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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第3章 彼女は自分が何者かを知りたかった
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8 悠斗と悠五呏

 「つまり悠斗と悠五呏君はそもそも双子で、悠斗が益田さんに引き取られて日本で育ち、悠五呏君が悠升伯父さんに引き取られて外国で育った。そう言うことかしら?」


 姉ちゃんの推測は辻褄が合っている。悠五呏の辿々しい日本語からも、彼が日本で育ったとは思えない。


  「でも、どうしてここにボクの名前があるんだろう? ――悠斗――という名前をボクに付けたのは爺ちゃんだよね?」


 ボクは悠五呏が広げた羊皮紙の『高梨悠斗』と書かれた一点を指す。


 爺ちゃんは、考えている最中なのか、ただコクコクと頷いた。


 「ねえ、お爺ちゃん。これ悠升伯父さんの字?」


 「筆跡か? ……わからん。ただな、悠升が小学生の頃、学校の宿題か何かで、名前の由来を訊かれたことがあってな。その時、一合の十倍が一升という話をしたことがあった。その時、悠升が「だったら、ボクの息子はその十倍の悠斗だね」と言ったのを思い出して、『悠斗』と名付けたのじゃが……」


 つまりボクは、爺ちゃんから『悠斗』と付けられる前から、そもそも『悠斗』だった……ということだろうか? アノ母親から『悠斗』と呼ばれたことなど一度もなかったのだけれど……。


 「……これ、たぶん兄ちゃんの字で間違えないと思うわ。『高』の字の下の口だけ丸く書く癖があったから……」


 横から紙を覗き込んだ母さんが言った。確かに、上の口は四角なのに、下の口には角がなく丸くなっていた。


 「で、『悠五呏』というのは?」


 「うむ、戦後しばらく一斗缶のことを五ガロン缶と呼んでおった時期があったが、それでかのぉ??」


 「何となくだけど、発想が兄ちゃんっぽいよね。無理矢理って言うか……」


 皆でウンウン唸りながら、いろいろ考えていると……。


 黒猫のミーナが――シュタリとテーブルの上に飛び乗った。そして悠五呏のすぐ前でオスワリをすると、マジマジその顔を見つめていた。


 二階にあるボクの部屋の窓はミーナがいつ来ても入れるようにいつも少しだけ開けているが、一階のリビングまで降りて来ることは滅多になかった。


 「オマエハ ミーナ カ?」


 すると、悠五呏が目を潤ませるようにして、黒猫のミーナに呼び掛けた。


 ミーナはゆっくりと首を縦に振った。まるで頷くように。……偶然だろうか。こんなにも不思議なことがいろいろ続くと、何もかもが偶然とは思えなくなっていた。そもそも悠五呏がミーナの名を知っているはずがないのだ。黒猫のミーナが最初にアパートに訪れた時、「ミーナ」とそう呼んだのはアノ母親である。


 「ミーナのことを知ってるの?」


 ボクは悠五呏に訊ねる。


 「ハハノナカマ」


 彼はコクリと頷いてそう言った。


 仲間? つまりミーナはアノ母親に飼われていたと言いたいのだろうか?


 「取り敢えず、こうしていても何だから、まずはご飯を食べましょう」


 気を取り直すかのように母さんが食事をテーブルに並べ始めた。それと同時にミーナはテーブルから飛び降りそのまま二階へ駆け上がっていった。


 まず食事をしている中で思ったのは、悠五呏はその風貌に似合わず、とても上品に食事をするということである。所作が綺麗なのだ。母さんがフォークとスプーンを手渡そうとしたが、それも断り箸を上手に使って食べていた。


 その間も会話は続けていた。ただ、なかなか要領を得なかった。悠五呏も伝わらないもどかしさに何度も首を捻っていた。


 それでも幾つか判ったこともあった。


 まず、ボクら家族が一番知りたい父・悠升の行方であるが、どうやらミドドルーエ王国という国にいるらしい。そこで父は偉い人だということである。


 聞いたこともない国名であり、姉ちゃんがスマホで調べていた。普段は食事中にスマホを触ると母さんに厳しく叱られるが、この日は見逃された。それでもどの辺にある国かさえ判らなかった。


