悠合の手記
アクセス数も評価も低かったのもあって、内容的に受け入れられづらいのだと思い、第二章からは『カクヨム』にだけに投稿するつもりでした。ですが、いろいろ考えまして再度こちらでも投稿させて頂くことにしました。
……だけど、一言、言わせてください。
評価するしないは読んだ方の勝手だと承知してますよ。だけど投稿するしないも私の自由だと思うのですが? わざわざ別サイトからメッセージを送ってこなくても、ここに『感想』って欄がありますよ。アカウントを取得して、☆一つで良いので評価してください。その方が嬉しいです。宜しくお願いします。失礼しました。
ワシの息子――高梨悠升が忽然と姿を消したのは高校へ入学してひと月半程たった頃のことだ。
親であるワシが言うのも何だが、妻に似て顔立ちが良く、ワシに似て高身長。とにかく目立つ青年だった。
その所為もあって、失踪以前の悠升の動きは具に判明している。
当時の悠升は高校のラグビー部に所属していた。悠斗同様、小学生の頃からラグビーを始め、ポジションも同じくスタンドオフだった。
その日はグラウンド使用の都合で、室内でのウエイトトレーニングのみで練習が終わり、早めに帰宅していたところだったという。
同ラグビー部の男子生徒の話によれば、校門の前で女生徒に呼び止められた悠升は、一旦校内へ戻っている。そこで女生徒から交際を求められたようだが、その申し出は断っているとのことだ。
その後、真っ直ぐ校門を出て電車に乗ったという証言も多数あった。
電車の中では吊革を手に一人で立っており、途中ポケットベルに着信があったような素振りを見せていたらしい。
その証言の通り、駅に到着した悠升は公衆電話から電話を掛けていた。そして自宅がある川原の方へ歩いて行く様子も目撃されている。
――ポケットベルに電話をしたのは誰か?
――また悠升が公衆電話から電話をした相手が誰なのか?
それは警察の調べで、益田人形店の電話から悠升のポケットベルへの発信履歴と、公衆電話から益田人形店への着信履歴が残っていた。
また悠升のポケットベルに連絡を寄こした本人である増田聖奈も、その後、すぐに外出している。そのことは聖奈の母親である益田早苗からも証言がとれていた。――川原へ行く――と言っていたとのことだ。
ただ当時の川原は今ほど人けがなく、二人が会ったという目撃情報は一つしかなかった。しかもそれが悠升と聖奈という確実な証拠はない。
その一つというのが、河川敷にいたホームレスの証言で――カップルが川に転落した――というものだった。
その日その時間帯は、ちょうど大潮の満潮時であり、通常より水嵩が増えていた。それもあって警察と消防は川とその先にある海の両方を調べたようだが、人が流されたという情報も、痕跡もなかった。
そのホームレスはかなり酒に酔っていたということもあって、見間違えたのではないかという話になった。
のちにワシはそのホームレスに話を訊きにいっている。
「俺はそんなことは言っとらん。――川辺にいた男女が突然消えた――と言ったんだ」
ホームレスはご立腹だった。土産として持参した一升瓶を渡すと少し機嫌を直してくれたが。
見る気も無しに眺めていただけで、はっきりと憶えているわけではない。とホームレスは前置きした上で、その時の様子を話してくれた。
川原道の方から降りてきた男女は二人並んで河川敷を歩いていたそうだ。
「背の高いにいちゃんとボインのねえちゃんだったな」
その特徴は悠升と聖奈、二人ともに該当する。
川辺で立ち止まった二人は、向かい合って何やら話していたそうだが、その時、川辺が真っ白になるほどの強い光が地面から天に向けて放たれたのだと言う。
そしてその光が消えると、川辺にいたはずの男女の姿も無くなっていたそうだ。
「パッと光って、パッと消えた」
一瞬のことだったとも付け加えた。まるで手品でも見ているようだったと。
警察や消防にも同じくそう説明したそうだが、それがいつの間にか――川に転落した――に変わっていたのだという。
ホームレスが嘘を言っているようには見えなかった。だが彼がアルコール依存症であることは疑いようもなかった。アル中の症状の中には、幻覚を見ることもあり、見当識障害などもある。警察が鵜呑みにしなかったのも頷ける。
ただし、人が二人いなくなっていることは紛れもない事実であり、その捜索の方向性として、やはり――川に転落した――と推測されても仕方なかったのかもしれない。
当時は色んな噂が飛び交った。
悠升と聖奈は通う高校は違っていたが、同じ中学の同級生であり、ふたりは駆け落ちしたのではないかと。
益田聖奈の友達によると、彼女は中学1年生の頃からずっと悠升に片思いをしていたとのことだった。
だが、中学生時代の悠升の友人たちに聞くと、二人はそのような仲ではなかったと言う。クラスも違っていて、話しているところさえ見たことがないと、口を揃えた。
