19 ユーゴからの贈り物
クリスマスを迎えるにあたって、ユーゴには大切な話を一つしておかなければならなかった。
そもそも我家でクリスマスは然程重要な日ではない。母さんが作る料理が多少それっぽくなることと食後にケーキを食べるぐらいのもので、プレゼントの交換などをすることはなかった。
それなのになぜユーゴが張り切ってプレゼントを制作し始めたのかというと、――クリスマスは恋人や家族など、大切な人と過ごす日であり、その時に互いにプレゼントをするものだ――と図書館で出会った人から聞いたらしいのだ。
ユーゴも、それならばと日頃の感謝を込めて、皆にペンダントを作り始めたと言うわけだが……。まあ、それは良いとして、ユーゴには納得して貰わねばならないことがあった。
実は――我家にはまだサンタクロースがいる……ということである。
昨年のクリスマス。受験の真っ只中だった中学3年生のボクのベッドには朝起きるとちゃんとプレゼントがあった。高校2年生だった姉ちゃんのベッドの上にも、だ。
そしてプレゼントを持ってリビングへ降りると「今年は、サンタさんから何を貰ったんじゃ?」とニヤニヤしながら訊かれるのである。
これを茶番とは言ってはいけない、愛なのだ。爺ちゃんの孫を想う愛と真心なのだから。
それを説明するにあたり、ボクだけでは少々心許なく、今回はゲストを呼んだ。もちろん姉ちゃんである。
ユーゴを正面にボクと姉ちゃんは並んで座った。
まずはサンタクロースの説明からしなければならない。
「あのね。この世界にはサンタクロースという、世界中の子供たちにプレゼントをくれる白髭のおじいさんがいるんだけどね――」
「ホホウ、奇特ナ御仁ガイルモノダナ」
「悠斗! その言い方だと、ユーゴが混乱するでしょ! ユーゴ、サンタクロースはいないのよ」
姉ちゃんがボクの説明の途中で割って入って来た。
「イルノカ? イナイノカ? ドッチダ?」
「いる」
「いない」
姉ちゃんと声が重なる。
「悠斗は少し黙ってて! あんた、弁護士は向いてないって自分で言ってたけど、本当ね」
それから姉ちゃんが、クリスマスとサンタクロースについて説明する間、ボクは口を噤んで黙って見ていた。
途中、ユーゴは「ソレデハ爺チャンヲ騙シテイルヨウナモノデハナイカ?」と不快そうに顔を歪めたが……。
そうではなく爺ちゃんにとって、ボクらはまだ子供であり、大人と言うのは子供の成長を喜ぶ反面、それを逆に寂しがったりするものだと、姉ちゃんが懇々と言って聞かせる。
するとユーゴも何かを思い出したように「ナルホド、クルゴンノ爺様モソウダッタ」と最後は理解を示してくれた。ちなみにクルゴンとはボクの母方の祖父の名らしい。
「高梨家デハ通常プレゼント交換ヲシナイ。ケーキヲ食ベル。明日ノ朝、ベッドノ上ニプレゼントガアル。爺チャンガサンタクロースダケド、気ヅカナイ振リヲスル。デ、当ッテルカ」
「「正解!」」
そして3人でリビングに降りた。キッチンからチキンが焼ける良い匂いが漂っていた。
「あら、今、呼びに行こうと思っていたのよ。ご飯出来たわよ」
ダイニングテーブルに5人で座る。ユーゴがウチに来てからは、じいちゃんはお誕生日席に座るようになった。これまで爺ちゃんが座っていた席にユーゴが座っている。
「食事ノ前ニ、皆ニ渡シタイモノガアル。オレナリニ頑張ッテ作ッタ。良カッタラ受ケ取ッテ欲シイ」
チェーンネックレスに繋がれたエメラルドのペンダントを爺ちゃんの後ろに回り込んで、爺ちゃんの首につける。
「エメラルドノ宝石言葉ハ『幸福ト誠実』。爺チャンニピッタリダト思ウ」
爺ちゃんは突然のプレゼントに目をシバシバさせていた。
次はルビーのペンダントを取り出すと同じく座っている母さんの首にかけた。
「ルビーハ「情熱ト仁愛」母サンノ為ノ宝石ダト思ウ」
