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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第2章 彼女は物陰からひっそり彼を見る
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11 アノ母親の手紙

 ゴルゴンゾーラが我家の一員になって、もうすぐ一週間が経つ。母親や兄弟と急に離れ離れになり、いきなり環境が変わってしまうことに戸惑うだろうと危惧していたが、何のことはなかった。


 初日から、我が物顔で家の中を闊歩し、落ち着くとソファーの上で昼寝を始めた。起きてからもご飯はすべて完食して、寝る時はボクのベッドに潜り込んで来た。


 翌朝は日曜だったこともあり、家族全員が揃っていたが、さも昔から家族だったかのように振舞っていた。


 犬を飼いたい――と打診した時は素っ気なかった姉ちゃんだったが、一番ゴルゴンゾーラにハマっていた。顔を合わせた瞬間に顔を蕩けさせ、抱き寄せては逃げられるという繰り返していた。


 「は~、なんなのよ~、この全世界のカワイイを集めた至宝の毛玉は。癒されるわ~ 癒され過ぎるわ~」


 言ってる意味は良く判らないが、姉ちゃんはだいぶストレスを溜めてるようだった。


 トレーニングの方も順調で、トイレは初めから完璧だった。おそらく霧島先輩が躾けてくれていたのだろう。


 『まて』『おいで』『ハウス』の基本は、かなりダルそうな顔をするが、やることにはやる。


 『おすわり』『おて』『おかわり』『ふせ』はちょっと苦戦している。――どうして、そんなこをしなければならないの?――と聞こえてきそうな顔でそっぽを向くのだ。


 また――ゴルゴンゾーラ――と言う名前は長すぎる、と言う爺ちゃんの意見もあって、『ゴル』と迷ったが、女の子ということで『ゾーラ』と呼ぶことになった。


 ただゴルゴンゾーラはそれが気に入らないらしく、訓練をする時は、ゴルゴンゾーラと呼んだ方が反応が良い。だからボクだけは略さず、きちんとゴルゴンゾーラと呼ぶことにしている。なかなか我の強いお嬢様である。来週からは散歩も始める予定で、それが今、ボクの一番楽しみになっている。



 それからボランティア部の方だが、順調というか、恙無くというか、選挙の準備はコツコツ進んでいる。だが今週末が選挙演説会だと言うのに、立候補者は未だ一人もいなかった。開演日は刻々と迫りつつあり、舞台の準備も進んでいるのに、役者がいないのだ。だからか、学校での姉ちゃんは、その進まないもどかしさにイライラしていた。ゴルゴンゾーラがいると少しはマシになるが、学校へ連れて来るわけにもいかない。


 「だったら、他薦じゃダメなの?」と姉ちゃんに言ってみたら「学級委員じゃあるまいし」と一蹴された。


 そう言えばこの学校には、日直はあるが、学級委員や係はない。またそれで困ったこともなかった。


 中学生の頃にあった係っぽい仕事は、手が空いている者が何となくしている。気分が悪くなった園田に付き添って保健室へ行ったり、体育の後に用具を片付けたり、ボクも気が付いたら適当にやっていた。


 中学生の頃まで係決めで揉めに揉めていたのが、今考えるとバカみたいだ。


 それから、なんと! 『北頭学院冒険者ギルド』に依頼が舞い込んで来た。


 依頼主は、夏休み中に下駄箱の撤去を担当した女性教諭だった。


 どうやら下駄箱を撤収する際、下駄箱の中にはかなりの忘れ物があったそうだ。その殆どが、持ち帰らなかった上履きであり、それらは2学期の始めに段ボール箱に一纏めにして、一週間経って残った上靴は処分したとのことである。


 ただ上履き以外に、対応に困る物が下駄箱の中にあったそうだ。

 

 それが、誰が誰に充てて書いたのか判らないラブレターだった。


 センシティブな問題であり、放送で呼び出すわけにもいかず、掲示板に張り出すわけにもいかず、先生は困っているのだそうだ。


 封筒は淡いピンク色の洋型2号サイズであり、封蝋の代りに赤いハートのシールが貼ってあり、しっかりのり付けされているとのことだった。


 雰囲気から察するに差出人は女生徒で間違えないだろうとのことだが、今の時代、宛先を男子生徒と断定することは出来ないのだそうである。


 教師の間では、開封すれば良いという声もあったようだが、女性教諭は――差出人の尊厳を深く傷つける行為として――断固としてそれを拒んだという。

 

