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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第2章 彼女は物陰からひっそり彼を見る
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12 ワザとやってます?

 自室へ戻ったボクは、早速、明日の準備に取り掛かった。とは言っても一泊なので中型のリュックに下着や靴下などの着替えを詰めるだけだ。


 『祖父が腰を痛めてしまい、明日は僕だけで博多に行くことになりました』


 ふと思い出して、協力者である霧島先輩に一応LINEで知らせておいた。


 チケットを確認すると羽田発―福岡行、9時30分の便となっている。空港へ一時間前に到着しなければならないことを考えると、朝5時には家を出なければならない。


 時刻はまだ10時前だったが、早々にベッドに入った。ゴルゴンゾーラも潜り込んで来て、さて寝るかと電気を消したところで、LINEの通知音が鳴った。


  『チケット代をお支払いしますので、もし宜しければ、私もご一緒させて頂けないでしょうか?』


 霧島先輩だった。


 確かに明日会いに行く人は霧島先輩にとっても叔母である。また祖母にも会えるかもしれない。


 『始発で隣街へ、そこから羽田行きの高速バスに乗るつもりです。飛行機の席も離れていますが、大丈夫ですか?』


 ボクが心配していたのは、霧島先輩の男性恐怖症のことだった。


 『大丈夫です。母にも許可をとりました』


 本当に大丈夫だろうか? 少し心配だが、ボクに断る理由はない。


 『霧島先輩が大丈夫なら、僕はOKですよ』


 『ありがとうございます』


 『それでは明日朝5時10分の始発に乗りたいと思いますので、駅前で待ち合わせしましょう』


 『かしこまりました』


 ボクはフッと大きく息を吐いた。


 霧島先輩と二人っきりでの旅行。普通ならドキドキワクワクしてしまうところなのかもしれないが、実際はそんな悠長なものにはならないだろう。男性恐怖症の霧島先輩を守りながら博多まで向わなければならないのだ。


 電車の中はどうする? バスは? 飛行機の席は? いろいろシミュレートしている内に、気づいたら朝になっていた。


 朝食を食べずに家を出て、5時に最寄りの駅に着くと、すでに霧島先輩は駅前に立っていた。


 ボクは霧島先輩のキャリーバッグを右手で受け取ると、左手で霧島先輩の右手を握った。そしてそのまま霧島先輩の手を引いて改札を通り抜けた。


 電車に乗り込んでも、ボクは霧島先輩の手を離さなかった。始発とは言えパラパラと乗客がいるのもあって、霧島先輩の表情は硬く、少しでも安心させたかったのだ。


 そして五つの駅をやり過ごし、なんとか隣街にある駅へ到着することが出来た。霧島先輩は電車の中でずっと無言だった。やはり、かなり緊張していたようである。


 「大丈夫でしたか?」


 「えぇ……、ずっとドキドキしていました」


 駅から少し歩いて、予約していた高速バスに乗り、霧島先輩を窓際の席に押し込むと、そこでボクは漸くホッとすることが出来た。


 バスの中での霧島先輩はリラックスしていた。隣にボクがいると落ち着くのだそうだ。とても名誉なことのようで、男として見られていないようで、少し複雑な気持ちもある。


 血が繋がった従姉と判った今となっては、そんな目で見てはいけないことは理解しているのだけれど、つい霧島先輩の大きな胸に視線を向けてしまっている。


 バスは8時過ぎに羽田へ到着した。搭乗手続きをする為にチェックインカウンターへと向った。自動チェックイン機を使わなかったのは、交渉したいことがあったからである。


 「すいません。ちょっと相談があるのですが」


 ボクはカウンターの向う側にいるお姉さんに愛想よく笑顔を向けた。


 「……ぁん!?」


 「実は……、彼女、ボクの従姉なんですが、幼い頃に辛い経験をして男性恐怖症になってしまって……。チケットは別々なんですが、何とか隣同士に出来ませんか? もちろん無理にとは申しません」


 そしてもう一度お姉さんを見つめながらにこやかに笑う。


 「……ぁん!? 少々お待ちください」


 お姉さんがパチパチとキーボードを叩く。


 「御二方とも出入口から遠い席になってしまいますが、並んだ空席がございます。こちらに変更されますか?」


 「はい。よろしくお願いします。お姉さんのような優しい方に当たって幸運でした」


 「……ぁん!? いえいえお役に立てて何よりです」


 そしてボクの一番の不安材料は解消された。


 「……悠斗くん……まさか、アレ、ワザとやってます?」


 「はい……いや、まあ、そうですね」


 紗枝は――自覚してない――と思い込んでいるようだったが、自分の笑顔が周囲にどんな影響を及ぼしているかぐらい重々承知していた。夏穂が、ボクの笑顔に妙な名を付けているのも知っていた。


 そもそもボクの笑顔は意識的に作るところから始まっていた。つまりは作り笑いだ。

 

 爺ちゃんに引き取られてから小学3年生のイジメが発端で起きたあの事件まで、ボクは家でも一切笑っていなかったそうだ。自覚はなかった。事件の後、母さんに聞かされた。


 もちろん感情がなかったわけではない。人並みに楽しいと思うこともあるし、喜びも感じる。テレビのバラエティ番組を観れば面白いとも思っていた。


 けれどそれが表情になっていなかった。鏡を見たボクは愕然とした。愕然としていながらも、そこには無感情な黒いビー玉のような目をしたボクがいた。


 それからのボクは鏡を見ながら笑う練習をするようになった。顔の筋肉をどう動かせば、笑っているように見えるようになるかを研究した。そして何とか笑っているような顔を作り出せるようになった。


 「ボクは爺ちゃんといるのが幸せだよ。母さんから褒められると嬉しいよ。姉ちゃんといると楽しいよ。……ボク、笑えてるかな? ……ちゃんと伝わってるかな?」


 「大丈夫、ちゃんと笑えてるわ。伝わってるわ。大丈夫、大丈夫」


 その頃はまだ作り笑いと判るぐらいのレベルのものだった。他の感情と間違えられないだけマシ程度のものだったが、家族はそれを受け入れてくれた。


 作り笑いも段々上達して、今ではごく自然に笑えるようになった。微笑、爆笑、苦笑、冷笑、その場に合わせた笑い方が出来るようになった。


 だがそれはすべて本当の笑顔ではなく、笑っている顔を作るのが上手くなっただけの表情筋を使った技術である。


 当然、家族の前で無理に笑うことはない。だけど人と交わり生きていくなら、笑顔は必要不可欠なのだ。

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