 地図帳を持って来て世界地図を広げてみたが、悠五呏は首を傾げるばかりだった。


 「もしかすると『ミドドルーエ王国』は、日本では別の言い方をされているのかもしれないわね。ドイツがジャーマニーだったり、ギリシャがグリースだったり、オランダがネーデルランドだったりするじゃない。ちょっと調べて来るわね」


 先に食事を終えた姉ちゃんは、二階の自室へ戻っていった。


 確かに、まずは『ミドドルーエ王国』について知ることが何より先決だった。地域が判れば自ずと近しい言語が見えてくるはずだ。その言語の壁を取っ払ってからでなければ、話は遅々として進まない。


 悠五呏が話す言葉は、明らかに英語やラテン語とは違っていた。響きにやや硬さがありドイツ語っぽくも聞こえるが、紡がれるその言葉に聞き覚えのある単語は一つもなかった。姉ちゃんも、ヨーロッパではないのかもしれない、と言っていた。


 「話は一旦切り上げよう。久美の調査を待ってからの方が良いじゃろ。幸いと言ってはなんだが、明日は台風で休みじゃ。時間はたっぷりある」


 爺ちゃんは心逸はやる自身の気持ちを戒めるようにそう言った。目前に20年以上追い掛けて来た念願の情報を持つ人物が出現したとは言え、このまま話しても埒が明かないと思ったようだ。困惑する悠五呏にこれ以上質問攻めするのも辛い。


 悠五呏は、今晩ボクの部屋で寝て貰うことになった。その準備の為、ボクは一階にある押し入れから布団を二階の自室へ運んでいる時だった。


 突然、玄関のチャイムが鳴った。


 チャイムはいつでも突然なるが、外はすでに土砂降りであり、締め切ったドアの向う側から強い雨音が聞こえていた。


 こんな日に誰だろう? 首を傾げながら玄関を開けると、強い雨飛沫と共に立っていたのは夏穂だった。


 大きな黄色い傘を差し、淡いピンク色のポンチョ型のレインコート姿で、その首元からは黒猫のミーナが顔だけをちょこんと出していた。


 台風の日にいきなり夏穂が来たことも、夏穂とミーナが一緒にいることも、普段なら驚いてしまっているところだが、今日はいろいろあり過ぎて、それすら些末なことのように思えた。


 「で、何か用?」


 そう言ったのはボクではない。夏穂だ。他人の家を訪問しておいて……。


 「それはこっちのセリフなんだけど……」


 兎にも角にも、横殴りの雨の中に立つ夏穂を家の中に引き入れ、玄関のドアを閉める。


 「お姉ちゃんがね、――ユウトの家へ行け――って言うもんだから、アタシ、急いで来たんだよ。……だよね?」


 夏穂は下を向いてポンチョの首元から顔を出す黒猫のミーナに同意を求める。どうやら夏穂はミーナのことを――お姉ちゃん――と呼んでるらしい。黒猫のミーナと夏穂が知り合いであったことはちょっとだけ驚いているが、夏穂がオカシナことを言う分はそう驚くことではない。昔からそうなのだから。


 ボクが、夏穂が脱いだ濡れたレインコートと傘をガーレジの方へ持って行って干していると、リビングから絶叫が聞こえた。そりゃ、まあそうなるよね。

 

 「わっ! ユウトがもう一匹いる!」


 人を虫みたいに言うな。リビングへ戻ると、夏穂は悠五呏の周りをグルグル回りながら、真剣な眼差しで見ていた。いや観察していた。


 ただあまり驚いた様子はなく、まるでデキる社長秘書のように眼鏡の代りに猫耳カチューシャをクイッと上げた。


 「で、お姉ちゃんはアタシに何をさせたいのかな?」


 夏穂はニヒルな笑顔を作る。


 「***** *** ************」


 すると悠五呏がミドドルーエ語で夏穂に向って何かを言った。


 「******」


 それに夏穂は、然も当然とばかりに同一と思われる言語で答えたのである。


 「悠五呏が何を言ってるか、判るの?」

 「それは、どこの国の言葉じゃ?」


 本日はもう何があっても驚かないだろうと思っていたその矢先に驚かされてしまった。近頃、夏穂への対応はスルーと決めていた。それが夏穂の戯言に巻き込まれない最も効果的な対策だった。だけど……これには反応せざるを得なかった。


