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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第3章 彼女は自分が何者かを知りたかった
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11 魔素に似たナニカ

 台風一過の晴れ渡る空の中、夏穂を(宮田総合病院の敷地内にある)自宅まで送り届けた後、ボクとユーゴは散歩がてらに川の様子を見に来ていた。


 やはりかなり雨が降ったようで、川はコーヒーミルクをひっくり返したように土茶濁りした水が波打って流れていた。河川堤防も決壊していて河川敷グラウンドは湖のようになっていた。河川敷がない対岸も堤防の半分程が水に浸っている。


 昨晩、ユーゴの話を聞いていた間もずっとジャバジャバ激しい雨音は聞こえていた。それどころではなかったというのもあるが、ここまでとは思っていなかった。昨日、ユーゴをここへ残して帰っていたらと思うと、少しゾッとする。


 「マサカ コンナコトニ ナッテルトハ……」


 さすがのユーゴも、景色の変りように、あんぐり口を開けて川の様子を眺めていた。ちなみに『悠五呏』ではなく、『ユーゴ』と呼んでいるのは本人が希望したからだ。異世界ではそう呼ばれていたらしい。


 「驚いた?」


 「ソウダナ ソウゾウシテイナカッタ。アノアタリ ニ チチトハハノ ユビワ ヲ カクシタ ダイジョウブダロウカ?」


 ユーゴが指をさす――アノアタリ――とは、葦原の中のようだった。葦原も先端部分は見えているが、根本は水の中である。


 そんな大切そうな物をなぜそんな場所に??


 「モッテイルト キケンダッタ……。ナガサレテイナイトヨイガ……」


 ボクが疑問に思っていることが判ったのか、ユーゴはそう答えた。が、やはり意味が判らない……。この言葉の壁は早急になんとかしなければならない。っと思っていると。


 「おーい」


 そこへたった今、自宅まで送り届けたばかりの夏穂が国道の方から走って来た。まさにさっきぶりである。


 「えっ、なに戻って来てるの? あまりお父さんお母さんに心配かけちゃダメだよ」


 ボクの方が年上なので、一応、ちゃんと叱っておく。


 「もう! ちゃんと許可取って来たよ!」


 夏穂は不本意とばかりにプッと膨れた。

 

 「……」


 まあ、それなら良いんだけど……宮田先生も奥さんも基本に夏穂には甘い。甘すぎる。というか宮田先生はどう接して良いか判らず持て余していると言った方が良いかもしれない。奥さんの方は何とか理解しようと頑張り過ぎて空回りしている。観ていて痛々しい。ご両親には同情しかない。


 「あのね、さっき話していたお水だけど、コレ、どうかな?」


 夏穂はそんなボクの心配を余所に、その辺のスーパーやコンビニでは見掛ないような、如何にもお高そうなブルーのボトルに入ったミネラルウォーターをユーゴに差し出した。


 自宅から夏穂の家へ着くまでの間、ユーゴは夏穂とずっと何かを話していた。ミドドルーエ語だったので、ボクは蚊帳の外だった。その時、どうやら水の話をしていたらしい。


 手に取ったユーゴはその高級そうなボトルを躊躇いもなく捻って蓋を開けると、グビグビと喉を鳴らした。


 「ウマイ ガ チガウ」


 飲んでみろとばかりにユーゴに手渡されたが、……普通の水だ。だから何だ? さっぱり意図が掴めなかった。


 「そっかー、残念。なら、やっぱ教会へ行くしかないね」


 夏穂は駅の方へと歩き出した。ユーゴもそれについて行ってるので、仕方なくボクも後に続く。


 「ねぇ、さっきから話が全然見えないんだけど……」


 「あーそうだね。あのね、ユーゴはマソを探してるらしいんだけど、何か心当たりある?」


 また唐突に……。


 「マソ ハ マリョク ノ モト ダ マリョク ガ ナケレバ マホウ ハ ツカエナイ」


 魔法の話は昨晩いろいろ聞いたが、急には飲み込めない。マソ=魔素。それは判る。が、そんなものが日本に――地球にあるのだろうか? 


 「どうしてボクに心当たりがあると思うわけ?」


 素――と言うぐらいだから元素ではあるのだろうが、水素から始まりオガネソンで終わる118種類の中に魔素と呼ばれるものはない。自然界に存在する元素は確か89個。


 「だって、ユウトも魔法使ってんじゃん」


 呆れた顔で夏穂を見ていると、衝撃的な応えが返って来た。


 「はっ?」

 

 「えーーっ、ラグビーの試合中とか、ときどき魔法使ってたの知ってるよ」


 思い当たることはあった。


――胸の中にある熱い力――


 確かに、ボクのこの得体の知れなかった力が魔法だったと言われれば、ストンと腑に落ちる。オーストラリアでも、チームメイトからは風神。相手チームからはWizardなどと呼ばれていた。


 魔法とまでは思っていなかったが、これが特別な力であるという自覚もあった。


 「それにほら、笑う時にも魅了の魔法使ってんじゃん?」


 ボクが唖然としていると「やっぱ無自覚だったんだ~」と夏穂は笑っていた。


 「……」


 一瞬、何も考えられなくなった。


 いや、でも、まさか、ん? それなら、なんだ? ボクは今まで何をしてきた?


