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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第3章 彼女は自分が何者かを知りたかった
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pr.6 何でアタシの名前を知ってるの? ~side夏穂



 2学期の始業式の翌日、アタシは校門の陰に隠れて高梨悠斗が来るのを待ち伏せていた。もちろん『異世界転生部』への入部を勧める為だ。


 いつもの様に坂下紗枝と手を繋いで登校して来るものとばかりと思っていたが、この日は幸い一人だった。しかも、坂道をダッシュで駆け上がって来た。


 ただ、つい先日、LINEで注意したばかりなのに、高梨悠斗は不用意にもマンホールの上をそのまま通り抜けようとしていた。


 「あぶない!」


 アタシは咄嗟に高梨悠斗に飛び付き、その危機を間一髪で回避した。


 マンホールが、異世界にある召喚魔法のレシーブ的なオブジェクトになりえることは、『アパート住民集団失踪事件』ではっきり証明されていた。それがいつ、どこで、どんなタイミングで起こるのか、何も判っていないのだから、用心に越したことはない。


 「朝から、なに?」


 高梨悠斗はさも面倒臭そうな顔でアタシを見下ろしていた。


 「ユウト、今、危ないところだったよ」


 あまり理解していないようだったので、アタシはマンホールを指差し、危機管理の甘さを指摘する。勇者の生まれかわりなのに、何という拙さ。そして愚かさ。さっさと覚醒して己の危うさを自覚して欲しいものである、。


 それなのに、高梨悠斗は――だから何だ?――とばかりにアタシの言葉を無視して歩き始めた。


 「ちょっと、ユウト。ちゃんと聞いて。もう少しで異世界に転移させられるところだったんだよ。いつも――気をつけて! アタシ言ってるよね?」


 「はいはい」


 アタシは、いつ、どこで、だれが、犠牲になるとも判らない異世界召喚の恐ろしさを、懇々と語るが、高梨悠斗は聞く耳をまったく持たなかった。


 「ちょっと、ユウト! ちゃんと話、聞いてる?」


 「……」


 はい、いつもの無視である。


 近頃の高梨悠斗はいつもこうだ。それをお姉ちゃんに愚痴ると、ちょっと困ったような顔をされる。静かに覚醒を見守れ、と言いたいのは分かっているのだけれど……。何かといろいろともどかしい。


 「ところで、部活は決まった?」


 異世界の話をすると無視されるので、アタシは仕方なく話を変えた。


 「いや、もう2学期だよ。今更どこにも入らないよ」


 「それはダメだよ。この北頭学院は部活必須だもん。9月までにどこかの部活に所属してないといけないんだよ」


 一学期、授業以外殆ど参加してない高梨悠斗はそれを知らなかったのか、唖然としていた。


 だからアタシは天使の微笑みを浮かべる。この際、異世界転生部に入っていきなり異世界転移させられる恐ろしさを学んで欲しい。


 「だったらさ「嫌だ!」、アタシが所属している「嫌だ!」、異世界転生部に「嫌だ!」、入部したら「嫌だ!」良いぢゃん?」


 「ちょっとーーー、ユウ君から離れなさーーーい!」


 すると、校門の前からゼェゼェ息を切らしながらも、絶叫をあげる坂下紗枝が現れた。

 

 「おっと、うるさいヤツが来やがったぜ! 今日の放課後、教室に迎えに行くから~待っててよ~」


 アタシは高梨悠斗へのホールドを解除して、中等部のある校舎の方へ走った。


 夏休み、ショッピングモールで偶然見かけた坂下紗枝は見知らぬ男と手を繋いで歩いていた。「浮気じゃん!」っと思って後をつけてみると、なんと! ふたりでラブホテルに入っていった!