 そんな状況で、ラブレターを書いた人物(おそらく女生徒)、或いはその宛先(男子生徒or女子生徒)を捜せという依頼なのだ。


 うん。まず無理でしょ。


 それなのにギルドマスターとベルウッド侯爵令嬢は(そして中等部なのに、なぜか夏穂も)選挙の準備そっちのけで、その依頼の解決に掛かりっきりだった。


 お陰で、選挙の準備は殆ど一年生だけでやっているが、今のところ何の問題はない。そもそも選挙があるかどうかも判らなくなってきている。


 そして金曜日。


 立候補者演説会はやはり中止となった。そりゃ演説する人がいないのだから、当然だ。


 ボランティア部がして来た準備は無駄にはなったが、演説会そのものに駆り出されないだけ、皆喜んでいた。


 その日、自宅へ帰ると、珍しく爺ちゃんがソファーの上で寝転がっていた。


 「どうかしたの?」


 「おっ、悠斗か……おかえり。どうやら腰をやってしまったようじゃ」


 心配になって声を掛けると、爺ちゃんは痛みに顔を歪めた。


 「明日の博多は大丈夫そう?」


 「う~ん、ちと厳しいな。スマンが来週に回そうかと思う」


 「ボクだけで行って来るよ」 


 爺ちゃんはマジマジとボクの顔を見つめた。


 「……一人で大丈夫か?」


 「うん。ちゃんと話して来る。上手くいけば父さんのことも訊いてくるよ」


 「そうか……頼んだ。気軽に旅行にいくつもりで楽しんで来い」






 先週、霧島母娘との食事の後、ゴルゴンゾーラを引き取る為にボクだけ一旦キリシマ書店へ戻った。由美さんが書店の方までゴルゴンゾーラを連れて来てくれると言うので待っていると、一緒に書店にいた霧島先輩が言った。


 「あの……、もしかしたら、父方の祖母の実家の住所ぐらいなら判るかもしれません」


 詳しく訊くと、霧島先輩のお父さんである霧島竜也さんの遺品は手つかずのまま全て残してあるのだそうだ。そこを捜せば、もしかすると何か出て来るかもしれと、霧島先輩は言うのだ。


 そして翌々日の月曜日の学校帰りに、霧島先輩から未開封の手紙を渡されたのである。


 宛名には『益田竜也様』と書いてあり、裏返すとその差出人は、福岡市博多区―――『益田聖奈』となっていた。


 竜也さんが亡くなって、しばらく経ってから届いた手紙だったとのことだった。当時、よく見ずに段ボールに詰め込んでしまっていたことなどを話してくれた。


 「悠斗くんのお母さんの手紙ですから、悠斗くんが開封して構わないと思います。母も同じ意見です」


 けれどボクは手紙の封を切ることが出来なかった。


 手紙は一旦霧島先輩に戻して、爺ちゃんに相談することにした。


 「今週末、一緒に博多へ行ってみるか?」


 その時のボクは俯くことしか出来なかった。


 アノ母親との思い出など碌なものではない。これまで会いたいと思ったことは一度もなかったし、今も会いたいとは全く思わなかった。


 それでも母親は母親であり、なぜ3歳のボクを置いていったのか? なぜ爺ちゃんを見て逃げたのか? それぐらいは聞く権利があると思う。


 決着をつける為にも、決別する為にも、ボクはアノ母親と会わなければならない。二日迷って漸く決意を固めた。


 「ボクも博多へ行くよ」


 「おや……、悠斗はてっきり行かんのだと思って、飛行機のチケットを取ってないぞ……。ちょっと待て」


 そして爺ちゃんはスマホをポチポチし始めた。


 「おう、取れた。席が離れるが……、まあワシと一緒じゃないと駄目な歳でもないな」


 と笑っていた爺ちゃんだったのだけれども……。


※第二章では、幾つかのエピソードをカットしています。その中の『下駄箱ラブレター』については、後日、短編でご紹介できればと考えています。

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