第15.5章 濁る波
「なあ、カイ……最近、なんか魔力“詰まって”ねえか?」
ジークの言葉に、カイはわずかに反応を遅らせてうなずいた。
「……自分でも、ちょっとわかる」
最近、深呼吸をしても“奥まで魔力が通らない”感覚がある。
術式の発動がほんのコンマ何秒か遅れる。
そのたびに、頭の奥で微かな“金属音”のようなものが響く気がする。
「演習中、魔力の圧が変だった」
ミリナが横から付け加える。
「密度が過剰っていうより、“流れてない”。
静脈に詰まった血みたいに、重くて鈍い」
「そうかもな……」
カイは短く答えた。
けれど、本当はもっと異変を感じている。
寝つきが悪く、朝起きると周囲の物が“ずれて”いる感覚。
魔力量そのものは増えていないのに、術式が“飽和”している。
密度が、濁ってきている。
セラは遠くからその様子を見ていた。
(……これは、波が逆流してる)
彼女は知っていた。
魔力密度は高めすぎると“空間そのものに干渉”し始める。
今のカイは、表層では平静を保っていても、
魔力核の奥で“崩壊の波”が微かに立ち始めている。
(魔族でも、この濁り方は見たことがない。……けど、似てる)
かつて、“密度暴走”で仲間を失ったことがあった。
あれと同じにおいがする。
「……誰かが止めなきゃ、あの人は壊れる」
小さな呟きが、誰にも届かない風に紛れて消えた。
リュナは、ひとり静かな礼拝堂の結界を強化していた。
その指先は震えていたが、それでも魔力の波は確かに安定していた。
(たとえ届かなくなっても、私はここにいる。
この光が消えない限り、あの人の“輪郭”を守るために)
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この章では、カイの“密度魔力”に初めて兆す「不安定さ」を描きました。
体積では測れない力がある。
でも、それを制御しきれないと、内側から“濁って”いく。
ミリナの観察、ジークの感覚、セラの静かな警戒——
少しずつ、周囲がカイの異質さに気づき始めています。
そして、リュナ。
彼女だけがまだ信じようとしている光が、次章で何を照らすのか。
どうか、もう一歩だけ、先へとお進みください。




