第1話 "私"の命日
ジリリリ、とけたたましく鳴り響く目覚ましの音が頭を刺激し、意識を覚醒させる。
おぼつかない足取りのまま目覚ましのある机の上へ赴き、音を止めてカーテンを開けた自分は、
「うーん、今日もいい天気…じゃねぇな…全っ然曇ってるわ…」
朝、眠りから覚めたばかりだというのに、1人でボケとツッコミをするという狂ったことをしていた。
自分でも、テンションが上がっているということが分かる。しかし、これは必然であり、仕方がないのだ。なんせ今日は…
「ピロン」
という音と共に机の上においてあるスマホの画面が光る。窓際から机に向かいスマホを確認すると、画面には
『今日公園で集合してから駅まで一緒に行かない?』
という、誘いのメールだった。
そう、今日は友人達と遊びに行く日なのだ。仕方ないよね、こういう日っていくつになっても楽しみなんだから。
内容を確認し、暫く文章を考えた後
『全然良いよ~。何時集合にする?』
と送る。するとすぐに既読がつき
『10時20分の電車に乗るから、10時にいつもの公園集合で良い?』
『OK』
というやり取りをし、スマホを持ってリビングに降りた。
リビングに降りると母と父がいた。
「おはよ~。ごはん食べ~」
「ん」
と母とやり取りをし、食器棚からお茶碗を取り出し炊飯器からご飯を掬い、椅子に腰掛けて朝食を取った。
朝食を取った後は身支度をし、自室に戻った。
そして、自室で暇を潰していると約束の時間が近づいてきたのを時計で確認して
『今から家出ます』
友人にそう連絡し、鞄を背負って自転車の鍵を取り玄関を開け
「行ってきます…」
と聞こえているかいないかギリギリの声で言い自転車を取り、公園に向かった。
自転車で公園に向かっている途中、突如、耳鳴りがした。
ピーー
と、甲高い音が約1秒なり、何事もなかったかのように静寂が訪れた。
耳鳴りが起こる時は、決まって何かが起きる。それが、良いものなのか、悪いものなのかは分からないが、考えても仕方がないのだ。なので頭の隅においておくことにした。
…考えすぎも良くないからね。
公園に着いてすぐに彼─友人は来た。
「おはよーございまーす。」
「おはよ~。」
このふわっとした挨拶をしたのが、私の友人の内の1人で、【無月 楓】という。
「んじゃまぁ早速行きますか。」
「了解。」
簡単な挨拶を交わし、駅に向かった。
もちろん、道中に何かあった…ということもなく無事に電車に乗ることが出来た。
電車に揺られはや10分、私たちは3駅離れた駅に着いた。
因みに3駅目で降りたのには理由がある。
1つは、目的地へ行くための電車に乗る乗り継ぎのため。もう1つは他のメンバーとの合流である。
今回は2人で遊ぶのではなくこれから集まる予定の3人の計5人で遊ぶ予定なのだ。
駅で友人を待つ間、コンビニで飲み物を買い楓と待っていると…
見知った姿が柱に隠れているのが見えた。しかしまぁ、確証があるわけなんてもちろん無く、楓に相談する。
「ねぇ、あれ…あいつらじゃない?」
「え、どこ…?」
そう言って目を細め私が指摘した人物達を注視する。すると、
「あ~!あれか!確かにそうかも。」
「メール送ってみるか…」
「だね、でももし間違っていたらめっちゃ恥
ずかしいね…」
「やりにくいから言わないで…」
そんなやり取りをしながら私は柱の裏にいる友人(推定)にメールを送る。
『もしかして今駅にいる?』
『それも柱の裏。』
そして、既読が付くと、
「あ、来たよ。」
と楓が改札口を指差した。
そして、指の先にいたのは──
「おはようございます。」
紛れもない、私の友人だった。
「おはようございます。霜月さん。」
この挨拶した人物は、
【霜月 時帆】
3人いたのだが、挨拶したのはこの人だけだった。
まぁ、挨拶なんてそんな気にするものじゃないしな…しかし、それはそれとして、気になることがあった。
「え、隠れる必要あった?」
恐らく、全人類が持つであろう疑問を問いかけた。いや、流石に言い過ぎか…?
「え?驚くかなぁって。」
「驚かねぇよ?」
私達を驚かせようと、わざわざ柱の裏に隠れることを提案した首謀者であろう人物が、
【篠宮 水雪】
私の数少ない、小学校からの友人である。
そして、沈黙を貫いているもう1人を必然的に紹介することになるのだが…なんか、除け者にしてるみたいで嫌だな…するけどさ…
【空崎 奏】
水雪と同じく、小学校からの友人である。
「全員集まったけど、時間あるしどうする?コンビニで何か買いたいものとかある?」
「さっき買った。」
「大丈夫です。」
「水雪も大丈夫。」
「私も。」
「えっと…お手洗い行きたい人は…?」
「あっ、私行ってきます。」
「…はーい。」
買いたいか聞くのは別に良いんだけど、流石にトイレとかって聞きにくいんだよなぁ。
でも、今聞いておかないと20分くらいあるからね…誰かが聞く運命なのだ。
そうして、時帆が戻ってきて、私たちは電車に乗って目的地へと向かった。
……男女比率おかしくない?
