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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第3章 彼女は自分が何者かを知りたかった
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14 悠斗の記憶

 「コノ世界ニ冒険者ギルドノヨウナ所ハナイノカ?」


 (北頭学院ボランティア部の中に)あると言えばあるけど……、ユーゴが言っているのはそういうことではない。求めているのはハロワだ。プルメリアの水を買うお金のことを気にしているのだ。「お金のことなど心配するな」と爺ちゃんに言われても、ユーゴはずっと収まりが悪そうな顔をしていた。


 そんな学校から帰ったある日。ユーゴはガレージで、ウチへ来た時に背負っていた大きなリュックサックから物を引っ張り出して何やら一つ一つ吟味していた。


 「何してるの?」


 「金ニナリソウナ物ヲ探シテイル」


 そこには薫子さんに観せられた盗撮画像の貴族服も入っていた。


 ボクがその煌びやかな服を広げて見ていると「ソレ、ドコカデ売レナイカ?」とユーゴはあまり期待してなさそうな顔で問い掛けた。


 「ん~、どうだろう?」


 ターコイズブルーとでも言うのだろうか――やや濁りのある青緑色の貴族服には、袖口や裾などから枝葉が這うように金糸で刺繍されていた。また胸には赤と青と緑の三つの大ぶりで美しい宝石が果実を模すかのように三つ並んでいた。また縦に並ぶボタンはラ・フランスのような下膨れの果実が刻印されており、素材はおそらく銀かプラチナ。縫製にミシンを使われた形跡はなく、やや太い糸で手縫いされていた。それでもベルウッド侯爵令嬢のドレスのような安っぽさはない。


 「この服に付いてる宝石みたいなのって、本物?」


 「タブン、本物ダゾ。コレデモ公爵令息ダッタカラナ」


 宝石の知識なんて全くないが、もしこの三色の宝石がルビーとサファイヤとエメラルドだったなら、すんごい値段になりそうな気がする。


 「へぇ、ユーゴって貴族なんだ」


 「……オマエモナ」


 「えっ、ボクも貴族なの?」


 「タカナシ公爵ノ息子ダカラ、アッチヘ帰レバ、当然ソウナル」


 「まあ、ボクは帰らないけどね」


 「ソウダナ。オマエハ、コッチニ残レ」


 そしてボクも一緒になってユーゴのリュックの中を漁っていると巾着財布のようなものを発見した。


 「ねえ、ねえ、これは? 金貨じゃない?」


 財布の中を開けると、ザクザクと硬貨が詰まっていた。殆どが銀貨や銅貨だったが、中に金貨が混じっているのが判る。


 「ソウダ。コッチデハ使エナイ役立タズノ通貨ダガナ……」


 「いや、もしこれが本物の金なら換金できるかもしれないよ。爺ちゃんが帰って来たら、相談してみようよ」


 「ソウナノカ!」 


 ユーゴは顔を輝かせた。




 そしてその日の夕食後――リビングでは爺ちゃんとユーゴが膝を突き合わせて互いに神妙な顔で睨めっこしていた。


 爺ちゃんに巾着財布に入っていた金貨を見せたところ、おそらく純金で間違えないだろうとのことだった。金貨は13枚あった。台所から計りを持って来て計ってみると、一枚が28グラムあり、金の価値だけでも一枚30万円は下らないだろうとのことだった。合計390万円になる。


 またユーゴが着ていた貴族服に付いている宝石が本物かどうかは、爺ちゃんには判断がつかないそうだ。だが、もし全てが天然宝石だったなら、とんでもない値段になってしまうのではないかと家族で大盛り上がりになった。


