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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第2章 彼女は物陰からひっそり彼を見る
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6 少し恥ずかしい過去の話

 「ごめんなさいね。時間は大丈夫かしら?」


 霧島先輩の代わりに引き続き由美さんがボクの相手をしてくれるようだ。


 「はい、全然大丈夫です」


 ボクとしては、仔犬と遊べるだけで嬉しかったりする。今は4匹すべての仔犬たちがボクの膝の上を巡っての攻防戦を繰り広げていた。


 ただ右目の周りが茶色い仔はボクの膝の上を絶対に譲る気はないようで、膝の上に登って来ようとする他3匹を蹴散らしていた。


 かわいい。もう、かわいすぎて、癒されるぅぅぅぅぅーーー。


 昔から癒しってなんだろう? って思っていた。


 癒しが売りのノスタルジックな古民家風旅館に家族で旅行へ行ったことがあった。母さんや姉ちゃんは温泉に入って「癒されるぅ~」と言っていたが、その感覚が曖昧すぎて、ずっとよく判らなかった。


 でも、今、ボクは明確にその「癒されるぅ~」を体感していた。


 「悠斗君は犬が好きなのかな?」


 「可愛いですね。自分でもこんなに犬が好きだとは思いませんでした」


 昔、ウチにもラブという名の大きな犬がいた。が、ボクが来た頃にはすでに老犬だったというのもあって、ソファーでずっと寝ていたという記憶しかない。


 由美さんは眉を上げてふ~んというような、興味が入り混じったような顔で笑った。


 「今、この仔たちの里親を探してるんだけど、良かったら悠斗君も一匹どうかしら?」


 すると膝の上にいる目の周りが茶色い仔が、まるで立候補でもするかのように僕の目を見て立ち上がった。


 もちろん、ボクは一も二もなく跳び付きたいところであるのが……


 「是非! と言いたいところなのですが、一応家族に相談しないと……。今、祖父も母は旅行中で」


 「あら、そうなのね。判ったわ。でもね、この仔たち決して飼いやすい犬種じゃないのよ。こんなに小さいけど、かなりパワフルでヤンチャだし、怖いもの知らずで、抜け毛もすごいわよ。ジャック・ラッセル・テリアって犬種なんだけど、知ってる?」


 「えっと、アニメ映画『ペ○ト』の〇っクスがそうですよね?」


 「あら、映画『マス〇』の〇イロと言うと思ったけど……」


 「……そ、そうですね」


 さすがに世代差とは言えない。


 「だからね、散歩中にジャック・ラッセル・テリアの飼主同士ですれ違うことがあるんだけど、会話の初めが、大体――大変でしょ?――から始まるのよ。でもね飼ってる人たちはみんな笑顔なの。ひょうきんで楽しい犬なの。家族を明るく元気にしてくれる犬なの。ウチも事故で夫を亡くしちゃってね。薫子の父親ね。家の中はずっとどんよりしてたんだけど、チーズがウチに来てから、とても賑やかになったわ」


 そんな話をしていると、お盆にコーヒーカップを乗せた霧島先輩がキッチンから帰って来た。


 「どうぞ……」


 ボクの前にあった冷めたコーヒーと取り換えてくれた。ソファーに座れという意味なのだろうが、今のボクは、膝の上で格闘している仔犬から離れることは出来ない。決して。


 霧島先輩はそれを察してか、先程までいた場所、つまりボクのすぐ目の前に真面目な面持ちで正座した。何やら差し迫った空気を感じたが、陽気に遊ぶ仔犬たちがいるのでまったく緊張感はない。


 そんな時間が2、3分程経過したところで、シビレを切らしたように母親の由美さんが、薫子さんの隣に並ぶように座ると、土下座でもするように頭を下げた。


 「娘を助けてくれて、本当にありがとうございました」


  続いて霧島先輩も慌てたように、同じく頭を下げた。


 「いえいえ、そこまでして頂くほどのことでは……。それにボクは自転車をイジるのが好きな方なんで……はい」


 すると、顔を上げた母親の由美さんが「えっ?」と漏らし、意味が判らないという顔をした。


 「あっ……お母さん……」


 そして、霧島先輩が、今日あったことを由美さんに話し始めた。


 「な、なに、それ?」


 由美さんは爆笑している。


 「御免なさいね。重ね重ねお世話になっちゃって」


 いや、まあ、重ね重ねと言う程でもない。


 「実はね……。いや、薫子。折角だから自分で言いなさい」


 由美さんはまだ笑っている。


 すると霧島先輩は意を決したようにボクを見た。


 「あの……、憶えていませんか? 川原道で……あなたが助けてくれた……」


 「ん? 先日チーズのリードを掴んだことですか?」


 「いいえ。小学生の時です。私がまだ6年生で、悠斗くんは4年生でした。えっと――魂のタックル――で……」


 思い出した。散々叱られたあの事件だ。母さんを泣かせてしまった出来事だったのもあって、しっかりと憶えていた。


 「もしかして霧島先輩があの時のおねえさんですか?」


 夕暮れ時、河川敷のグラウンドでグースステップ(※ボールを持つ選手が相手選手をかわして前進するためのラグビーの技術)の練習をしていた時のことだった。


 川原の上にある道の方からくぐもった人の声が聞こえたのだ。様子を窺うと、女の人が無理矢理車に押し込まれそうになっていた。


 それは子供だったボクが見ても、明らかなる悪者と助けを求めている女性の姿だった。


 ボクは猛然とその車に駆け寄り、その悪者にタックルをかました。


 ――魂のタックル――とは、某大学ラグビー部のキャッチフレーズだったが、当時チームで流行っていたのだ。その時、ボクが口走ったのだろう。……今となっては少し恥ずかしい。


 「はい。そうです。憶えてくれていたんですね」


 霧島先輩の声はこれまでで一番ハッキリとしたものだった。


 「本当はもっと早くお礼を言いたかったのですが……」


 霧島先輩は涙を流しながら笑っていた。


 言えなかった。のだろうとボクはすぐに察しがついた。


 当時のボクは、褒められこそすれ叱られるなんて、まったく想像していなかった。正義の味方として賞賛されるぐらいに思っていたのが、それはもうビックリするぐらい叱られた。泣きながら――もうそんな危ないことはしないで――と懇願され、一ヶ月ほどは学校以外の外出を禁止されたほどである。


 今となっては、小学4年生の子供が、大人の、しかも誘拐犯に立ち向かうなんて、叱られて当然だったと理解している。確かに危険な行為だった。


 おそらくボクが勘違いしないよう、今後、二度とこの様な無謀なことをしないよう、母さんがいろいろ考えて、直接のお礼を断ったのだろうと想像できる。


 その後は憑き物が落ちたように明るくなった霧島先輩から、事件後のことをいろいろ聞かされた。驚いたのは、男性恐怖症になった霧島先輩を姉さんがいろいろサポートしていたということだった。


 「姉ちゃんは結構キツイところがありますからね。友達に優しくしてると聞いて、すこし安心しました」


 「い、いえ、私の様な者が友達とまでは……。生徒会長であるお姉さんの部下といった感じです、はい」


 そして別れ際、ボクが「LINE交換しませんか?」と言うと、「す、すいません。私、スマホを持っていなくて……。でも買います。今から買いに行きます」


 薫子さんは、悔しさと落胆が入り混じったような顔をしていた。

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