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第10話 甘いランチをご一緒に

 シャルロッテは目が覚めると涙で腫れた目をこすってベッドから起き上がる。

 ベッドの隣の椅子には自ら腕枕をして眠るエルヴィンの姿があった。


(エルヴィンさま……)


 昨夜、エルヴィンの肩に頭を乗せて身を預けながら、シャルロッテは眠りについた。

 彼は静かに眠るシャルロッテを起こさないようにそっとお姫様抱っこをすると、自分のベッドへと寝かせる。

 柔らかいシルクの生地のシーツが、シャルロッテを優しく包み込んだ。


「ん……」


 心地良いのかシャルロッテはもぞもぞと動いてシーツに顔をうずめていく。

 エルヴィンはその様子が愛しくてしょうがなく、起こさないようにそっと微笑みながら暖炉の火を消しにいった。


「ゆっくりおやすみ、シャルロッテ」



 こうして二人は眠り、起きた頃には朝食の時間をとっくに過ぎていた。

 シャルロッテが起きた気配を感じ、エルヴィンも目を覚ます。

 エルヴィンは自分の目の前で目をこするシャルロッテの腕をがばっと掴み、慌てて止めた。


「ダメだよ、シャルロッテ。腫れているときはこすっちゃ」

「あ、そうなのですか……」


 涙を流したことがあまりなかったシャルロッテは、目が腫れることなど意識したことがなかった。

 それに他人からもこのように愛情をかけてもらったことがなかったため、彼女はエルヴィンのその言葉に嬉しくなる。

 すると、ふとエルヴィンがシャルロッテの手を握り、そっと自分の唇のもとへ寄せた。


「エルヴィンさまっ!?」

「ごめん、君が愛しい気持ちがあふれて止まらなくなってしまったんだ」


 その言葉にシャルロッテは子供のように無邪気な笑顔を見せて、エルヴィンの首に抱き着いた。

 あまりに唐突で予想外の反応にエルヴィンは驚いて、目を丸くした。


「エルヴィンさまはいつも私にその貴重な愛情表現を向けてくださいます。私も少しでもお返ししたくてぎゅっとしてみました。いつも自分で自分をぎゅっとして心を落ち着かせていたのですが、だれかとぎゅっとするのはこんなにも、きゃっ!!」


 シャルロッテが言い終わる前にエルヴィンは彼女を強く抱きしめてそのまま抱きかかえる。

 エルヴィンは彼女の顔を見上げると、彼女のおでこに自分のおでこをくっつけて微笑む。

 それはそれは優しく甘い顔でシャルロッテに愛情を注ぐ。


「エルヴィンさまっ?」

「ほんとになんて可愛いんだ、私の奥さんは。どうかなってしまいそうだよ」

「え!? それは困りました、どこか体の調子が悪いのですか!?」


 シャルロッテはいたって真剣な顔でエルヴィンを見つめて、焦ったように心配をする。

 その心配する様子を見つめて、エルヴィンはくすっと笑うと彼女をその場に降ろした。


「大丈夫だよ、これは『特別な病』。君にしか治せない特別なね」

「どうしたら治りますか?」

「そうだな~じゃあ、私と一緒にこれからランチをしてくれるかい?」

「ランチだけでいいのですか?」

「うん、今はね」


 シャルロッテは最後のエルヴィンの言葉に小首をかしげながらも言う通りにすることにした。


「さて、じゃあラウラに何かランチを作ってもらおうか」

「はいっ!」


 それから二人はたわいもない話をしながら、ダイニングへと向かった──。



「おはようございます、エルヴィン様、シャルロッテ様」

「おはよう、ラウラ」

「おはようございます、ラウラ」


 白を基調にしたインテリアが多いダイニングの入り口で三人は朝の挨拶をする。


「ラウラ、悪いけど軽いランチを二人分作ってもらえるかな?」

「かしこまりました、すぐにご用意いたしますのでお席でお待ちくださいませ」


 そう言ってラウラはキッチンがあるほうへと向かって行く。

 エルヴィンとシャルロッテはいつもの自分の席につくと、珍しくシャルロッテから声をかけた。


「エルヴィンさま」

「なんだい?」

「私、エルヴィンさまに相応しい妻になれるようにたくさん学びたいです」

「それは昨日のお茶会が関係しているかい?」

「ええ、でも嫌な思いをしたくないからじゃなくて、立派な妻となれるように前向きに努力をしたいのです」


 その言葉を聞いて目を見開くエルヴィンは、さっと自分の席を立つと椅子に座るシャルロッテを後ろから優しく抱きしめた。


「エルヴィンさまっ!?」

「本当に君は……。私は嬉しいよ。今でも立派な妻だと思っているけれど、シャルロッテがしたいならたくさん学べばいい。そのための手配や準備はいくらでもしよう」

「ありがとうございますっ!」

 シャルロッテは嬉しそうにエルヴィンに答えると、そのまま後ろを向いてエルヴィンの首に手をまわす。

 エルヴィンは自室での出来事に加えて、シャルロッテのその純真でまっすぐな感情表現に胸を打たれ、さらに強く抱きしめる。

 彼の中で一生懸命に頑張るシャルロッテの姿が眩しく映り、そして何より愛しく思えた。


「エルヴィンさま」

「なんだい?」

「ちょっと力が強いです……」

「ごめんごめん、でもシャルロッテが可愛すぎるのがいけないよ」

「そ、そんなことは……」

「だって、さっきから何回可愛いことをしてくれるんだい。私はもう心がとても満たされているよ」

「そうなのですか?」

「ああ。君がこの家に来てからというもの、毎日が新鮮で素敵な毎日だよ。これからも私の傍にいてくれるかい?」


 シャルロッテはエルヴィンの胸に顔をうずめながら、問いかける。


「私で、良いのですか?」

「君が、いいんだ」

「なんでしょうか、このざわざわとした気持ちは。それにあたたかくて優しい気持ちになります」

「私もだよ」


 シャルロッテとエルヴィンはまた強く抱きしめ合い、お互いのぬくもりを確かめ合う。


 すると、ふと「こほん」と二人の後ろから咳払いが聞こえてくる。二人はそっと視線をそちらに向けると、二人分のランチプレートを持ったラウラがそこにはいた。


「旦那様、奥様。仲睦まじいのは良いことですが、少々他のメイドたちには刺激が強すぎます」


 わざと「旦那様」「奥様」と呼んでみせるラウラに、二人はそれぞれリアクションを取る。


「わ、ご、ごめんなさい」

「ん~いいじゃないかちょっとくらい」


 ようやく密着させた身体を離した二人は、自席に着き、ラウラの持ってきたランチプレートに口をつける。


「エルヴィンさま」

「ん?」


 シャルロッテがナイフとフォークを置いてエルヴィンの目を真っすぐ見つめて言う。


「私、エルヴィンさまをお支えできる強くて立派な妻となります。見ててください」


 覚悟を決めて強い目を見せるシャルロッテに、エルヴィンは優しい目と微笑みで応えた──。


あま~い朝(というか昼)のお食事でした!

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