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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第2章 彼女は物陰からひっそり彼を見る
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7 下駄箱が無くなった事情

 翌日、花子が作ったアジフライは小さかったけど普通に美味かった。その次の次の日には、ルアーで釣ったという、食べ応えのあるスズキの唐揚げだった。


 美味しいと伝えると「それはよろしゅうございました」と上品な佇まいで言われた。花子とベルウッド侯爵令嬢の違いって何んだろう? 二人を比べると、ベルウッド侯爵令嬢の偽物感が際立つ。まあどうでも良いけど……


 そのボランティア部だが、ヤル気はないなりに、選挙の準備は淡々と進んでいた。『立候補の呼び掛けポスター』も意外と絵が上手かった園田のお陰で無事期日内に出来上がり、今は粛々と演説会の準備をしている。


 ただ、ボランティア部には関係ないが、選挙で一つ重大な問題が発生していた。そのことで姉ちゃんはかなり頭を悩ませていた。


 『立候補の呼び掛けポスター』と共に選挙期日の発表と立候補者の受付が始まったのだが、一週間が経っても、未だ一組の立候補者も現れていなかったからである。


 生徒会長・副会長の立候補資格は、1年生には無く、2年生に限定されている。その2年生と言うのが、いろいろ問題がある学年なのだそうだ。


 現時点、自主・強制を含めて20人の退学者が出ており、この様な事態は前代未聞なのだそうである。


 ただ彼らだけを責めるのは少し酷かもしれない、と姉ちゃんは言う。


 決して2年生だけが出来が悪いとか、素行の良くない生徒が集まったというわけではない。その原因というか、起因というか、そうなってしまった切っ掛けがあった。


 事の発端は2年生が、入学する前に遡る。


 その年の新年度から、東京の某有名進学校で長年教師を務めていた北頭学院創設者一族である理事長の娘(45)が、満を持して北頭学院で教鞭を執ることになったのだそうだ。


 彼女は北頭学院の27年前の卒業生であり、当時と今の北頭学院の変化に悲憤したとのことだ。


 現在の北頭学院は成績重視で、教師と生徒の関係は希釈であり、また校則も廃止されていた。


 「確かに進学率は大切なことかもしれませんが、これが本当に生徒たちを思う教育と言えるのでしょうか?」


 理事長の娘は最初の職員会議で熱弁を振るったそうである。


 確かに20年程前の北頭学院は今とは違って、学校が掲げているスローガンも『同心協力』だったという。教師と生徒の距離は近く、互いに信頼し合いアットホームな学校であったと……。


 ちなみに今はそういったスローガン的なものはない。強いて言えば『自己責任』だろうか。


 ただ現状の形で上手くいっていることもあり、他教師は今更、昔に戻すことに難色を示した。


 雇われでしかない学院長は、現教師陣と理事長の娘との板挟みになり、試験的にこの春入学してくる新入生(現2年生)のみ、理事長の娘の方針で任せることにしたのだそうである。


 そして北頭学院現行の――学業成績によるクラス分けや席順――というスタイルを新一年生にだけ廃し、成績関係なくクラスを均等に振り分けた。また席順などもクラスの自主性に任せ、10年振りに新入生(現2年生)にだけ、校則を復活させたのである。


 当初は気にしていなかった新入生だったが、上級生の中には金髪や制服を着崩した生徒がいるにも拘らず、自分たちの学年だけが髪型を決められ、ネクタイが曲がっていただけで注意される。他にも細かな校則が課せられ、生徒たちに不満が募っていった。


 それでもまだクラスが荒れるという程ではなかった。


 ただゴールデンウィーク明けに行われた全国模試で、1年生(現2年生)は水準を大幅に下回る成績をとってしまったのだ。校則の復活と成績低下に関連性があったかどうかは判らないが、それに危惧した理事長の娘は、1年生(現2年生)にのみに夏休みの強制補講を断行したのである。


