第14話 幼馴染でもあり、友である
エルヴィンは十七歳の頃、父親と母親を失くしてしまう。
エルヴィンの両親は休日に外出でデートを楽しんでいたところを、暴漢に襲われて命を落とした。
──正確には、襲われた母親を助けるために父親も一緒にナイフで刺されたのだ。
若くして両親を失くしたエルヴィンは弱冠十七歳でアイヒベルク家の当主となり職務を全うするようになった。
その頃だった、クリストフが頻繁にエルヴィンに会いに来たのは──。
「なあ、エル。実は街にあるカフェのメイドさんがすごくかわいいんだけど、告白うまくいくと思う?」
「あなたはご自身の立場をおわかりになっているのですか? 第一王子がそのような平民と結ばれるわけがありません」
儚い恋心を相談するクリストフにエルヴィンは冷たい言葉をかける。
エルヴィンは両親の死をきっかけにすっかり人が変わったように冷たく人に接し、自分に厳しくあろうとした。
それは、若くして当主──アイヒベルク公爵を引き継いだことへの彼なりのけじめだった。
「そのよそよそしさやめろ、お前らしくない」
「私に、『私らしさ』など必要ではありません」
その言葉を聞くとクリストフはエルヴィンの胸倉をぐっと掴んで目を細めた後、真っすぐにエルヴィンの目を見つめた。
「なんでも一人で背負い込むな! お前ひとりで全部の悲しみ背負ったみたいなその目も態度も気にくわないんだよ! もっとまわりを信じろよ、頼れよ!!」
いつも柔和で軽口を叩く幼馴染の従兄弟の激情ぶりに、エルヴィンは思わず生唾を飲んで黙るしかなかった。
そしてクリストフは息を切らせながらゆっくりとその手を離すと、子犬のようなか弱い目でエルヴィンを見つめる。
「だから、もうそれ以上一人で悲しみを背負わないでくれ。頼むから、俺を頼ってくれないか?」
エルヴィンはそのクリストフの表情を見て、くすっと笑った。その笑顔を見てクリストフが抗議する。
「な、なんで笑うんだよ!」
「いや、悪い。あまりにもお前が捨てられた子犬のような顔をしていたから」
「か、可愛いってことか!?」
「いや、違うな」
クリストフはエルヴィンの言葉にギャーギャーと抗議しているが、彼はそれにまともに取り合わずに仕事である手紙の執筆を始めた。
しかし、思うところがあったのか、そっとその筆をおいてクリストフに声をかける。
「クリストフ」
「なんだ?」
「たまになら来てもいいぞ、うちに」
これはわかりやすい本音を隠すためのカバー。
彼の性格を知っているクリストフはそれを感じながらも、黙って頷いた──。
シャルロッテは二人の意外な過去をじっと黙って聞いていた。
「そんなことが……」
「ああ、あのとき言えなかったが、あいつに救われたのは事実だ」
「信頼なさっているんですね、クリストフさまのこと」
「ああ、そうかもしれないな」
そう言ってふっと笑うエルヴィンの様子を、シャルロッテも嬉しそうに眺めていた。
その夜、シャルロッテはラウラからの伝言でエルヴィンに呼ばれ、彼の部屋に向かっていた。
(やはり、昼間のクリストフさまの訪問の際、何か失礼なことをしたのでしょうか)
シャルロッテは不安を抱えながら、ドアをノックする。中から「入っていいよ」という声が聞こえたため、そっとドアを開けて入った。
すると、シャルロッテの身体が全て部屋に入る前に腕を引かれて中に入る。
そのままシャルロッテはドアの傍にあった壁に押しやられ、エルヴィンは彼女の顔のすぐ横に手のひらをつく。
「エルヴィンさまっ!?」
シャルロッテは壁に背がつき、エルヴィンのさらさらの黒髪と顔がすぐ近くに迫っている。
蒼い目がシャルロッテを捕らえて離さず、まるで石になったように動けない。
吐息と吐息が重なるほどの距離になったときに、エルヴィンはシャルロッテの長い髪と首元に顔をうずめる。
シャルロッテはこそばゆく、もぞもぞとして逃げようとするが、今度は足で逃げられないようにガードされてしまう。
「ん~っ!!」