電車に揺られること約20分弱私達は比較的大きな駅で降りた。
「あー、都会の音ー!」
「それ信号の音じゃない?」
「おっナイスツッコミ。」
「てか水雪達が住んでるところもそんな田舎って訳じゃ無いでしょ。」
「いやまぁ田舎かといわれれば微妙…か?いや微妙じゃねぇだろ。百歩譲っても都会2の田舎8だわ。」
「えーそう?」
「そうだよ。」
若干テンションが上がっていたであろう私と水雪は、降りて早々に漫才のようなものをしていた。
「因みに行く道知っている人は?」
「え、知らない。」
「僕も。」
「私も。」
「私は何回か来たことあるから知ってるけど。」
「私も何回もきてるから道はバッチリだけど。」
私の問いかけに、水雪、楓、時帆、奏が順に答え、私も答える。
「じゃあ、私が案内するよ。」
「よろしく~。」
フワッとした言葉を発した楓に、内心で
(軽いな~)
と思いつつ前を向いて歩きだした。
案内、と言っても私達が目指していた場所は駅から徒歩で10分もかからない場所なので、たいそれた案内なんて出来ていないのだけれど、本人達が気にしていないから良いか…と心の中でそう決めつけ、後ろを振り向く。
「着いたよ。」
「おぉ~、ここか~。」
「案外近かったんだね。」
「その言葉は私に刺さるぞ、楓…」
「ごめんごめん。そんなつもりはなかったんだ。」
「別にそれは分かってるから良いよ…」
もしや、この事を考えて、奏は私に案内をさせたというのか?おのれ、策士め…
中を見るのは、各々自由で見て回る、ということになり、各自自由に進んでいった。
「いやぁ、楽しかったね~。」
「そうだね、買いたいものも買えたし。」
「また、このメンバーで来れたら良いね。」
「いつでも時間はあるしね。」
「なら、夏休みとかどう?忙しくなったとしても、1日くらいなら作れるんじゃない?」
「水雪も賛成。」
「私も~ 。」
「奏はどう?何か予定とかある?」
「いや、私も大丈夫。」
「そっか、ならまた行けるかもね。」
今日、私は久しぶりに楽しむことが出来た。このメンバー、ということもあり、既に次回が楽しみだった。
そして、電車に揺られること数分、時帆が水雪と小さな声で話しているのが見えた。電車の中だし、静かに話すのは当たり前だが、何か、引っ掛かるものを感じた。チラッと横を見てみれば、楓と奏がスマホを見ていた。いや、見ていること自体は問題無いんだけど…重要なのは画面をタップ…恐らく、文字を打っていてメッセージを送ろうとしているのだと思う。
…疎外感を感じた。自分でも、おかしいことは分かってる。楓達が、家族に連絡をしている可能性だってある、しかし、そんな考えが1度でも浮かんでしまうと…自分なんか必要無いんじゃないか…って、そう思ってしまう。周りが見えなくなり、自分を卑下する。幼い頃からある、私の治らない癖だ。
「……ぇ………ねぇ……………ねぇってば!!」
「…へ?……あ、あ~、えっと、どうかした?」
「…えっと、この後ショッピングモールに行
きたいんだけど…大丈夫?」
「…うん、私は大丈夫だよ。」
「…そう?なら良いんだけど…」
肩を叩かれ、呼ばれていたことに気付く。
ショッピングモールに行くことに関しては全然問題はなかったのだが、私が全く反応してなかったからか、私の身を案じてくれた。
マズイな…上手く隠さないと…
結局、悪い考えが脳内で反芻し、駅に着くまで顔は暗かったのだろう。
「んでもって、なんで急にここに来ようと?」
「あっちで買えない本があってね。」
「なるほど、こっちにしかない本もあるからね。」
「私も何か買おうかなぁ。」
本を買う…ねぇ。先程同様に言い方に何か引っ掛かるものを感じたが、気にするのを止め、歩みを続ける。
「あ、僕達あそこでクレープ買って良い?」
「うん?全然良いけど。私もついでに何か買おうかなぁ。」
「いやいや、先に本屋に行って欲しいんだけど?」
あぁ…やっぱり。
嫌だ。嫌だよ。"それ"だけは…
「…嫌だ。私も買いに行きたい。」
「いや、ホントお願い。一生のお願いだから。」
「そうそう、水雪達がついでに買ってくるから。」
「私からもお願い。」
「…分かったよ。」
ただ…と付け足し
「君達が望む結果になるとは、限らないからね。」
と誰にも聞こえないような声で付け足し、先程唯一"何も発しなかった"人物…時帆と、1足先に本屋に向かっていた。
本屋はショッピングモールとは少し離れたところにあり、多少の距離がある。しかし、距離があると行っても2階同士が橋で繋がっているので、たいした距離には感じない。
本屋の前の芝生で、急に時帆が立ち止まった。
「…どうかした?」
「ううん、そのちょっとあっちで皆を待ちながら話さない?」
「…うん。良いよ。」
そう言い芝生の端に向かって歩いた。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。この雰囲気だ。この後に何が起こるか、なんて容易に想像が着く。
私から、言うべきなんだろうか…?
いやしかし、彼女が決めて以上、私が気に掛ける義理はないだろう、とそう結論づけ、私は彼女から話しかけるのを待った。
立ち止まってから、10分程経っただろうか。相変わらず、楓達が戻ってくる様子はない。
「…ねぇ、ちょっと良い?」
「…良いよ。」
「その…えっと…」
「…」
「…実は、あなたの事が好きで…だから…その…私と、付き合ってくれませんか?」
私は暫く答えることが出来なかった。
何せ、こういった経験は初めてだし、どういった返し方を取れば良いのか分からなかった。
そうして、約5分、脳内では1時間以上考えた結果、私が出した答えは…
「───────────」
この日、"僕"は確かに感じた。
"彼女"が、再び永い眠りについたのを──────