第15章 囁く輪郭
午後の魔力演習が終わり、Dクラスの生徒たちは解散準備をしていた。
今日は特別に「対魔導計測装置」を用いた個人測定が行われ、
魔力量・収束率・拡散耐性など、通常の演習では測れない“深層値”が記録されることになっていた。
その日、最も数値が高かったのは——当然ながらカイだった。
「密度、だけじゃない。……構造そのものが安定してる」
ミリナがそう呟いたのも無理はない。
実際、装置に記録された魔力曲線は、他の誰とも異なる“芯”を持っていた。
「ほんとに人間かよ」
ジークのひとことが、教室の空気をほんの少し凍らせた。
カイはその言葉に何も返さなかった。
ただ、誰かの視線だけが自分を見ている気がして、ふと振り返る。
セラがいた。
測定のあとから、どこか様子がおかしい。
普段は明るく飄々としている彼女が、今日はずっと言葉少なだった。
放課後、夕方の屋上。
「……今日は、見た?」
セラはそう言って、カイの横に立った。
「何を?」
「右手。測定のあと。ちょっと……揺れたでしょ。擬態が」
カイはうなずいた。
「黒い紋様。脈動してた。魔力の波みたいに」
「うん。あれ、抑えきれなかった。あなたの密度が……あまりにも綺麗で」
セラは右手をそっと見つめる。
「魔族が密度を増やすと、形が変わる。……異形化っていうんだけど、私はその進行がちょっとだけ早かった」
風がふわりと吹いた。
その瞬間、セラの耳元に、うっすらと淡い紅の紋が浮かんだ——すぐに消える。
「これがずっとだったら、たぶん……仲間にもなれなかった。
でも今は、少しだけ、“異形じゃない人”と話せてる気がしてる」
「俺は……」
「大丈夫。まだ“決めなくていい”よ。
あなたがどう生きるかなんて、私が決めることじゃないから」
セラの声は、いつもの明るさを取り戻していた。
けれどその背中は、ほんの少しだけ遠かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この章では、セラの“異形”という秘密が初めて明かされました。
魔族にとって密度の上昇は、力の証であると同時に“形を失う恐怖”でもあり、
それを受け入れて生きるセラの姿は、カイの“異端的な安定”と対照的です。
異形でありながら、揺らぎながらも笑うセラ。
密度を持ちながら、壊れずに存在するカイ。
二人の距離が少しずつ近づいていく中で、
物語全体の“密度”も、確かに高まり始めています。
次章では、Dクラスに広がる不信、そして「異形」そのものへの視線が揺れ始めます。
どうぞ、次の一歩もお付き合いいただければ嬉しいです。




