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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第3章 彼女は自分が何者かを知りたかった
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20 ヘリウム缶

 それからのユーゴはずっと興奮しっぱなしだった。ヘリウムがどこで手に入るのか? いつ買いに行くのか? ベッドに入った後もそればかり訊いていた。


 「明日、朝一で買いに行こう」


 そう答えると漸く静かになったが、結局眠れなかったようで、明け方前に「ホントニ爺チャンガ部屋ニ来タゾ」と揺すり起こされた。


 確か足元には確かに赤いリボンがついたスポーツ用品店の袋が置いてあった。中を確認するとカン○ベリーのダウンベンチコートとナ○キのスニーカーが入っていた。ユーゴとお揃いである。


 「マダ出掛ケナイノカ?」


 外はまだ暗く朝というより未明と言った方が良かった。行先は隣街にある24時間営業をしている某量販店である。始発までにはまだ時間はあったが、これ以上部屋にいてもユーゴの精神衛生上良くないと思い、そっと物音を立てぬよう家を出た。


 冷たい空気が頬を差した。大気がギュッと凝縮していて、風は無くともまんじりと動いているのが感じとれた。これもユーゴから魔法の訓練を受けるようになってからのことである。空気を読めなかったボクが、本当の空気の動きを読めるようになるなんて、何だか皮肉な話だ。


 駅で切符を買って構内へ入る。ボクら以外に人影はなく、しんと静まり返っていた。並んで座った備え付けのベンチは硬く氷のように冷えていた。薫子さんと博多へ行った時も始発だったが、その頃は夏場というのもあって空も白み小鳥も鳴いていた。何らかの気配があった。だけど冬の朝のプラットホームは無だった。ボクら兄弟二人だけが暗い箱の中に隔離されたような、そんな気分にさせられた。


 それから30分程待っていると暗闇の中に黄色い光りが差し込んだ。懐中電灯を手にした駅員さんがプラットホームに降りて来たのだ。そして間も無く甲高いブレーキ音と共に電車が滑り込んで来た。

 

 プシューという油圧音と共に開いた電車の中から独特の臭いが漂って来た。魔法の練習をするようになってからというもの、やたらと感覚が過敏になっていた。以前ならしばらくすれば慣れてしまうような臭いも鼻孔にこびり付いたかのように消えない。ただユーゴが言うには、魔法を使う為にはそれも大事なことなのだそうだ。




 某量販店は早朝ということもあって閑散としていた。普段エンドレスで響き渡っている景気の良いテーマソングはなく、静かなクラッシック音楽が流れていた。


 それでもこの店ならではの――迷子にするつもりとしか思えない――レイアウトが変わることはなく、店内をぐるぐる巡り、18禁の暖簾のすぐ側に乱雑に積み上げられたヘリウム缶の集塊を発見した。


 ボクらは山を壊さないよう手を伸ばし、てっぺんから一本ずつ丁寧に取って、カゴに詰めていった。長身であるボクらにとってそれは難しいことではなかった。身長を羨ましがられることは侭あるが、日頃大したメリットはない。が、こんな場面ではやはり便利である。


 レジ台の上に買い物カゴを置くと、大学生ぐらいの店員さんに二度見された。同じ顔で同じ服装をした大男二人が大量のヘリウム缶を買っているのだから、多少気味悪がられても仕方がないことだろう。


 店外へ出ると、ユーゴは我慢ならないとばかりに、ヘリウム缶に張ってあるビニールを破り、そのまま口へ押し込んだ。


 「どう?」


 「コレハ吸イヤスイ」


 やたら甲高い声で返って来た。それにはユーゴ自身も驚いていた。


 購入したヘリウム缶は2種類あって、一つは風船用。もう一つは変声用。ユーゴが吸いやすいと言ったのは変声用の方である。


 「ナンデ声ガ変ワルノダ?」


 空気より比重が軽いヘリウムは、通常より音が速く伝わり、その分周波数も高くなる。確かドナルドダックボイス現象と名前が付いていたはずだ。


 ユーゴは帰りの電車の中でも他の乗客の視線を気にすることなくヘリウム缶をスースー吸い続けた。あらからさまに批難する人はいなかったが、訝しげな目を向けられていた。


 駅から出てもまだヘリウム缶から口を離さないユーゴに「いい加減にしないと、衛兵が来るよ」と注意すると、慌ててヘリウム缶をリュックに仕舞った。ユーゴでもやはり警察は怖いようである。



