pr.7 おやおやおや? ~side夏穂
週が明けた火曜日の放課後。アタシは1年8組に出向いた。
今日は高梨悠斗に会いに来たわけではなく、戦士アグマルを迎えに来たのだ。悠斗には手だけ振っておいた。どうせ後から会うことになるのだから。ムフフ。
「お待たせでござる。『異世界転生部』の部室は何処にあるでござるか?」
「アタシが案内するから。こっちだよ」
「いや~、拙者、不覚にも『異世界転生部』なんて部活があることを知らなかったでござるよ。ゲーム系の部活でござるか?」
「違うよ。いつ、どこで、だれが、どんなカタチで異世界に転移されるのか判らないでしょ? それに死んだら転生させれられる可能性もあるじゃん。だから、それに備えて、今からいろいろ準備しておくって、部活だよ」
「ふむふむ、それは確かに。興味深い活動でござるな! ところで、部室は新校舎でござるか?」
階段を上り始めると、アグマルが訊ねてきた。
「そうだよ」
「ほー、凄いでござるな。マイナーな部活は大抵、旧校舎に狭いスペースを与えられるだけでござるが、『異世界転生部』はもしや生徒会の肝入りでござるか?」
「そうだよ」
そして3階への階段を上ろうとした時。
「ん? まさか『異世界転生部』は中等部の方にあるのでござるか?」
「ん~、違うかな?」
生徒会室を通り越え『生徒会準備室』と書かれた部屋のドアを開けて、アグマルを中へ押し込む。
「ようこそ、北頭学院冒険者ギルドへ。俺はギルドマスターのマッケンジーだ、よろしくぅーー」
「違うよ。アグマルは『異世界転生部』だよ」
するとアグマルは目をまん丸にして固まっていた。
その後、間を置かずに高梨悠斗も部室の中へ入って来た。
「ユウト! 『異世界転生部』へようこそ!」
「あっ、部屋を間違えました」
高梨悠斗はそのまま部室を出て行こうとしたので、いつもの様にダイブした。彼は細い割に体幹がしっかりしてるので、安心して身を任せられる。
「ようこそ、北頭学院冒険者ギルドへ。俺はギルドマスターのマッケンジーだ、よろしくぅーー」
「やめてくれる? ユウトは『異世界転生部』に入るんだから」
松田健司はこう見えて、かなり手先が器用だ。着ている西洋騎士っぽい鎧も手作りで 自分の体をパーツごとに型取りして、それに千切った新聞紙と和紙を何度も交互に貼り重ねて作ったそうだ。その出来栄えは見事と言わざるを得ない。
「あらあら、お二人とも。新入生が嫌がっているではありませんか。おや? あなたは……。もしやどこぞの国の王族の方でございましょうか?」
と言ってしゃしゃり出て来たのは、鈴木信江。冠っている黄色いカツラは安いポリエステルで、ドレスは昔、社交ダンスをしていたお祖母ちゃんが使っていたかなり古い物らしい。
なんで知ってるかって?
そのお祖母ちゃんとアタシが仲良しだからである。イカの甲を集めている時に知り合った。
鈴木信江の家は港近くの古くからある干物屋だった。彼女はその一人娘で、両親は家業を継ぐことを切望しているようだが、彼女はそれに抗っているようだ。
家では、毎日喧嘩が絶えないらしく「貴族の娘が、魚など干せませんわ」などと言ってるらしい。お祖母ちゃんは「その干物で大きくなったのは誰かね」と嘆いていた。当時、集めた500枚のイカの甲のうち、その半分以上をその『鈴木水産』で貰った。
この二人とアタシは同類として見られがちだが、まったく違う。アタシにはちゃんと魔力があり、事実(夢)に基づいて発言しているが、彼らには魔力はなく、単なる変人である。その分害もなく益もない。初等部時代から付き合いで、ボランティア部を異世界転生部の高等部出張所に推してくれたのも彼らである。
そしていつものようにワイワイ楽しくやっていると、それに水を差すように我らの天敵、暴君公美が本屋の薫子を伴って部室に現れた。
勇者の転生者である高梨悠斗の姉だったが、彼女から魔力の反応はない。ウチの両親や親戚も魔力を持っていないので、魔力の有無に遺伝は関係ないのだろう。
ただ暴君公美の従者の一人である本屋の薫子は魔力を持っていた。当初は警戒していたが、魔力は気配を消すことにだけ終始して、遠く離れた橋の下から近寄ることも、害意もなく、何がしたいのかさっぱり判らない。高梨悠斗が行くところにカメラを持って現れるオッカケ? カメコ?