 「こんなお宝をガレージに放っぽってたの? バカじゃないの?」


 「こりゃ、警察より先に税務署が来てしまいそうじゃ」


 和気藹々だった団欒の空気が変わったのは、ユーゴが「コレヲ受ケ取ッテ欲シイ」とその貴族服と金貨を爺ちゃんに差し出したところから始まった。


 「いや、それはユーゴの物だ。受け取れんよ」


 当然、爺ちゃんは受け取りを拒否。


 「オレハ、タダ飯ヲ喰ラッテ、働イテモイナイ。養ッテ貰ッテバカリデハ、余リニモ申シ訳ナイ」


 「子供が何を言うか。孫なんてもんは、黙って面倒みられとけば良いのじゃ」


 「ユートニ加エテ、オレマデ迷惑ハ掛ケラレナイ。セメテコレヲコチラノ通貨ニ換エテ、生活ノ足シニシテ欲シイ」


 そんな緊迫したリビングを余所に、ボクと母さんと姉ちゃんはダイニングで食後のプリンを食べていた。


 「ユーゴはお爺ちゃん似なのかしらね……」


 ボクとユーゴの容姿は自分たちでも驚く程似ているが、性格的にはまるで違った。それは生まれつきのものか、環境によるものかは、判らない。


 一歩も引かぬ二人を観ていると、確かに二人は似ているのかもしれない。


 「シカシ、水ハカナリ高額ダト聞イタ。セメテソノ代金分グライハ支払イタイ」


 「だから、水ぐらい爺ちゃんが幾らでも買ってやると言っておるじゃろ」


 何だか白熱している。


 「と言うよりユーゴは兄ちゃん(悠升)似てるのよ」


 爺ちゃんとユーゴに呆れた視線を向けながら母さんが溢す。


 「父さんって、どんな人だったの?」


 「ん? そうね~。口癖は『ちょっと損をするぐらいが丁度良い』だったわね。元々はね、お爺ちゃんが言っていたことだったの。例えばリンゴを切って二人と分ける時、大きい方を相手に差し出し、小さい方を自分が取りなさい。っていう爺ちゃんの教えね」


 「ふ~ん」


 なるほど、爺ちゃんらしい考え方だ。


 「それがいつの間にか、兄ちゃんの口癖になっていたのよね『俺は顔も頭も良い。スポーツだって万能だ。だから他者よりちょっと損するぐらいで丁度良いんだ』って、人が嫌がる作業や汚れ仕事を率先してするのよ」


 「傲慢なのか、謙虚なのか、判らないね」


 「傲慢じゃなかったわよ。実際、顔も頭もすごく良かったから。妹としては、ちょっと引くぐらいのモテっぷりだったから。そこは悠斗と似てるわね」


 「ボクはモテるのかな? 恋人に浮気されるような男だよ」


 「……そのことはもう忘れなさい」


 母さんや姉ちゃんとそんなどうでも良い話をしていると。


 「悠斗はどう思う?」

 「ユートハドウ思ウ?」


 二人とも――この頑固者に何とか言ってやってくれ――みたいな顔でボクを見て来た。


 「ん~、ボクがユーゴなら爺ちゃんが要らないと言ってるのだから、素直に甘えるよ。ボクが爺ちゃんなら、ユーゴが折角くれるって言ってるんだがから、有難く貰うけど」


 「でた! 悠斗の事勿れ主義。それは誰に似たのかしら?」


 えぇーー、すごいいい加減な人みたいな言われ方だ……。


 取り敢えず、貴族服と金貨の話は保留ということになり、ボクとユーゴは自室へ戻った。今、ボクの部屋はユーゴと二人で使っている。ベッドをもう一つ置くには少し狭かったので、コリドラス水槽はリビングの方へ移した。


 「ねえ、ボクを産んでくれた母という人はどんな人だったの?」


 姉ちゃんが言った――誰に似たのかしらね?――というのが少し引っ掛かっていたボクは、エルフであるという産みの母親であるリリアについてユーゴに訊ねた。


 「ン~、苛烈ナ人ダッタ」


 「苛烈? 気性が激しかったってこと?」


 「マア、ソウダ」


 あら、全然似ていなかった。ボクはどちらかと言えば温和な方だと自分で思っている。


 「母ガ病気ニナッテ、聖女ガ村ヘ来タ時ノ言イ争イハ凄カッタゾ。ソウ言エバ、アノ時ハ、オマエモ聖女ニ食ッテ掛カッテイタナ」


 それからユーゴはボクが異世界にいた頃の話をしてくれた。小さい頃のボクはとにかくヤンチャだったらしい。砦の壁をよじ登って、魔物がいるという魔岳へ行こうとしたり、母を真似て風の魔法を観光客に放ったり、とにかく大変だったとユーゴは笑う。またその頃のボクの性格はエルフの母にとても似ていたと付け加えた。


 「ちょっと待って。ボクが誘拐されたのって3歳の頃だよね? そんな小さい頃のことをユーゴは憶えているの?」


 ユーゴは当然だと言わんばかりに頷く。


 「以前ニモ説明シタガ、アッチノ世界デハ記憶モ魔力ニ依存シテイル。ダカラ通常、魔力ヲ扱エルヨウニナル1歳グライカラノ記憶ヲ誰モガ持ッテイル。比較的成長ガ早カッタオレヤオマエハ、生後半年グライカラノ記憶ガアルハズナンダガ……」


