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第18話 この感情はなに?

 それから数日後、朝食の後にシャルロッテはエルヴィンの執務室で話をしていた。


「え? お仕事で王都の郊外に?」

「ああ、そうなんだ。どうしても仕事で行かなければならなくて、家をあけるのは申し訳ないのだけれど」

「私のことは気にしないでください。ラウラもいますし、マナーのお稽古もたくさんしておきますので!」


 シャルロッテと話すエルヴィンの隣では、エルヴィンの側近であるレオンが荷物を詰めている。

 ゆっくりとエルヴィンはシャルロッテに近づくと、彼女の腕を引き、抱きしめた。


「エルヴィンさまっ!?」

「ああ、しばらく会えないと思うと辛いよ。こうして抱きしめてシャルロッテのぬくもりを感じることもできないなんて」

「ま、また帰って来られるのですよね?」

「もちろんさ。帰ってこられないような任務を与えていたら、クリストフを縄で縛りしばらく僻地に置いておくよ」


(クリストフさま、今すぐ逃げてください)


 すると、抱き合う二人に向かってレオンが「こほん」と咳払いをしてエルヴィンに退出の合図をする。

 エルヴィンはシャルロッテに見えないようにレオンに向かって「いいところなんだから邪魔をするな」と視線を送るも、主人のことを熟知したレオンはすでに目を逸らしていた。


「じゃあ、行ってくるよ。家のことはみんなに任せているし、何かあればラウラを頼るといい」

「あ、はいっ! かしこまりました」


 離れがたいのかゆっくり腕を離すと、今度はシャルロッテのおでこに唇をつけた。


「ひゃっ!」

「帰ってきたら続きをしよう」


 そう言って自室から出ていくエルヴィンをシャルロッテは寂しそうに見つめる。

 シャルロッテは最後に触れ合ったおでこにそっと手を持っていくと小さな声で呟いた。


「寂しいです」


 誰もいなくなったエルヴィンの部屋にシャルロッテのか弱い声が消えていった。



◇◆◇



 シャルロッテはほぼ毎日マナーの練習に勤しみ、おおよそのマナーを身に付けるところまで成長した。

 初めの頃とは比べ物にならないほどの上達ぶりに、アルマも手放しに褒める。


「シャルロッテ様、完璧でございます!」

「ラウラ! アルマ先生に褒められたわ!」

「さすがシャルロッテ様です! 素敵なレディに近づいております!」

「ええ、もっとがんばらないと! あ、そうだエルヴィンさまにこのことを……」


 そこまで言ってエルヴィンが家にいないことに気づく。

 顔色が曇っていくシャルロッテに対して、ラウラはそっと近づき、背中を撫でる。


「もうすぐですよ、きっと。帰ってきたらたくさんお話できます」

「そうね……」


(大丈夫、一人は慣れているもの。エルヴィンさまが帰ってきたときの嬉しさが倍になるわ)


 シャルロッテはそう自分に言い聞かせて自室へと戻る。


 ドアを閉めて自室のベッドに座ると、そのままぽふっと仰向けに寝る。

 シャルロッテの頭の中ではエルヴィンの優しい微笑みや頬に触れられたときの感触、抱きしめられたぬくもりが思い出された。


(どうして、こんなに寂しいの?)


 自分自身をぎゅっと抱きしめてみても、エルヴィンの腕の中のような満足感はない。


(エルヴィンさまの声を聞きたい。お話したい。もう一度抱きしめてもらいたい……)


 シャルロッテは形式上の妻ではなく、もう一人の女性としてエルヴィンを欲していた。

 彼女の頬には寂しさで涙が伝う。


「お仕事なんてなければいいのに……」


 思わず口をついて出てしまった言葉にシャルロッテは驚く。


(私、なんてこと……一生懸命お仕事なさっているのに)


 シャルロッテはベッドの上で天井を見上げながら何度も考える。

 しかし、何度考えても「エルヴィンに会いたい」ということしか出なかった。


(経験したことないこの変な感情はなんなのかしら)


 恋をしたことがない彼女が、これが恋であることに気づくのはもう少しあと──。

プチざまあもうすぐです!!

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