おまけ(第14.5話) お茶会をしましょう
お話としては、第14話と第15話の間のお話になります!
クリストフの訪問から数日が経った頃、シャルロッテは自室で本を読んでいた。
(このシリーズ好きなのだけれど、続編はないのかしら?)
好きな本の続刊がないことに気づき、落ち込んでいるとドアをノックする音と共にラウラが入って来る。
「シャルロッテ様、温かい紅茶をお持ちしました」
ラウラがシャルロッテのいるテーブルの前にフレーバーティーを置くと、シャルロッテのしゅんと落ち込んだ顔を覗き込んで聞く。
「どうかされましたか?」
「ええ、このシリーズの続編を読みたいのだけれど、本棚を探してもなくて」
どれどれといった様子でラウラはシャルロッテの持っている本を見つめる。
すると、「ああ!」といった様子で手をポンと叩くと、シャルロッテに続刊の場所を告げる。
「確か、それエルヴィン様もお好きで職場に持って行かれていた気がします」
「まあ、じゃあここにはないのね」
ラウラは少し考え込むと、いい案が浮かんだというように表情を明るくしてシャルロッテに相談を持ち掛けた。
「シャルロッテ様、そう言えば最近レオン様から聞いた話によると、甘いものが欲しいとエルヴィン様が呟いていたそうです。キッチンに出来たてのお菓子があるので、職場に持って行っていただけないでしょうか?」
「え!? 私が行ってもいいのですか!?」
「もちろん、きっとエルヴィン様もシャルロッテ様とアフタヌーンティーができたら午後からの仕事もはかどりますわ! では、今持ってきますので少々お待ちください!」
そう言って嬉しそうにキッチンへと向かって行ったラウラの後ろ姿を見送ると、シャルロッテは外出する準備をした。
「それでは行ってらっしゃいませ」
「行ってきます」
ラウラの見送りに手を振ると、シャルロッテは馬車に乗ってエルヴィンの職場である王宮の一室へと向かった。
(馬車に乗るのはこれで二回目ね。まだちょっと慣れないけれど)
そう心の中で思い、緊張しながらシャルロッテはじっと座って到着を待つ。窓から見える景色を眺めながら、一息吐く。
(馬車からの景色ってこんなに綺麗なのね。緑豊かだと思ったら、もう市街地に着いて賑やかになってきたわ)
今までの馬車の旅はシャルロッテにとってゆっくり楽しむものではなかったため、今回のお使いはとても心穏やかなものになり、心を癒した。
馬車が王宮の一角に停車すると、御者がシャルロッテに一礼して合図をする。
(ここが、王宮……)
初めて見る王宮を見上げて、その大きさや豪華さに圧倒される。
(こんな広い場所でエルヴィンさまを見つけられるかしら?)
そう思いながらそっと王宮の入り口に立ったところ、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「シャルロッテ嬢?」
「クリストフさまっ!」
クリストフはシャルロッテの姿を捉えると、王宮の入り口まで走ってきた。
「どうしたんだい、こんなところで」
事の仔細を話すと、クリストフはラウラの意図を読み取ったようで、顎にて手を当ててにやりと笑った。
「エルの執務室ならこっちだよ、おいで」
「ええ。ありがとうございます!」
シャルロッテはクリストフのあとについていった。
「やあ、エルっ! 仕事はどうだい!?」
「うるさい、帰れ」
「いや、その一言はひどくない!?」
エルヴィンは自分の机で署名をしている手を止めずに、声だけで返答していた。
「エルヴィン様、さすがに王子に王宮でもその態度で大丈夫ですか?」
「よく言ったレオン! そうだぞ!! 王子だぞ!」
「第一王子ならばこんなところで油を売っていないだろう。幻想だ」
「いいのか~? そんな態度を取って」
エルヴィンは何やら今日は様子がおかしいと感じ取ったのか、やっと仕事の手を止めてクリストフのほうに目を向ける。
「ふふふ。さて、ここにいる囚われのお姫様がどうなってもいいのかな?」
にやりと悪役のような顔つきをすると、自らの後ろに隠れていたシャルロッテの両肩に手を添えてそっとエルヴィンに見えるようにする。
「なっ!」
「シャルロッテ様っ!」
エルヴィンは机から立ち上がり、レオンが大きな声で叫ぶ。
「シャルロッテ、どうしてここに」
「すみません、ラウラからお使いを頼まれて、エルヴィンさまとレオンさまにアフタヌーンティーをお持ちしました」
隣でふんふんと頷くクリストフは、そっとシャルロッテにウインクして合図するとエルヴィンのほうへと送りだした。
シャルロッテは簡易的に包みに入れられたお菓子をエルヴィンに渡す。
「これを私に?」
「はい、甘いものが職場で欲しいとおっしゃっていたようなので」
「ああ、確かに欲しいとは言った気がするが、まさかシャルロッテが届けてくれるとは思わなくて」
レオンはその様子を微笑ましそうに見つめると、人数分の紅茶の用意を始める。
「じゃあ、みんなで休憩ってことで、王子も飲んで行かれますよね?」
「私も、いいのかい?」
「いいですよね、エルヴィン様」
「ああ、今日だけだ」
こうして、シャルロッテを囲んでの王宮アフタヌーンティーが始まった。
今日の紅茶はオレンジピールの入った紅茶で爽やかな香りがするフレーバーティーだった。
「いい香りですね」
「ああ、これは北方で採れたオレンジで作った紅茶だよ」
「ああ、エルが特産にしようと企んでるやつか」
「その言い方はよしてくれ」
その紅茶に舌鼓を打っていたところで、クリストフがシャルロッテに耳打ちをする。
「シャルロッテ嬢、本の話はしなくていいのかい?」
「あっ」
「どうしたんだい、シャルロッテ」
シャルロッテはこのお茶会が、お菓子をきっかけに本の話をして来ておいでというラウラからのメッセージだということに気づき、エルヴィンに聞いてみた。
「エルヴィンさま、『星の夜』というシリーズの七巻以降をお持ちでしょうか?」
「ああ、今ここにあるけどどうしたんだい?」
「実は六巻まで読んでしまって続きが読みたくて……」
もじもじとするシャルロッテにエルヴィンは微笑むと、さっと椅子から立ち上がり本棚から三冊ほどの本を持って来る。
「これが続刊分だよ。家でゆっくりお読み」
「わあっ! 表紙も素敵ですね! ありがとうございます!」
そんな嬉しそうな様子を見て、エルヴィンはクリストフに礼を言う。
「ありがとう、クリストフ」
「私は何もしていないよ、お礼ならラウラ嬢に言うといい。彼女が今回の発起人だ」
「そうか、家に帰ったら礼を言っておくよ」
エルヴィンは大事そうに胸の前で本を抱えるシャルロッテを見つめて、目を細めて笑った──。