そして姉ちゃん。
「サファイアハ「真実ト徳望」。弁護士ガドンナモノカ判ラナイガ、勉強頑張ッテ欲シイ」
プレゼントについては姉ちゃんにも言ってなかったので、首に掛かったサファイアを手に取って目を潤ませていた。
「ソレカラ、ミーナ。ユートヲズット見守ッテクレテイタコト、心カラ感謝スル」
そう今日はミーナも顔を出していた。そしてユーゴは自身で編んだであろう組紐をミーナの首に巻いた。首元には貴族服に使われていた下膨れの果実が刻印されたボタンがついていた。
するとゴルゴンゾーラは、自分もと言わんばかりにワンワン催促するように吠えていたので、ミーナと同じ物をゴルゴンゾーラの首に結んだ。
「ねぇ、これって銀?」
ゴルゴンゾーラを抱き上げた姉ちゃんが首元のボタンを指先で叩く。
「イヤ違ウ ミスリル ダ」
姉ちゃんは「ミ、ミスリル⁉」とファンタジー金属に過剰反応していた。
「ソシテ、コレハ悠斗ニ」
「えっ、ボクにもあるの?」
造っていた宝石の台座が3つだったので、チェーンネックレスを4本買って来るように言われていた時は、なぜだろうと思っていたが……。
「母ノ形見ノ指輪ダ」
それはプラチナのチェーンネックレスに通された透き通るように青みがかった色の指輪だった。
「えっ? そんなもの貰って良いの? コレ、葦原の中に隠してるって言ってた指輪?」
「ソウダ。先程、取ッテ来タ」
「まさかだけど、オ、オリハルコン⁉」と姉ちゃんが過剰に反応したが、ユーゴは首を傾げた。母が亡くなるまで身につけていたもので、素材は判らないそうだ。
「ミスリルと来たら、次はそれでしょ、ふつう……ふつう??」
姉ちゃんも自分で言って訳が分からなくなっていた。
「そんな大切な物をボクが持ってて良いのかな? でも……危険って言ってなかったけ?」
「ソレハ父ノ指輪ノ方ダ。コッチハ問題ナイ」
詳しく聞くと、父から貰った指輪そのものが危険というわけではなく、父の指輪には父の魔力が込められていて、アパートの住民が召喚されてしまった時も、その指輪がサーチ対象にされたしまったからではないかと、ユーゴは考えているとのことだ。確証はないらしい。
「ソウ言エバ、川原デ知ラナイ女ニ話シ掛ケラレタ。タブン悠斗ト間違エラレテイタ。――どうすればユウ君に信用して貰える?――ト言ッテイタナ」
「……」
ボクをユウ君と呼ぶ人物は一人しかいない……
「ソレは無視していいわ。さっ、お母さんが腕に寄りを掛けて作った料理なんだから、早く食べましょ」
ボクは食事をしながらも、ユーゴがどれだけ苦労してそのペンダントトップをつくったか身振り手振り力説した。ユーゴは少し恥ずかしそうにしていたが、爺ちゃんも母さんもまた姉ちゃんも、改めて首に掛けられたペンダントを見て、目を潤ませていた。家族から心が篭った物を贈られること以上に嬉しいことはない。
「こりゃ、一生の宝物が出来たな」
「一体、コレ、幾らになるのよ?」
「公美、絶対に売ったりしたらダメだからね」
食事が終わり、テーブルにケーキが運ばれてきた。
さっきからユーゴはテーブルの足に繋いだヘリウム風船を照れ隠しでもするようにポンポンと叩いていた。
そして切り分けたケーキがそれぞれの席の前に置かれた時――パンっと乾いた音が響いた。
風船が割れたのだ。
風船を叩いていたユーゴは、やってしまったと一瞬顔を歪ませたが、段々それが驚愕へと変わっていった。
「悠斗……コレハ何ダ?」
ユーゴは口も目も見開いたまま訊ねた。
「ん? ケーキ屋さんで貰った風船だよ。気にしないで」
「チ、チガウ。コノ風船ノ中ニ何ガ入ッテイタ?」
「あー、ヘリウムだね。空気より軽い気体だから、浮くんだよ」
「コレダ……。遂ニ見ツケタ……」
「ん?」
「――魔素ニ似タナニカ――ダ!」