 そして、その夏休みに一つの事件があった。


 運動部と1年生しかいない学校で、傷害事件が起きてしまったのである。


 ある1年生(現2年生)の男子生徒が、旧校舎が建つ人けがない場所で、複数の男女合わせた生徒に殴る蹴るの暴行を受けていたのだ。


 それを偶然見掛たのは3年生の教師であり、即警察に通報したそうである。


 学校にはサイレンを鳴らす救急車と複数のパトカーが来て、被害生徒は救急車で運ばれ、暴行を加えていた生徒たちはそのまま警察へ連行されていったとのことだった。


 それを後から聞いた理事長の娘は激昂したそうだ。


 「なぜ生徒を守らないのですか? 警察に通報なんて非常識です」


 「私は被害生徒を守ったつもりですが?」


 「し、しかし、そこで何があったのか。教師として、まずは事情を聴くべきではないですか?」


 「暴行の現場を見て、何の事情を聴くのです?」


 「殴っている生徒にも、そうしなければいけなかった理由があったかもしれないし、殴られている生徒にも殴られるような問題があったかもしれません」


 「学年主任は、問題があれば暴力は認められると、そう仰られるのですか?」


 「い、いや、そうではありません……私はだた警察に任せるのではなく、まずは学校で対処できなかったのかと、言っているのです」


 「暴力を振るうような人間を、学校でどう対処しろと?」


 「あの子たちはまだ子供なんです。本校の生徒なんですよ」


 「警察からの報告によると、被害者の男子生徒ですが、全治1ヶ月の大怪我だそうです。そして殴られていた原因は、お金を持ってこなかったからだそうですよ。ずっとたかられていたみたいですね。暴行罪に加えて恐喝罪もです」


 「ですから、それはあなたが警察に連絡したからでしょ?」


 「何をバカなことを仰ってるんですか? 例えば火事が起きたとしましょう。それが放火事件だったとして、火をつけた人間ではなく、火事を通報した人間が悪いと学年主任は仰るのですか?」


 「だから、ここは学校で……あの子たちは生徒で……」


 「犯罪者が捕まった。それだけです」


 そしてその時、6人の生徒が退学になった。


 その事件を切っ掛けにして、理事長の娘は二度といじめが起こらぬよう、確りとした生徒とのコミュニケーションを図るよう担任に指示し、それまで以上に徹底した管理をおこなったのだそうだ。


 「服装の乱れは心の乱れです」


 「同心協力ですよ」


 だが、2学期に行われた全国模試では、これまでの北頭学院史上最低ランクにまで落ちた。それには学院長も黙っておられず、理事長の娘に苦言を呈したようだ。


 この頃、一年生(現2年生)でも真面目に勉強を取り組んでいた生徒が何名か転校をしている。理由はこの学校に居続ければ成績が落ちて、希望する大学に入れないからだとのことだった。


 そして、2学期も終わりかけた頃、一年生(現2年生)による授業のボイコット事件があった。


 「2年、3年のように私たちも自由にしたい。1年生だけ校則があるのはおかしい」


 「私たち教師はあなた方のことを思って、やっているのですよ」


 「2,3年は成績も良い。そして楽しそう。イジメもない。それなのに僕たちだけが、なぜあなたの勝手なエゴに付き合わなければならない?」


 とにかく詳しい資料は残っていないが、この時、ボイコットの説得に乗り出した理事長の娘は、1年生(現2年生)の生徒たちに理不尽を指摘され、人格を貶め、能力を否定され、罵詈雑言を浴びせられて、精神が崩壊してしまったとのことである。


 その時に器物破損や教師に対する暴行もあった。それらの生徒は当然、退学になっている。その数10名。


 そして……、新学期(3学期)。理事長の娘が学院に姿を現すことはなかったそうだ。風の噂では入院しているとのことである。そして間も無く老理事長も退任したとのことだった。


 3学期の途中で、学院長によって1年生にだけ課せられていた校則は撤廃された。2年生からは他学年同様に学業成績でクラス分けされることも、保護者に向けて説明があったそうだ。


 ただ、いきなり従来の北頭学院スタイルに変わった2年生に戸惑いがなかったと言えば嘘になる。

 

 そして一学期の中頃、下駄箱を使った凄惨なイジメが発覚した。罵詈雑言で埋め尽くされた手紙を入れたり、上靴に押しピンを仕込んだり、生ゴミまで放り込まれていたそうである。


 その後、被害生徒は、未遂で済んだが自殺に至るまで追い込まれ、その時も学校はすぐに警察に通報した。


 その時、3名の退学者と1名の停学者が出た。そして学校と保護者の話し合いにより、上靴が廃止されることになったのである。


 それが、今年の2学期から北頭学院高等部で下駄箱が撤去されたことの顛末だった。


 あんま下駄箱は関係ない気がするんだけどな……ボクは。



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