5 パブリック・ビューティーズ
姉ちゃんの部屋は、まるで海外のジャンク屋のような? ハッカーの秘密基地のような? 何とも言えない異様な雰囲気を醸し出していた。
出入口以外のすべての壁には金属製のラックが置かれ、そこに書籍らしきものは一冊もなく、夥しい数の機材がごちゃごちゃ積み上げられていた。
またこの部屋のメインを示すように、下から照らされた間接照明に浮かび上がっているのは、横長のデスクとその上に横並びになった4枚の大型ディスプレイだった。
勉強用であろう小さな机とベッドは窓の方へ寄せられ、部屋の大半がパソコン関連の機材で占めていた。
「あら、悠斗は知らなかったのかしら? 私の趣味は戦争系のオンラインゲームなのよ。パソコンもすべて自作なのよ」
姉ちゃんは澄ました顔でロボット漫画のコックピットのようなゲーミングチェアーに手を置いた。
いや……全然、知らなかったけど……。よくよく考えれば、姉ちゃんの部屋に入ったのは小学生以来のことだ。
自宅にいる時、殆ど部屋に篭っていることが多い姉ちゃんだったが、てっきり勉強を頑張っているとばかり思っていたが、まさかゲームをしていたなんて……。
「な、なに、引いてるのよ? き、霧島さんだって参加してるんだからね!」
「えっ?」っと薫子さんを見ると、ピクピクと顔が引き攣っていた。それは言って欲しくなかったことのようだった。
「た、確かに高梨さんに……(無理矢理)……誘われて、近頃は私も参加させて頂いてますが……高梨さんのチーム、パブリック・ビューティーズに」
「ちょ、ちょっと!」
焦りを禁じえない姉ちゃん。
パブリック・ビューティーズ ……つまり自分の名を英語にしているのか……。
「つまりそれって、ベルウッド侯爵令嬢と同じ発想じゃない?」
「あ、あんなのと一緒にしないでよ!」
「鈴木さんも松田君もパブリック・ビューティーズのチームメンバーですよ。彼らと高梨さんはとても仲良しなんですよ」
何だか、暴露大会が始まってしまった。
「な、なによ! 霧島さんなんてね。実生活ではストーカーのくせに、ゲームでは大剣を振り回して突撃していくバーサーカーなんだから! ホント闇が深いわよね~」
「……」
薫子さんが怒ってる。あまり表情は変わらないが、めっちゃ怒ってるのが伝わって来る。
姉ちゃん、そろそろ言って良い事と悪い事を考えないと、弁護士になってから足をすくわれるよ。
「松田のバカが学校で喧伝したせいで、北頭学院にもけっこうメンバーがいるのよね。あまりログインして来ないけど、夏穂も参加してるわよ」
「彼女のアバターは……本人の再現度が凄いですよね。初めて見た時、ゲームの中に夏穂ちゃんがいたので、びっくりしました」
「まあ、あの娘は元がアニメ顔だし、課金までして猫耳と尻尾つけてるからね。霧島さんもそのアニメ乳を再現すれば良かったのに、ね?」
今日の姉ちゃんは、何かと薫子さんに挑発的だ。
ただ薫子さんは、これ以上姉ちゃんと言い争っても良いことはないと思ったのか、アニメ乳についてはスルーを決めたようだ。
「……あっ、それから、悠斗くんのお友達の園田君(?)でしたっけ? 彼も参加していますよ」
「あー、忍者アグマルね。彼はほぼ毎日ログインしてくるヘビーユーザーよ」
北頭学院のボクの唯一の友達である園田もパブリック・ビューティーズの仲間なのだそうだ。ずっとサムライとばかり思っていたあの喋り方は、どうやら忍者だったようである。
結局、薫子さんが撮った写真の鑑賞会のはずが、その後しばらくゲームの話ばかりになってしまった。
見せて貰った姉ちゃんのアバターは、軍服を着たダークエルフだった。しかも現実と違ってかなーりの巨乳。キャラ名は悠里だそうだが……。確か姉ちゃんが小学生の頃、『悠』が付く字に改名したいと、散々駄々を捏ねて母さんを困らせていたという記憶がある。ゲームで実現出来て良かったね……。
また薫子さんのキャラは小柄な普通の女性という感じだった。実際の薫子さんのようなボンキュッボンではない。やはりゲームという架空の世界では、自分にないものを求めてしまうものなのかもしれない。
これでバーサーカーになるところを観てみたいとは思ったが、薫子さんは「ゲーム辞めます」と引退宣言したことで、姉ちゃんは慌てて態度を一変させて引き止めていた。
そして、よーやくゲームの話も終わり、姉ちゃんのパソコンの大画面で、薫子さんがボクを隠し撮りした写真の鑑賞会が始まった。
さすがに5万枚すべて観るのは無理があるだろうと、厳選した100枚をスライドショー用に編集していたとのことである。
『Yuto's secret photographing
respected by stalker-Kaoruko』
スライドショーは薫子さんの自虐を込めたタイトルから始まった。
最初の写真は、小学生のボクが川原でキックティにボールを置いて、コンバージョンキックの練習をしている何とも懐かしい場面だった。
それから数枚、川原で練習している写真が続き、小学生のボクがラグビーの試合をしているシーンに移った。
「こんなところにまで来てくれてたんですね」
そして中学生になり、段々と大きくなっていくボク。こうやって成長していく自分の姿を改めて観るのは、少し感慨深いものがあった。
場面は全国中学生ラグビー大会になり、ボクがボールを持って走るシーンやトライを決めた瞬間が写し出されていた。そしてプレゼントで貰ったあの額入りの写真『草原に立つエルフの祈り』で画面は一旦ブラックアウトした。
その後は北頭学院高等部の入学式の時の様子が何枚かあって、最後は博多の重松家で撮ったピースサインをするボクをバックに『悠斗くん、16歳のお誕生日おめでとう』というテロップが入り、スライドショーは幕を閉じた。
観終わる頃には、姉ちゃんも固唾を飲んでいた。
「霧島さん……。今日はいろいろ言ってしまったけど、良い仕事だったわ。素晴らしいと言わざるを得ないわ」
姉ちゃんは、薫子さんの手を両手で握り、目からはらはらと涙を落としていた。
「あ、ありがとう……ございます?」
ちょっと大袈裟すぎるとは思ったけど、壊れかけた(?)二人の友情は、どうやら無事修復できたようである。
その後すぐに階下から「薫子、そろそろお暇するわよ」という由美さんの声がして、そこで鑑賞会はお開きになった。
「これは私が預かっておくわ」
薫子さんから貰ったUSBメモリは姉ちゃんに強奪された。パソコンを持ってないボクが持っていても、どうせ観れないので、別に構わないのだけれど……。




