれは大変で毎日メイドは大変でした。仕事もまったく進んでいなかったようなので、レオン様の怒号が家中に響き渡っておりました」


(そんなことがあったのね。あとでレオン様には何かお詫びを持っていきましょう)


 「まあ」と言って少し時間を置くと、今度は静かな声で少し嬉しそうにラウラは語った。


「でも、初めてかもしれません。あんなに人間らしい、弱みを見せてくださったのは。私たちメイドや執事にも弱みをなかなかお見せにならない方でしたから」

「……」

「シャルロッテ様のおかげです。ありがとうございます」


 そう言ってお辞儀をするラウラにシャルロッテはしゃがんで目線を合わせながら言う。


「私のおかげではありませんよ。皆さんがエルヴィンさまの心を溶かしているのだと思います。このお家の方々は本当に優しいです。そのお気持ちがエルヴィンさまに伝わったのだと思います」


 ラウラは少し涙ぐむと、心の中でシャルロッテとエルヴィンに仕える身で良かったと感じた。

 その微笑ましい様子にアルマも横でそっと見守りながら笑顔を見せた。


「でも、シャルロッテ様が目覚めた後にすぐに私を呼ばなかったのは本当に恨みます!」


 今度は燃えるように怒りながら顔を歪めるラウラに、シャルロッテは戸惑いながらなだめ、アルマは盛大に大笑いしていた。

 やがて、マナー講習も一段落したところで、ドアをノックする音が響き渡る。


「はい!」

「私だ、エルヴィンだがシャルロッテはいるだろうか」

「今開けます!」


 シャルロッテはドアのほうに駆け寄ると、扉を開けてエルヴィンを招き入れる。

 部屋に入ったエルヴィンはアルマに挨拶をしながら、伺いを立てる。


「アルマ先生、シャルロッテのマナーテストを私のほうで行いたいのだが、今日はこれからシャルロッテをお借りしてもよろしいだろうか」


 アルマはエルヴィンの意図がわかったようで、一瞬にやりとしたあと「ええ、構いませんよ」と答えた。


「シャルロッテ、じゃあ行こうか」

「え?」


 わけがわからないままシャルロッテはエルヴィンに腕を引かれてある場所へと向かった──。



 二人が到着したのはアイヒベルク邸の大きな庭園だった。

 あまりきちんと訪れたことがなかったシャルロッテはもの珍しそうに草花を眺める。


「綺麗ですね」

「ああ、先代のアイヒベルク公爵夫人、まあつまり私の母上なのだが。彼女は花が好きな人でね。この庭園は父上が母上のために作った庭なんだ」


 そう言ってバラの花びらをなでると、懐かしそうに微笑んでどこか遠い目を向ける。

 シャルロッテはそんな彼の様子を黙って見つめていた。

 エルヴィンに連れられてガゼボにやってくると、先に到着して準備をしていた様子のレオンが出迎える。


「こんにちは、レオンさま」

「様だなんて……、俺はそんな大層な人間ではないですよ」

「大層でない人間とは私は思いません。それに、先日は私のことでお仕事が滞ってしまい、申し訳ございませんでした」

「そんなっ! お気になさらないでください!」


 微笑ましい光景に思えたこの会話も、エルヴィンには少し思うところがあったようでレオンに視線を送る。


「エルヴィン様! そんな目で俺を見ないでください!」

「私を差し置いて仲良くシャルロッテと話すなんて、覚悟はできているんだろうね?」

「待ってくださいよっ! あんまりにも不条理すぎますって!」


 不穏な雰囲気もシャルロッテには、エルヴィンが楽しそうにしているように見えてとても嬉しかった。

 口元に手を当てて、ふふっと笑って見せる。


「シャルロッテも、笑うんじゃないよ」

「ごめんなさい、でもエルヴィンさまが楽しそうでつい」


 その言葉にエルヴィンとレオンは顔を見合わせると、それ以降は口喧嘩を止めた。

 エルヴィンはシャルロッテに椅子に座るように促すと、自分も席に着き、レオンに合図をする。

 レオンはワゴンに事前に用意していたアフタヌーンティーのセットを用意してテーブルに並べると、お辞儀をして邸宅の中へと入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