目をぎゅっとつぶるシャルロッテの首元に、エルヴィンは唇をつけた。
シャルロッテはぺろりとなめられる感触がしたあと、今度はまた唇で吸い付かれる感覚に襲われる。
「え、エルヴィンさま……」
シャルロッテは恥ずかしさとこそばゆさを感じて体をよじるが、エルヴィンが細身だがしっかりと筋肉のある身体で押さえつけているため、身動きできない。
シャルロッテは胸が苦しく呼吸が乱れて、顔を赤く火照らせる。
「シャルロッテ……」
彼の吐息が耳元にかかり、熱がシャルロッテに伝わってくる。
「エル、ヴィンさまっ……」
そして、ようやくエルヴィンは首元から顔を離し、シャルロッテの潤んだ目を見つめる。
それまでの熱っぽい表情とは違い、今度はいつものような優しい顔つきでシャルロッテの頬をなでた。
「ごめん、どうしても耐えられなかった」
「どうかされたのですか?」
少し目に涙をためるシャルロッテに気づき、エルヴィンは細い指先で涙をそっと拭う。
「ごめん、君を泣かせるつもりはなかったんだ。許してくれ」
「構いません、少し驚いただけです」
エルヴィンは頬を撫でていた手を今度はシャルロッテの髪に持っていき、そっと撫でる。
「君がクリストフに触られたのをみて、あのあと仕事が手につかなかった」
(触られた?)
シャルロッテは言われて一瞬なんのことがわからなかったが、顔をゆがませた彼を見て思い出す。
(あ……手の甲に唇をつけられたあのこと)
「あの場では感情的ではないといったけど、心の中ではものすごくどろどろと嫉妬の波に襲われていたよ」
「嫉妬?」
「もしかしたらシャルロッテはまだその気持ちは未体験かもしれないね。すごく辛いものなんだ、そして醜い」
「でもエルヴィンさまは私のことを思って『嫉妬』してくださったのでしょう? ならば私は嬉しいです」
シャルロッテはいつもしてもらうように、エルヴィンの頬をなでて微笑む。
「エルヴィンさまから想ってもらえて、私は幸せです」
無邪気な笑顔を見せるシャルロッテに、エルヴィンはさらにまた彼女が愛おしくなる。
「君って子は……本当に私の扱いがうまい」
「え?」
「でもいけないよ、煽りすぎると」
そう言ってエルヴィンはシャルロッテの腕を力強く引き寄せると、そのまますぐ近くにあったベッドへと押し倒す。
「エルヴィンさまっ!?」
シャルロッテに負担がかかりすぎないように覆いかぶさると、そのまま先程のように彼女の首元に顔をうずめる。
そのままシャツに手をかけると、首元からゆっくりと唇を滑らせていく。
「くすぐったい……」
「くすぐったい? 恥ずかしいじゃなくて? まだ足りないのかな?」
そう言うと、エルヴィンはシャルロッテの腕をベッドの枕のほうへと持っていくと、そのまま片手で押さえつける。
そこにちゅっとした後、再びシャルロッテの首元に吐息をかけて、そのまま服の上から胸元に再び唇をつけた。
「エルヴィンさまっ!? どうしたのですか!?」
「どうした? 君が煽ったんだよ、私を。こうされることを期待してたんじゃないのかい?」
今度は髪を掬いあげると、耳元で甘く囁く。
「どうしてほしいの? 私に」
(何これ、お腹がきゅってする。感じたことないふわふわとした感覚。なんなの、これ。エルヴィンさまがそうさせてるの?)
シャルロッテは甘く囁かれる吐息を耳元で感じると、どうしていいかわからずにぎゅっと目をつぶった。
それを見てエルヴィンはシャルロッテの唇に自らの唇を近づける。
唇が重なるその瞬間に、シャルロッテが懇願するように名を呼ぶ。
「エルヴィンさまっ……」
その祈るようなか細い声に、エルヴィンは唇をきゅっと噛みしめた。
「エルヴィンさま……?」
「今度は逃がさないからね?」
自らの唇の目の前で人差し指を立てて、警告する。
普段の見守るような瞳の奥に獣のような強欲で色気のあるエルヴィンを見て、シャルロッテは顔を赤くして俯くしかなかった──。
かなり甘々なお話でした!!!