 「だったら、なぜボクは何も憶えていないんだろ?」


 「判ラナイ。オソラク転移シタ時ノショックカ、或イハリミテーションヲ超エテ魔力ヲ使ッテシマッタカ……」


 ユーゴが言うには、魔力の中には意識的に使えない領域があるそうだ。それらは生命維持に必要な、呼吸、心臓の鼓動、体温調節などの無意識な動作に使われる為の魔力であり、自己防衛本能によって制限が掛かるらしい。記憶もその中に含まれるとのことだ。


 ユーゴが日本へ転移させられた時も、地球と異世界との大気の違いに苦しんだそうである。慣れるまでにかなりの魔力を使ったと言っていた。


 だからこそ、当時まだ3歳だったボクはもっと苦しんだのではないかと――リミテーションを超える魔力を消費してしまったのではないかとユーゴは言うのだ。

 

 「もう思い出せないのかな?」


 「スマナイ、ソレハワカラナイ」


 ただボクはあの日みた夢を忘れない。幼いユーゴ。母親であろう金髪の綺麗な女性。そして白い噴煙をあげる大きな山……。あれがボクの妄想ではないとしたら、完全に忘れてしまっているわけではないのだと思う。


 ボクは、何か思い出せることはないかと、心の深いところに探りを入れるように目を閉じた


 ――途端


 急に頭の芯がカッと熱くなった。頭の内部から鋭利な刃物で刺し抉られるような痛みに襲われた。


 「悠斗、ドウシタ?」


 朦朧とする意識の中でユーゴの声がした。


 吐き気がした。


 ボクは見知らぬ場所を駆け回っていた。『二ノ君、お待ちくだされ、走っては危のうございます』見知らぬ老人が追い掛けて来る。


 「二ノ君ってボクのこと……」


 頭が痛い。痛い、痛い、痛い。割れそうだ。


 「悠斗、思イ出スナ。考エルノヲ止メロ」


 「……そう言われても……どうすれば?」


 「ソウダ、オッパイダ。オッパイノコトヲ考エロ。ブルンブルン揺レルオッパイハ良イ。凄ク良イ。オレハ少シ垂レテルグライノ方ガ好キダ。乳輪ハ大キイ方ガ好キダ。オマエハドウダ? オッパイガ好キカ?」


 脳裏に浮かぶのは、川原を走る薫子さんの姿。左右の胸はバラバラに、ランダムに、慣性を無視して暴れるオッパイ。


 柔らかなオッパイに包まれるように痛みがスッと消えていく。芯の方から穏やかにジワジワ沈静していく。


 「大丈夫カ? ユート」


 ボクが頷くと、ユーゴは大きく息を吐いて安心したように尻もちをついた。


 「フゥー、マタオッパイニ救ワレタナ……」


 ――また――の意味は判らないが、確かに薫子さんのオッパイに救われた。ボクは心の中で薫子さんのオッパイに感謝した。


 「少シ見セテクレ。モウ無理ニ思イ出ソウトスルナ」


 そう言ってユーゴはボクの額に手を当てた。その手からは魔力が糸のように伸びて来た。そしてボクの頭の中を蠢くように這い回っていた。不快であり、これがユーゴでなければ、振り払っていたところだ。


 「ナルホドナ……。記憶ガ封印サレテイル」


 しばらくしてボクから手を離したユーゴは、プルメリアの水をグビグビ飲んだ。かなりの魔力を消費したようだ。


 「封印?」


 「ソウダ。悠斗ノ記憶ニハ封印ノ魔法ガ掛ケラレテイル。シカシ……誰ガコンナ魔法ヲ……?」


 「難しい魔法なの?」


 「アァ、他者ノ精神ニ影響ヲ及ボスヨウナ魔法ハ、誰デモ使エル簡単ナ魔法デハナイ。同ジ魔法デモ、ファイヤーボールヲ撃ツノトハワケガ違ウ」


 手から火が出るファイヤーボールの方が凄そうな気がするけど、そうではないらしい。


 「ソレニ、コウイッタ精神魔法ヲ使用スレバ、反作用デ術者ニモ相応ノダメージガアッタハズダ」


 他者の精神に作用する魔法はリスクが高く、記憶を封印するような魔法を使うと、その術者も同じく記憶を失くしてしまう可能性があるとのことだ。相手に深く入り込み過ぎれば、下手すれば廃人になる惧れもあるそうである。


 「益田聖奈じゃないの? 聖女って呼ばれてたんでしょ?」


 「タブン違ウ。二ヶ月程一緒ニイタガ、精神ニモ肉体ニモダメージガアッタヨウニハ見エナカッタ。ソモソモアノ聖女ニコンナ高度ナ魔法ハ使エナイ」


 「だったら……?」


 「判ラナイ。可能性ガアルトスレバ……」


 その先を言わぬままユーゴは黙ってしまった。

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