 「うん。判るよ。だって前世のアタシも使っていた言葉だもん」


 夏穂は嬉しそうに、そして誇らし気に胸を張った。


 これまでなら日頃の夏穂を思い返し 「またか……」と思っただけだろう。だけど実際に、すぐ目の前で、夏穂が悠五呏と会話するのを見せつけられてしまっていた。聞いたこともない外国語で……。


 その後も夏穂と悠五呏の会話は続いた。適当に話しているわけではないことは、悠五呏のその表情を見れば疑いようもなかった。会話はちゃんと成立しているようだった。意思疎通が出来ていた。そこにボクが言葉を挟む余地はなく、ただただ呆然とその信じられない光景を眺めていることしか出来なかった。


 「ゴルゴンゾーラだけどね、アタシと同じ転生犬(?)なんだって」


 ずっとミドドルーエ語を話していた夏穂が唐突に、ボクらに向かって日本語で言った。


 通常なら「はぁ?」と言ってしまいそうなところであるが、もはやボクは疑うことに疲れていた。どうやら夏穂は悠五呏に通訳を頼まれたとのことである。


 ……ともかく、不自然なまでに悠五呏の傍を離れないゴルゴンゾーラは、悠五呏が異世界で飼っていた犬だったとのことだ。またゴルゴンゾーラにも前世の記憶もあるのだそうだ。


 通訳する夏穂に同意するように悠五呏も頷いているので、まったくデタラメな話をしているわけでもないようだ。ただその説明に納得がいかないとばかりにゴルゴンゾーラは夏穂にガルガル文句を言っていた。多少の差異があるのかもしれない。


 「私は寝るから。詳しくは明日聞かせてね」


 これまで黙って状況を見守っていた母さんだったが、次々に起こるあまりに非常識な事に気持ちのキャパが追い付かなくなったのか、指でコメカミを揉みながらリビングを出て行った。


 それから悠五呏の長い長い話が始まった。夏穂の通訳で。


 話は夜中過ぎまで続いた……が、深夜2時を回った辺りで、プツリと糸が切れたように夏穂が眠ってしまったことで終わりを告げた。


 悠五呏と話している時の夏穂は終始、驚いたり――、笑ったり――、泣きそうな顔をしたり――。


 ただそれを通訳するとなると、いきなりはやはり難しかったようで、悠五呏に何度も間違っていないかを確認しながら、ボクらが理解できるよう工夫しながら説明してくれていた。また単語として日本語にないモノもあるようで「***って日本語で何て言うんだろ?」と頭を抱える場面も何度かあった。


 夏穂はボクらの為に凄く頑張ってくれた。


 これまで、ちょっと変わった娘扱いしたり、無視したり、避けたりしてたけど……今日の夏穂には感謝しかない。これまでの自分の態度が少しだけ申し訳なく思えた。


 「ありがとう。今日はすごく助かりました」


 ボクは、疲れ果てソファーで眠る夏穂に、そっとブランケットを掛けた。


 話を纏める。


 まず、父である高梨悠升だが――


 異世界にいるとのことだった。ミドドルーエ王国は異世界にある国ということである。つまりネットで調べても、地図帳を見せても、判らないはずである。


 「悠升は生きておるのか?」という爺ちゃんの問いに、悠五呏は力強く頷いた。


 25年前、ミドドルーエ王国によって、益田聖奈と共に異世界へ召喚されたのは間違えないとのことだ。その後、アノ母親とボクだけが日本へ帰って来たということになる。


 「えっ……ユウトは勇者の魂を持った転生者じゃなくて、勇者様の子供なの?」


 そうだとばかりに悠五呏が頷く。


 その事実には通訳をする夏穂が一番驚いていた。目を見開いたままミーナへとゆっくり視線を移す。ミーナはヤレヤレといったような目で夏穂を見ていた。

アドバイス頂き、恋愛(現実世界)⇒ファンタジー(ローファンタジー)にジャンルを変更しました

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