第11話 このラウラに頼ってくださいな!
立派な妻となる覚悟を決めたシャルロッテは翌日からマナーに励んでいた。
エルヴィンはシャルロッテのためにマナー講師を頼み、その講師の到着が明後日以降になるため、今日はラウラがシャルロッテの自室で軽くマナーを教えていた。
「シャルロッテ様、講師の先生にするご挨拶を練習しましょうか」
「それなら知っているのだけれど、これで間違っているかしら?」
そう言ってシャルロッテはたどたどしいカーテシーを披露して見せる。
それはなんとなく自信なさげで不安定なお辞儀にしかなっていない。
それを見たラウラは首を横に振る。
「シャルロッテ様、それではいけません」
「間違った……?」
「まずはその自信のなさを克服しましょう! もっと優雅に自信もってご挨拶ください」
「こ、こうかしら?」
先ほどよりも胸を張って動作を大きくしてカーテシーを披露する。
その挨拶を見たラウラは満足そうににこりと笑う。
「完璧です! シャルロッテ様はとても素敵なんです! もっとご自身に自信を持ってくださいませ!」
そう言ってシャルロッテに優しい声色かつ芯の通った声でラウラは言う。
「自信……そうね、もっと自信もってやらなくちゃいけないわよね」
「その意気です。どんなシャルロッテ様でも私は味方です。安心してたくさん練習してください」
私を練習台にしなさい、とでも言うかのように包み込むような大きな優しさを見せるラウラに、シャルロッテは自然と笑みがこぼれた。
「ありがとう、ラウラ。ラウラがいてくれてほんとに良かった」
「そう言っていただけるとメイド冥利につきます」
二人はそれからしばらくの間カーテシーの練習に勤しんだ──。
カーテシーの挨拶の練習を続けるシャルロッテのもとに、マナー講師が到着した。
練習用に用意された部屋に先生を招き、シャルロッテはカーテシーで挨拶をする。
「先生、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、シャルロッテ様よろしくお願いいたします。私のことは気軽にアルマとお呼びくださいませ」
「アルマさん。改めてよろしくお願いします」
「アイヒベルク公爵からは厳しくとのご伝言を頂戴しております。ビシバシいきますので、よろしくお願いいたします」
「は、はい!」
シャルロッテは「厳しく」という言葉に反応し、少しドキリとするが、背筋を伸ばして一息つくと、先生を真っすぐ見つめた。
「では、早速ですが、本日はテーブルマナーといたしましょう」
「テーブルマナー、お食事のときのマナーで合っていますか?」
「はい、その通りです」
その言葉を合図にメイドたちがテーブルにカトラリーやグラス、お皿などを並べていく。
お茶会と違って、食事はこれまでも何度もしたことがあったが、やはり正式なマナーとなるとシャルロッテは戸惑いを覚えていた。
(これは確か、カトラリーと言うのよね? えっと、あれ? これは全部を言うのかしら? すぷーんというのもあったような……)
カトラリーをじっと見つめる様子をアルマは見ると、笑ったり蔑んだりするのではなくそっとテーブルにあったスプーンを一つ手に取ってシャルロッテに手渡す。
「これが『スプーン』というものです。スープなどをすくって飲むのに使います。シャルロッテ様はお使いになったことはありますか?」
「い、一度だけエルヴィン……夫の様子を見ながら使おうとしたことはあるのですが、うまく使えませんでした」
申し訳なさそうに呟くシャルロッテのスプーンを握った手を、アルマはそっと自らの手で包み込んで言う。
「私の前ではどうか気楽にいてください。エルヴィン様と呼んで大丈夫ですよ。それと、わからないことを恥ずかしいと思わないで、ゆっくりでいいので私に打ち明けてください」
嘲笑うのではなく、ありのままを受け入れようとするアルマの姿にシャルロッテは弱い自分を自覚して受け止める決意を見せる。
「はい、私、自分と向き合います。アルマ先生、どうか厳しく教えてください」
そう言って頭を下げるシャルロッテの素直さに、アルマは慌てて頭を下げた──。
ラウラ頼もしいです!大好きです!




