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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第3章 彼女は自分が何者かを知りたかった
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pr.1 ねえ、あなたは勇者様なの? ~side夏穂

※予告していた幕間話『北頭誠子の手記』ですが、思ったように纏まらず、第三章後に先送りすることにしました。失礼しました。



 物心がついた頃から、ずっと違和感があった。


 納まりが悪いっていうか――居心地が良くないって言うか――自分であって自分じゃないような――ここにいてはイケないような――どこか帰らなければならないような――。


 「あたしはだーれ?」


 それが幼い頃のアタシの口癖だった。


 パパとママは「あなたはミヤタカホよ」と教えてくれるけど、アタシが聞きたいのはそんなことじゃない。本当のアタシが誰か? 


 「だからあなたはこの街にある宮田総合病院の一人娘、宮田夏穂よ。3歳の女の子よ」と結局、堂々巡りだった。


 アタシは、アタシが何者かを知りたいのであって、出生地や名前や年齢を知りたいわけじゃない。伝わらないもどかしさに泣き叫んだり暴れたり、パパやママを困らせていた。


 だからアタシは変な子と言われていた。


 お家が病院というのもあったんだろうけど……パパからは病気を疑われて、脳波を取られたり、大掛かりな機械の中に入れられたこともある。当然アタシは正常なのだから、異常がみつかるわけもなく……。遂には悩んだママからはインチキ霊媒師のところへ連れて行かれたこともあった。――妙なモノがついている――と高いお布施を払って、バッサバッサと祓って貰ったのだけど、それで何かが変わることは当然なかった。


 そんな鬱々とした日常に光が差したのは、アタシが北頭学院の幼稚舎から初等部へ上がって間もない頃のことだった。いつもの様に自宅の隣にある病院の中をぶらぶらしていた時のことである。


 パパからは――病院へ入ってはダメ――と口煩く言われていたけど、そんなこと知ったことじゃない。おウチにいるのは窮屈だった。

 

 「うんうん。そうよね、分かるわ。夏穂ちゃんの気持ち、ママはとーってもよく分かるわ」


 さも理解者であるかのように――、さもアタシを尊重しているかのように――寄り添って来るママが嫌いなわけではなかったけれど……正直ウザかった。


 その点、病院は良い。皆、忙しそうにしているし、アタシに構うものなどいない。


 そして入院病棟をいつもの様にブラブラ彷徨いていた時のこと。開けっ放しになった病室の中で、退屈そうにベッドに寝転がっている少年の姿を見つけた。


 その時のアタシは、吸い込まれるように……、気づくとその少年がいるベッドの上にいた。


 「ねえ、あなたは勇者様なの?」


 自分が発した言葉でありながら、余りにもその唐突なその質問に、アタシ自身が驚いていた。――勇者様――って何よ? 自身でも初めて聞く言葉であり、口にした言葉だった。


 「違うけど……」


 ビー玉のように無機質なその目からは、その感情は伺い知れなかった。だけどアタシは、どうしても彼に訊いてみたかった。彼ならその答えを知っている。そんな気がしてならなかったからだ。


 「あたしはだーれ?」 


 久し振りにこの質問をした。


 だが彼は首を傾げて――さあ、誰だろうね――そう言っただけだった。


 彼の名は高梨悠斗。地元の小学校へ通う小学3年生だった。学校で事件があり、大した怪我はなかったが、一応検査の為に入院したとのことである。3歳ぐらいの時にも、一度ウチの病院に入院したことがあったそうだ。


 彼に遭ったその日から、アタシは不思議な夢を見るようになった。


 アタシは白い猫で、黒い猫の姉がいた。姉は大きく強く。アタシは小さく弱かった。二人、いや二匹は王都と呼ばれる場所で暮らしていた。姉は武術を学び、アタシは魔法を覚えた。


 その翌日にもアタシは彼の病室を訪ねた。そして夢で見た話をした。彼の顔に表情はなかったが、楽しいという感情は伝わってきた。もどかしそうにしているそんな彼に、アタシの胸はキュンと鳴った。たぶんだけど、これが初恋だったと思う。


 そしてその晩も夢を見た。


 どうやらアタシと姉は人間の姿になることが出来るようだった。猫の獣人なのかしら?? アタシの白い髪のおかっぱ頭の上には三角の耳がピョコンと立っていた。何となくだけど、今のアタシと顔が似ている気がした。


 早速その話をしようと、学校が終わってすぐに彼がいる病室に向ったが、すでに退院した後だった。


 彼と会わなくなってからも、不思議な夢は続いた。


 見る夢はいつも細切れで、言葉が判らず意味不明なものが多かったが、少しずつ少しずつパズルのピースが埋まっていくように、段々とその概要が見え始めた。


 アタシと姉は、猫でも獣人でもなく、妖精猫ケットシーだった。


 強靭な身体を持つ姉は魔法で身体を強化して戦う武闘派。凄まじいネコパンチ一発で大男を簡単に伸していた。


 逆にアタシはあまり身体が強くなく、魔道具や魔石に興味を持ち、その研究をしていた。


 そして大人になったアタシと姉は、勇者様が指揮を執る魔王討伐に参加することになった。姉は大魔導士様の護衛役を任され、魔石研究者だったアタシは賢者様の補佐に付いた。


 またアタシや姉は勇者パーティーをサポートする勇者オールブラックスという名誉ある称号まで得ていた。


 そこでアタシは、初めて勇者様の顔を見たのだった。


 振り返ったその顔。一瞬で人を魅了してしまうその佇まい。それは間違えなく、大人になった高梨悠斗だった。


 アタシは理解した。


 アタシの前世は魔石研究者の白いケットシーであったのだと。そして高梨悠斗は勇者様の転生体なのだと。


 ――ねえ、あなたは勇者様なの?――


 彼と初めて会った時、無意識に口を衝いた言葉だったが、あれは間違ってなかったのだ。


 それ以降、アタシのアイデンティティ・クライシスは解消した。さらに自身の同一性を高める為、猫耳カチューシャと尻尾をつけて生活するようになった。


 それからしばらく経って……。

 

 小学3年生になったアタシは、5年生になった勇者様の転生体である高梨悠斗に再び会うことになった。


 今回はかなり大きな怪我を負ってしまったらしく、2週間程の入院が必要とのことである。どうやらラグビーの試合中に骨折してしまったとのことだった。


 また以前会った時と少し雰囲気が違っていて、作り物のように冷たかった眼差しが、すこし柔らかくなっていた。


 前世のアタシが得ていた名誉ある称号である『勇者オールブラックス』の名の由来は、おそらくラグビー・ニュージーランド代表のニックネームから来ているのだと思う。


 前世に続き、今世でもラグビーをしているなんて、勇者様は余程ラグビーが好きとみえる。


 案外、前世の記憶があったりして……。何度かカマを掛けてはみたのだけれど、自分が勇者だった前世のことは憶えていないようだった。


 覚醒にはまだ時間が必要なのかもしれない。



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