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第12話 マナー講座は「萌え」の連続!?

 テーブルマナーの勉強はカトラリーの種類や食器の違いなどを知るところから始まった。

 どれも普通の令嬢であれば知っているような知識もシャルロッテにはない。

 ナイフ、フォーク、スプーンなどこれらの名称を覚えるところからスタートする。


「シャルロッテ様、これがフォークでございます」

「あ、これはエルヴィン様に教えていただきました。サラダを食べたり、パスタも食べられたりする優れものです。こうして巻き付けてパスタは食べるそうです」


 言いながらフォークをくるくると回し、パスタを巻く動作を再現する。

 そして、そのまま口元まで運び、口を開けてぱくりと食べるシーン付き。その様子を見て、アルマは悶え苦しむ。


「なんて可愛いお人なの、これは惚れてしまうのもわかるわね……」

「え?」

「いえ、なんでもございません。続けましょう」


 アルマは口元を少し手で隠して目を逸らすと、シャルロッテにそう告げた。


「アルマ先生、これはどのようなものですか?」


 そう言ってナイフを持つと、切っ先をアルマのほうに向ける。


「シャルロッテ様! 危ないのでそれは人に向けてはなりません」

「あ、ごめんなさい!」


 慌ててシャルロッテはテーブルに置くと、弾かれたように手を後ろにやって「触りません」という意思表示を示す。

 その仕草はまるで怒られた子供のようで、アルマはまた口をぎゅっと紡ぎながらわなわなと震えて小声で呟く。


「ま、またそんな可愛らしい……これはもう私への拷問かしら? え? なんてことをしてくださったのかしら、アイヒベルク公爵は」


 マナー講習を後ろから見守っていたラウラはこのとき、「わかるわかる。先生もシャルロッテ様の可愛らしさに気づいてしまったのね」と思いながら、うんうんと頷く。


「こほん。えーナイフはですね、何かを切って食べるときに使うものです。シャルロッテ様がお持ちなのは前菜用のナイフで、前菜は食事の最初に登場するお料理をいいます。それからお肉やお魚のようなメインのものはこのナイフを使います」


 実際にナイフをいくつか触りながらシャルロッテに見せて教える。

 こくこくと頷きながら聞くシャルロッテは、わからないことがあると言葉の途中でう~ん?といった感じでゆっくりと小首をかしげる。

 その可愛らしい天然な表情と仕草が、アルマやラウラの心をくすぐり、時には悶えさせた。


「シャルロッテ様。今度は実際に食事をしながら学んでみましょうか」

「実際に食べるのですか?」

「ええ、今日は前菜とスープにしましょう。ラウラ様、お願いしていたものをこちらに持ってきてもらえますでしょうか」

「はい、お料理はできております。すぐにお持ちいたしますので、少々お待ちくださいませ」


 ラウラはお辞儀をすると、キッチンのほうへと向かって行く。


(実際にもう食べる練習だなんて大丈夫かしら)


 シャルロッテは不安になりながらも、アルマに促されて席に着く。

 キッチンから戻ったラウラはワゴンで食事を持って来ると、そのままシャルロッテの目の前に配膳を始める。


 やがて、前菜のサラダのお皿が目の前に置かれると、アルマが手をそっと差し出すようにして「どうぞ」と促す。


「普段の料理ではもっと複雑なものが出てまいりますが、まずは簡単なサラダから食べてみましょう。ラウラ様にお願いをしていつも朝食で出しているサラダをご用意いただきました。召し上がってみてください」

「は、はい」


 シャルロッテは恐る恐るフォークを手に取って、教えてもらったように持つと、そのままトマトを刺して食べる。

 だが、刺したはいいがいつもより大きくカットされたトマトは口に入らない。

 何度も口を開けて入れようとしては閉じ、入れようとしては閉じ、と繰り返してこれまた謎の仕草でアルマを悶えさせる。

 いけない、いけない、と自分を律するように首を振ると、アルマはシャルロッテの後ろからそっと前菜用のナイフの存在を教える。


「シャルロッテ様。大きくて口に入らない場合はこの前菜用のナイフで切って召し上がってください」

「やってみます!」


 教えられた通りにトマトをぎこちなく切ると、小さくなったトマトを口に入れる。

 口いっぱいにオリーブオイルのいい香りが漂い、シャルロッテは満足そうに笑みを浮かべる。


「美味しい、美味しいわ、ラウラ!」

「あ、ありがとうございます!」


 後ろを向きながら嬉しさを伝えるシャルロッテに、ラウラは不意を突かれたが、すぐにお辞儀をして礼を返した。

 できた喜びというエッセンスが加わり、より美味しく感じたのかするすると食べていくシャルロッテ。

 アルマも満足そうに見つめていたが、問題はスープのときに起こった。


 前菜を食べ終え、次にスープが並べられると、シャルロッテは嬉しそうな表情を浮かべる。


(スープは毎日飲んでいたもの。上手に飲めるはず)