「はーい。バカども注目」
「これは、これは高梨公爵令嬢 。この様なムサい場所に何用ですかな?」
「松田、静かにしろ!」
「ご機嫌麗しゅう。高梨公爵令嬢」
「ノブエも黙れ!」
「もう、シンエと呼んで下さいまし。爵位を笠に着て、少し横暴ではありませんこと?」
このくだり、もう見飽きた。
「生徒会長の高梨公美よ。新入部員の皆さん。ボランティア部へようこそ」
「や、やはりボ、ボ、ボランティア部でご、ざ、っ、た、か?」
戦士アグマルが愕然としてアタシにゆっくり視線を向けてきたので、スッと逸らした。
今は辛抱して欲しい。アタシが高等部に上がった暁には、必ず異世界転生部を必ず公式に立ち上げるつもりだから。
「おそらく皆さんの大半が期日までに入部届を提出さずにここへ来たと思いますが、まあ、異世界ナントカとか、冒険者とか言われて入って来た人も諦めて下さい。あなた方は来年の4月まではボランティア部で決定です」
「異世界転生部よ!」
「いいえ、異世界恋愛部ですわ!」
「違う! 北頭学院冒険者ギルドだ!」
「これから皆さんはこの様な頭のおかしな連中と、ボランティア部の部員として活動していかなければなりません」
「すいません。あたし風邪を引いていて、提出日に学校を休んでいたんです。出来れば部活を変更したいのですが……。」
おや? おやおやおや? 珍しい魔力持ちがいた。
ウチの学校で魔力を持っているのは、高梨悠斗とアタシ、そして本屋の薫子だけだと思っていたが、もう一人いたとは……。あとで名前を調べてマークしておこう。
ちなみにだけど、――魔法や魔力を使えなくする魔法陣(改)――を施したイカの甲魔石は、既に全て切れていた。中等部1年の3学期辺りから、所々で切れ始め、2年生になった春先にはすべての効力が無くなっていた。
結局、イカの甲魔石の蓄魔力(?)は1年も持たなかったことになる。最低ランクと言われているゴブリンの魔石よりも低品質であるようだ。
年度替わりに校舎に清掃業者入った時、魔力が切れたイカの甲魔石が幾つか発見されたようだった。魔法陣が書き込まれていたこともあって何かの呪いではないかという噂も立ったが、設置したのは1年以上も前のことであり、アタシに疑いの目が向くこともなかった。その噂も 悪戯ということで、段々下火になっていった。
「それは無理よ。入部届の提出期間は4月中旬~9月最初の週末までと決まって――――」
「それでは、いろいろ説明していくわね……っとその前に、なんで、ここに夏穂がいるの?」
高梨悠斗の背に隠れていたつもりだったが、暴君に見つかってしまった。そう言えば、さっき異世界ナントカと言われた時に、ついムッとして声をだしてしまったのだった。
「アタシは異世界転生部の部長なんだから、居て当然でしょ!」
一応、反論してみる。どうせ暴君には何を言っても通用しないのは判っているのだけれど。
「今日はボランティア部の説明会だから、アナタは出て行きなさい」
「嫌よ。アタシはここにいるわ。だってユウトがいるもの」
「松田、夏穂を外へ放り出して」
「フン、人使いの荒いお嬢様だな」
まあ、これはお決まりのくだりであって、毎度のことだ。アタシは高梨悠斗から引き剥がされてドアの外にポイと捨てられた。
「横暴だ。アタシは権力になんか負けないんだから」
と言いつつも、アタシはぶるりと体を震わせた。野良猫のように扱われる快感に打ち震えていたのだ。
次回から3章本編に入ります。




