ep.1 生徒会のお仕事 ~side薫子
悠斗くんと遭遇するという――衝撃の金曜日――から週が明けた火曜日。生徒会のお仕事ということで、放課後、高梨さんと生徒会室に残っていました。
「そろそろ行きましょうか」
本日はボランティア部の説明会とのことです。これから新生徒会長が決まる選挙までの1ヶ月間、私がボランティア部との連絡係になるとのことでした。
ボランティア部は北頭学院で最も不人気な部活です。生徒会のお手伝いと言っては聞こえは良いですが、生徒会行事の面倒臭い雑用を一手に押し付けられる、いわゆる便利屋です。
当然、普通に募集しても誰も入部しません。ですから9月初頭の部活動・入部期限内にどの部活にも所属しなかった人が集められることになります。
ちょっと卑怯な手段ではありますが、少人数で構成された生徒会を滞りなく運営して行く為には、絶対に必要な部ではあるのです。
ただ稀に自らボランティア部に入部する人もいます。そんな人は大抵ちょっと変わった人です。それ以外の部員はまったくヤル気がありません。それも仕方がないことなのでしょうが……。
私は、高梨さんの三歩後ろを歩いて――生徒会長の金魚のフンの大きい方――よろしく、生徒会室のすぐ隣にある生徒会準備室兼、ボランティア部の部室へと入りました。
すると相変らずの松田君と鈴木さんが騒いでいました。この二人が、その自らボランティア部に入った変わった人たちです。自分たちがボランティア部という自覚はあまり無さそうですが……。
まあ確かに松田君の手作り鎧は凄いとは思いますよ。紙とアルミホイルで作られているとは思えない出来栄えですが、なぜそれを学校で着なければならないのでしょうか??
鈴木さんが着ているドレスは、おそらく社交ダンス用のお古のドレスだと思いますが……はっきり言って、見ているだけで、こちらが恥ずかしくなります。
さらに今日は中等部であるはずの宮田夏穂ちゃんまでいて、室内はさらに混沌としていました。
宮田夏穂ちゃんはご近所の宮田総合病院のお嬢さんです。商店街界隈きっての変人として名を馳せています。
夏穂ちゃんの猫耳カチューシャと尻尾は普段から見慣れているせいか、あまり違和感はありません。むしろ、ない時の方が物足りなさを感じる程です。それにしても、あの長い尻尾はごく自然に揺れていますが、どう言う仕組みになっているのでしょう? 不思議です。
「はーい。バカども注目」
高梨さんが教壇に上がると、私はそれに侍るように横に立ちました。
正面には7名のボランティア部の新入部員が横にずらりと並んでいましたが、それを見た瞬間、私はフリーズしてしまいました。
並んでいる新入部員の中で頭一つ飛び出す程背が高く、まるで一人だけ別世界から来た王子様のように、金曜日の夕刻に――衝撃の遭遇――をしたばかりの悠斗くんが目の前に立っていたからです。
部室の中では、大騒ぎする変人お二人を、高橋さんが猛獣使いの如く捌いていましたが、私には何も聞こえて来ませんでした。時間が経つのを忘れてただただ硬直していました。
その時、急に高梨さんに名前を呼ばれ、私は我に返りました。
「3年8組の霧島です。よろしくお願いします」
いつの間にか、ボランティア部の説明も終わっていました。ですが、何の問題もありません。私が生徒会で出来る事と言えば、この威圧感パネェ体を活かして、さも参謀であるかのように高梨さんの横に立っていることだけです。当然、本当の参謀のような役割を果たしたことはありません。
ただその時、悠斗くんは私の存在に気が付いたようでした。それが少し嬉しくもあり、逆に認識されるストーカーって、どうなんでしょう? とも考えてしまいます。
普段なら、自己紹介さえしてしまえば、私の仕事は終わったも同然です。後は高梨さんに指示されたことを指示通りにすることだけなのですが、今回は悠斗くんがいることもあって、ちょっとだけ張り切ってしまいました。
「それから新入部員の1年生だけど……。前の黒板に名前を書いて貰おうかしら」
普段は絶対しないのですが、高梨さんのその言葉に、私は率先して教壇へ上がろうとしました。
「では、わたくしが書いて差し上げますわ!」
……が、鈴木さんに邪魔されてしまいました。悠斗くんにちょっと良いところを見せようと思ったのですが、こういう時に反射神経の鈍さが祟られます。
自己紹介の後は、今月末に迫る校内選挙の説明が淡々と続き、生徒会の仕事が漸く終わりました。