 以前から思っていた。ボクのような退屈でつまらない男が、なぜ毎日のように女の子から告白されるのだろうと。ずっと疑問だった。断っていたのも、どこか信じられないような、鵜呑みに出来ないような、空々しさを感じていたからだった。


 だけどその数々の愛の告白が、ボクの笑顔に起因していたなら……魔法だったなら……。


 そもそもボクの笑顔は意識的に作るところから始まっていた。


 爺ちゃんに引き取られてから小学3年生のイジメが発端で起きたあの事件まで、ボクは家でも一切笑わっていなかった。自覚はなかった。事件の後に母さんに聞かされたのだ。


 もちろん感情がなかったわけではない。人並みに楽しいと思うこともあるし、喜びも感じる。テレビのバラエティ番組を観れば面白いと思っていた。


 けれどそれが表情になっていなかった。鏡を見たボクは愕然とした。愕然としていながら、そこには無感情なただ黒いだけのビー玉のような目をしたボクがいた。


 それからボクは鏡を見ながら笑う練習をするようになった。顔の筋肉をどう動かせば、笑っているように見えるのかを研究した。そして何とか笑っている顔を作ることが出来るようになった。


 「ボクは爺ちゃんといるのが幸せだよ。母さんから褒められると嬉しいよ。姉ちゃんといると楽しいよ。……ボク、笑えてるかな? ……ちゃんと伝わってるかな?」


 「大丈夫、ちゃんと笑えてるわ。伝わってるわ。大丈夫、大丈夫」


 その頃はまだ作り笑いと判るぐらいのレベルのもので、他の感情と間違えられないだけマシ程度のものだった。


 今では普通に笑えるようになった。微笑、爆笑、苦笑、冷笑、その場に合わせた笑い方が出来るようになっていた。


 ただそれが自然なものなのか、笑っている顔を作るのが上手くなっただけなのか、自分でも良く判らなかった。


 「それでね。ユーゴが言うにはね。以前、教会で貰ったお水にすこーしだけ魔素が含まれてたんだって」


 罪悪感に苛まれているボクの気持ちなどお構いなしに、夏穂の話は進んでいく。


 「ユート ダイジョウブカ?」


 ユーゴが心配そうな顔でボクの肩を抱いた。


 ただ今更悩んでも、どうしようもないことは判っている。切り替えよう。気持ちを切り替えていこう。過去が変わるわけではない。


 「教会というからには、聖水……かな?」


 ラグビーという競技は切り替えの連続である。スタンドオフ(司令塔)に求められる最も大切な仕事は攻守を的確に切り替えることだ。


 「うんん。ペットボトルだったらしいよ。だからユーゴはコンビニでいろんなお水を買ったしいんだけど、その中に魔素が含まれてるお水はなかったんだって」


 「……」


 もう二度と誰にも『……ぁん!?』なんて、絶対言わせない。


 「だから、今からその教会へ行ってみない? って提案してるの」


 「いやいや、夏穂は帰れよ。教会へはボクとユーゴで行って来るから」


 「えぇぇー、私がいないとユーゴと真面に会話も出来ないくせに?」


 それを言われると、ぐうの音も出ない。


 これは本格的にミドドルーエ語(?)を学ばないといけないな……。――胸の中にある熱い力――、いや魔法を使えば何とかなるだろう……と思ったところで、ハッとした。


 これまでボクは――胸の中にある熱い力――をラグビーの試合で、また学校の試験や勉強などにも利用してきた。


 そして、それが無限に使えるものではなく、使えばしばらく使えなくなることも理解していた。


 そんな時はいつもこの川原へ来ていた。幼い頃からここで遊んでいたのも、ラグビーの練習をしていたのも、その為だった。経験則で、それが――胸の中にある熱い力――を回復させる一番の手立てであると知っていたからである。


 遠征先でも、何となくそんな場所が幾つかあって、その場にしばらく佇んでいたりした。


 漠然とだが、それは巷でよく聞くパワースポット。その様な物だろうと。心を穏やかにすれば、自ずと回復するものだと。


 だが――胸の中にある熱い力――が魔力だとすれば、この川原には魔素があるのではないかと、ボクは気が付いてしまったのである。


 「あのさ、ボク、凄いことを発見しちゃったんだけど」


 「なに?」


 「この川原には、たぶん、その魔素があるよ」


 夏穂とユーゴから注目される中、ボクは得意げに発表した。


 「……」


 どうやら二人とも驚き過ぎて声が出ないようだ。


 ボクがどうだ? という顔をしてやると、やがて二人とも呆れたように笑った。


 「そんなことは知ってるよ」

 「ソンナコト ワカッテイル」


 「あのね。この川原に魔素が漂っていることは常識だよ。だからユーゴはこの川原にテントを張って住んでたんんじゃない」


 そ、そうなのか? 


 それにしても……非常識の塊のような夏穂から常識を説かれるのは……少し屈辱的だ。


 「だけど、それじゃ足りないの。すんごくうっすーいからね。だから魔素が含まれるお水を探しているの。わかった?」


 「マソデハナイ マソニニタ マソノヨウナモノ ダ」


 ユーゴのその発言の後、二人はまたミドドルーエ語で何か話し合っていた。


 「あっ、ごめん。正確には魔素じゃないんだって。似た別のナニカなんだけど、それが魔力を回復させる。ってユーゴは言ってる」


 異世界の大気には酸素や二酸化炭素のように魔素が普通に含まれているそうだが、この世界には皆無だそうだ。


 ただし、魔力を回復する為の似たナニカが存在していて、それがこの河原に極微量に漂っているとのことだ。またユーゴが教会で貰ったミネラルウォーターの中にも含まれていたらしい。


 つまりユーゴが探しているのは魔素そのものではなく、魔力を回復させる――魔素に似たナニカ――ということである。

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