 ちゃんと写真も撮った。


 だけど今は放っておくことにした。まだ泳がせた方が面白くなりそうな気がしたからだ。


 その内、某動画サイトのバーベルヒロインみたいなことしてみよっかな、なんて考えている。これまで高梨悠斗との仲を散々邪魔してきた紗枝の吠え面を見るのが、今からちょっと楽しみである。


 そして放課後になると、アタシはさっそく高等部へ向った。


 これまで中等部2年がある教室から高等部1年の教室へ行くには、二階から一旦三階へ登り、渡り廊下を通って、一階にある高等部1年の教室がまで階段を降らなければならなかった。


 だけど2学期から高等部と合わせて中等部の方でも一足制となり、靴を履き替える必要がなくなった。お陰で一階へ下って中庭を通れば、高等部1年の教室へ行けるようになり、以前よりかなり近くなった。


 高等部1年8組の教室を覗くと、人の姿は疎らだった。また高梨悠斗の姿も見当たらなかった。


 「もう! 待っててって、言ったのに……」


 グラウンドや体育館、講堂や音楽堂、いろいろ見て周ったのだけど、高梨悠斗の姿はどこにも無かった。


 「もう帰っちゃったのかな?」


 アタシも諦めて帰ろうと校門の前まで来た時だった。


 校外から学校へ入って来る高梨悠斗を発見した。アタシは朝と同様、高梨悠斗に思いっきりダイブする。


 「ちょっと、ユウト! 放課後、教室へ迎えに行くって言ったよね。どうして待ってないのよ?」


 アタシはちょっと怒ってる。


 「その異世界ナントカに入るつもりはないからだよ!」


 高梨悠斗は憮然として答える。意味が判らない。彼の為に立ち上げたような部活なのに……。


 「なんで?」


 「嫌だからだ!」


 「だから、なんで?」


 呆れたように溜息をついた高梨悠斗は天を仰いた。


 その時、ふと高梨悠斗の隣にいた人物に目が留まる。


 「ところで、あなたはだれ?」


 問い掛けると、その彼は驚きの眼差しでアタシを見ていた。


 「……なん……だと……」


 「ねぇ、あなたも『異世界転生部』に入らない?」


 「は、はい」


 やはり彼は話がわかる男だ。何となくだけどマッケンジーやシンエ侯爵令嬢と醸し出す雰囲気が似てるのだ。


 「よし! じゃ~ユウトも行くよ~。異世界転生部へゴー!」


 アタシは話がわかる男と共に異世界転生部がある三階へ向かおうとすると、高梨悠斗は校門の外へと走り去ってしまった。

 どうやら入部届を出さずに帰るつもりのようだが、それはつまり『異世界転生部』への入部が決定したことを意味する。来週、学校へ来てから驚くがよい。


 「えっと、もしかして……でござるが、お手前はミーリア殿ではござらんか?」


 すると、話が判る男は、急にアタシの前世の名を呼んだ。


 どういうこと? もしかして彼は……。アタシやお姉ちゃん、そして高梨悠斗と同じ、異世界転生組ってこと? だけど彼からは全く魔力を感じない。


 「えっ? 何でアタシの名前を知ってるの?」


 「いや、その耳と尻尾。もしやと思ったでござるよ。申し遅れました。ソレガシ、アグマルでござる?」


 「ん? 誰?」


 「えっ? 何度か一緒に戦った仲ではござらぬか、忘れたでござるか?」


 残念ながら彼のことも、その名も、憶えていなかった。もしかすると、まだ夢には出てきていない人物かもしれないが、彼もまた魔王と戦った戦士の一人の生まれ変わりのようだ。


 そんなことを考えていると、生徒会室の前まで来ていた。そして彼は。アタシが指示するまでも無く、さっさと自ら入部届を書いて手渡して来た。


 「それでは、拙者はこれにて失礼するでござる。ミーリア殿、また戦場でお会いしましょうぞ」


 そう言ってアグマルと名乗る戦士は去って行った。


 アタシは、そっと『ボランティア部』と書かれた白い箱に、アグマルの入部届を投函した。


 別に騙したわけではない。仕方がないことなのだ。


 高等部にはまだ『異世界転生部』は正式に発足してない。だから今は、マッケンジーらの計らいもあって、高等部のボランティア部を異世界転生部の出張所にさせてもらっているのだ。


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