高梨さんの後に続いてボランティア部の部室を出る時、悠斗くんと目が合ってしまったのですが、会釈してくれた彼から思わず目を逸らしてしまいました。
レンズ越しだと、図々しいぐらいガン見するくせに、我ながら情けないことです。弱いにも程があります。どうして私はこうなんでしょうか。本当に自分が情けなくなります。無視したなどと思われていないと良いのですが……。
高梨さんとお別れした後、私は自己嫌悪に苛まれながら駐輪場へトボトボ歩きました。
そして自転車に乗ろうとした時でした――
「先輩、今、お帰りですか? 良かったらご一緒しませんか?」
余りにもずっと悠斗くんのことばかり考えていた所為で、幻影を観てしまっているのかと己を疑ってしまいましたが、目の前にいたのは紛れもなく本物の悠斗くんでした。
「い、いえ、私は……漕ぐのが……遅いので、先に行って下さい」
いきなりの自転車ランデブーは、今の私にはハードルが高すぎます。
「そうですか。では失礼します」
悠斗くんは自転車に乗ると、そのまま去っていきました。あっさりでした。ガッカリはしてませんよ。正直ホッとしています。
そんなことよりも……悠斗くんにサングラス姿を見られてしまいました。不覚です。自転車に乗ると目が乾燥するので、父の形見であるマッカーサーのようなサングラスを掛けていたのですが、母が言うようにもう少し可愛い眼鏡にするべきでした。
見られてしまったのは仕方ありません。私は大きく深呼吸をすると自転車に乗りました。さっさと帰って仔犬たちの世話をしなければなりません。今週末には母に眼鏡屋さんに連れて行って貰いましょう。
それにしても今日は本当に疲れました。二度も悠斗くんと遭遇してしまったのですから。――衝撃の金曜日――を一気に越えてしまいました。今日の事は何と呼びましょうか?「~の火曜日」。自転車を漕ぎながら、じっくり考えたいと思います。
私はいつもの様に学校の坂道を下って行きました。相棒であるこの自転車には電動アシスト機能が付いていて、登校する際もこの急な坂道も楽々登っていきます。
天候が荒れた日は母に車で送って貰っていましたが、入学してから2年半、無遅刻無欠席で学校に通えたのもこの自転車のお陰です。
この自転車には感謝しても仕切れない――
そう思った矢先のことでした。
川原に差し掛かったところで、自転車が急に重くなってしまったのです。
電動アシスト自転車は、充電を忘れてしまうと重くなることはありますが、ガタガタというこういう手応えは初めてでした。
原因を探ろうと、自転車から降りてみると、明らかに後輪がぺしゃんこになっていました。どうやらパンクしてしまったようでした。
パンクした自転車にそのまま乗り続けてしまうと、タイヤチューブにさらなるダメージを与えてしまうことは、父が言っていたのを憶えていました。
幼い頃、自転車がパンクした時には必ず父が修理してくれました。
「パンク修理も出来ないような男とは絶対に結婚するなよ!」
パンク修理の時、父が決まり文句のように言っていたことです。とても懐かしいです。……思い出に浸っている場合ではありませんでした。おそらくここから自宅まで、まだ4キロはあります。
この電動アシスト自転車は、学校の急な坂道も楽々と登る優れモノなのですが、押すとなるとかなり重いのです。
いっそ母に電話して……。あっ、私はスマホを持っていませんでした。母からは再三持つように言われていましたが、タブレットとパソコンで十分だと、断っていたのです。そもそも電話やメールをするような仲の良い友人知人はいません。周囲を見渡しても、近くに公衆電話はありませんでした。
ここは覚悟して、家まで押して帰るしか無さそうでした。ただ、うんしょうんしょと必死に自転車を押しているのですが、なかなか前へ進みません。こんな大きな体をしていながら、私は、自分でも情けなくなる程、非力なのです。100メートル押しただけで限界を迎えてしまいました。
「どうかされましたか?」
絶望に打ちひしがれていると、後ろから声がしました。振り返えろうとすると、真横に悠斗くんの顔があって、思わず仰け反ってしまいました。
本日より再開します。帰ってからいつも思うのですが、旅行って、逆に疲れます。評価やブクマをして頂く方が、ずっと疲れが吹っ飛ぶ気がします。どうか是非よろしくお願いしますm(__)m