 そう心の中で思ったシャルロッテは、早速スプーンも使わずにそのまま器に口をつけて飲み始める。


 あまりのマナーのなさにアルマは驚いたが、一つ息を吐いて落ち着かせると、シャルロッテの腕を握って彼女の動きを止めた。

 その様子にシャルロッテは不思議そうに首をかしげると、そっとスープ皿をテーブルに置いてアルマのほうを見つめる。


「私、もしかして何か間違ってしまったのでしょうか?」

「ええ、一番良くない間違いね。シャルロッテ様、マナーはどうしてあるかわかりますか?」

「どうして、ごめんなさい、わかりません」

「大丈夫ですよ」


 アルマは優しく微笑むと、シャルロッテの目を見つめて答えを言った。


「マナーは『人を不快にさせない』ためにあります。だから皆マナーを学ぶのです」

「人を不快にさせない……」

「まずスープは音を立てて飲むものではありません」

「えっ……」

「それから、器に口をつけて飲むのも良くありません。スープを飲むときはこのスプーンで手前からゆっくりとすくいあげて飲みます。それで……」


 アルマはシャルロッテの異変に気付き、言葉を止める。

 シャルロッテに目を向けると、俯いて落ち込んでいるように見えた。


「シャルロッテ様。いかがいたしましたか?」

「アルマ先生、私とてもマナーがなっていないのはわかっていたのですが、こんな状態で食事をしてエルヴィンさまを不快にさせていたと思うと、自分が許せません」


 シャルロッテは自分の手を揉み、落ち着きのない様子を見せながら目を泳がせた。

 アルマは落ち込むシャルロッテの肩にそっと手を置くと、そのまま自分の胸に引き寄せる。


「大丈夫です、アイヒベルク公爵はそのようなことで侮蔑するような方ではありません。私が保証します。だから、今までを振り返って嘆くのではなく、前を向いて立派な妻となるように頑張りましょう」

「前を向いて……」


 シャルロッテはラウラから言われた言葉をふと思い出していた。



『シャルロッテ様はとても素敵なんです! もっとご自身に自信を持ってくださいませ!』



 後ろを振り返ってラウラを見ると、ラウラはにこやかに笑って大きく頷く。


(そうだわ、ラウラと約束したんだもの。自信を持って頑張ると。だから私は……)


「アルマ先生、ごめんなさい! 私、自信をなくしていました。これからは前を向いて一生懸命頑張ります。どうか、ご指南よろしくお願いします!」


 すっと立って直角になるほどアルマに頭を下げると、アルマはそっとしゃがんでシャルロッテの目を見つめる。


「アイヒベルク邸の皆さんに加え、私もあなたの味方です。あなた様は人を魅了する存在です。今はマナーがうまくできないかもしれませんが、必ずあなた様は輝いて立派になられます。私が保証します!」

「ありがとうございます! がんばります!」


 そう言うと、シャルロッテは教えてもらったようにスプーンでひとすくいして飲んだ。



 ラウラはそっとドアのほうに向かい、壁に背中をつけてシャルロッテを見つめながらある人物に言葉を発した。


「さぼっていたらレオン様に叱られますよ?」


 ドアの向こうの廊下からこっそり覗く黒髪のその人物は、優しい声色で語る。


「レオンには外の仕事に行かせた。これで私はしばらく自由だよ」

「全く、昔のあなた様からは考えられないお姿です」

「ああ、私もそう思うよ」


 そう言ってシャルロッテが奮闘する姿をその人物は優しい微笑みで見つめていた──。

アルマ先生もラウラも、シャルロッテにやられてます。

可愛いの渋滞が頭の中で起きています(笑)


最後の黒髪の男性は誰でしょうね!(きっと、あの人だと皆様もわかりました?)


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