 そして自宅に到着するや否やユーゴは部屋にひき籠ってしまった。これからいろいろやらなければならないことがあるのだそうだ。邪魔するな、とまで言われた。


 その間にボクは、スーパーや100円ショップに買出しへ出掛けたり――ちょっとしたクリスマスらしい飾り付けをしたり――していた。ピザはお昼頃に届くよう前日に予約していた。


 ちなみに今日のメンバーはボク、ユーゴ、姉ちゃん、夏穂、薫子さん、そして園田である。


 「今日はお招きありがとうございます」


 最初に訪れたのは薫子さんだった。お昼になる少し前である。


 「いらっしゃい。すいませんが、姉ちゃんを起こして来てくれませんか?」


 薫子さんは――まだ寝ているの?――と言わんばかりに苦笑を浮かべて頷くと、勝手知ったるとばかりに階段を登っていった。


 そしてピザが配達されたと同時に、夏穂と園田も来た。


 すべての準備が整った頃、昨日夜更かししていただろう寝ぼけ眼の姉ちゃんと薫子さんも二階から降りて来た。後はユーゴだけだったが、なかなか部屋から出て来ない。


 「ユーゴ、何してるの? パーティー始めるよ~」


 階下から呼び掛けると「今、忙シイ。先ニ始メテイテクレ」という返事が戻って来た。


 クリスマス会と言っても、別段、何かをするわけではない。食べて飲んでお喋りをするだけだ。


 「ユーゴは忙しいみたいだから、先に食べよ」


 「「「いただきます」」」


 園田はゴクゴクとコーラを飲みながらピザに齧り付く。


 「ピザとコーラは最強の組み合わせでござるな」


 ここ数ヶ月で園田は本当に変わった。教室では絶対に女子とは目を合わさず、自身でも――女子と話すのはゲームの中だけ――と言っていた。過去に女子から酷いことをされたんじゃないか? 重いトラウマを抱えてるんじゃないか? と心配していたけれど、ボランティア部では不自然な感じもなく女子と会話している。今も姉ちゃんと夏穂の間に座り、楽しそうにゲームの話で盛り上がっていた。


 ボクの隣にはゴルゴンゾーラを愛しそうに撫でている薫子さんがいた。ゴルゴンゾーラも久し振りも再会が嬉しいようで、尻尾をブンブン振っていた。


 魔力を活性化させてからの薫子さんは以前のようにオドオドする感じがなくなった。最近はキリシマ書店で店番をすることもあるとのことだ。また来春から通う予定となっている女子大が隣街にあることから、一人で電車に乗る練習もしているそうである。何より声が大きくなった。


 そして夏穂は……変わらない。出逢った頃から今日にいたるまで驚くほど変わらない。思ったことを口に出し、したいことは臆することなく実行する。周囲から 可哀そうな子を見るような目で見られても、変な子と呼ばれてもまったく動じることなく自分を変えなかった。


 だけどボクの方の見方が変わった。彼女はボクらが見えていなかったものが、ずっと見えていた。ユーゴの出現が――魔法の存在が――彼女が正しかったことを証明した。


 そんなことがボクに出来ただろうか? 彼女のように自身の考えをはっきり正しいと言いきれただろうか? 貫けただろうか? おそらく無理だ。


 クリスマス会を初めて30分程が経過した頃、トントントンと階段を降りる音が聞こえて来た。漸くユーゴのお出ましである。手にはヘリウム缶を持っている。


 「待たせたな、みんな」


 今朝まで辿々しかったユーゴの日本語は、ずっと日本に住んでいたのかと思える程、流暢になっていた。おそらくヘリウム缶で補った魔力を使い集中的に日本語の勉強をしていたのだろう。ただやはり声は甲高い。

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