ワシも悠升が駆け落ちなどするとは考えられなかった。
恋愛にまったく興味がなかったわけではないだろうが、当時の悠升は高校でラグビーをすることを心から楽しんでいた。「花園をめざす」と希望に満ちた顔で聞かされたその矢先のことでもある。
そんな悠升が、せっかく入った高校を――またラグビーを捨ててまで、失踪したりするだろうか。
ワシには、何らかの事件か事故に巻き込まれたとしか、到底思えなかった。
その後もワシと妻は諦めずに、方々に手を尽くし、悠升の行方を捜した。
そして悠升が消えて5年が経った時、その心労が祟ったのか、ワシの妻であり悠升の母親である美咲が亡くなった。今際の際の妻はずっと譫言のように悠升の名を呼んでいた。
――ワシが必ず悠升を見つけ出す――
そう大口を叩いておきながら、結局、ワシは妻に息子を会わせてやれなかった。ワシは自責の念にかられた。しばらく何もする気が起きなかった。
「お父さんらしくないよ。兄ちゃんを必ず見つけ出すんじゃなかったの?」
そんなワシに喝を入れたのは、地元の大学に入学したばかりの娘の咲百合だった。
悠升がいなくなった時、娘はまだ中学生だった。その頃のワシと妻は、悠升を捜して方々を駆け回っていた。家に帰らない日もあった。多感な時期に寂しい思いもさせてしまったことだと思う。
「お願い、お父さん。兄ちゃんを必ず見つけて」
それなのに、咲百合はそう言ってくれた。ワシは改めて、悠升を捜し出すことを、妻の墓前で誓った。
それからは、これまで妻がやってくれていた事務所の仕事を、咲百合が手伝ってくれるようになった。大学に通いながらである。
雑務から解放されたワシはその時間を使って、悠升の捜索活動を続けた。
ところが……、いや、ところがなどと言えば、責めているように聞こえてしまうが、ワシにそんなつもりはない。だから、そんな時……としておこう。
咲百合が妊娠したのである。大学生になって最初の正月に聞かされた。そして、あれよと言う間に結婚が決まり、大学2年の夏に女の子を出産した。それが公美である。
咲百合はひと月程休んだ後、すぐに公美を抱えて事務所へ顔を出すようになった。
ワシは娘を心配した。
大学を辞めたわけでもなく、主婦業と育児、ワシの事務所の手伝いまでして、さらにはパラリーガルになるための幾つかの資格取得の勉強までしていた。
さすがにオーバーワークに思えた。
父親として、咲百合には幸せになって欲しかった。ワシや悠升のことなど、二の次で、自分の人生を大切に生きて欲しいと願った。
だが、咲百合は頑なにすべてを熟し続けた。
そして咲百合は見事大学を卒業し、パラリーガルとしての幾つかの資格も取り終え、正式に高梨法律事務所に所属するようになった。
それから間も無くして、咲百合の夫の不倫が発覚した。相手は夫の会社の同僚だった。
これまでの咲百合は最低限の家事はしていたようだが、公美を託児所に預け、一日の殆どの時間をワシの事務所で仕事に費やしていた。
新婚当初から殆ど夫を構っていなかったものと思われる。ワシも何度か――家庭を疎かにするな――と注意喚起したこともあった。我が娘のことながら、夫君に申し訳なくも思っていた。法律家として決して口には出さぬが……、咲百合の不倫した夫には少し同情する気持ちもあった。
それでも咲百合は容赦なかった。
興信所を使い、浮気の決定的な証拠を掴むと、ぐうの音も出ぬ程に夫を追い込んだ。また相手女性も既婚者だったらしく、ワシに頼ることなく双方から上限ギリギリとも言える公美の養育費も含めた慰謝料をもぎ取り、スピード解決で離婚に至った。
離婚協議後には「良い経験になった」とあっけらかんとしていた。我が娘ながら恐ろしい……。
丁度それと同じ頃。東京の興信所から、――とある下町の安アパートに益田聖奈らしき女性が小さな男の子と暮している――という情報を得た。
悠升がいなくなって、すでに10年の月日が流れていた。
これまでも似た様な情報は数多あった。その全てが空振りに終わったが、今度こそはと向かった先で、ワシは掛け替えのない宝物を手にすることになったのである。
そこにいたのは悠升に生き写しの小さな子供だった。
ただし、当の増田聖奈はワシを見た途端、怯えたような顔で二階のベランダから飛び降り、そのままどこかへ逃げ去ってしまった。
どうしてワシを見て怯えたのか? また逃げたのか? 未だ不明のままである。
その後一旦警察へ連れてゆき、身元引受人となったワシはその子を自宅へ連れ帰った。間違えなく悠升の子であるという確信があったからだ。
その子は自身の名前すら知らず、辛うじて年齢だけ3歳と判った。しかも出生届すら出されていなかった。自ずと戸籍や住民登録もなく……。ワシは、我が息子である悠升と増田聖奈に激しい憤りを覚えた。見つけ出した際には、一発殴ってやらねば、とも思ったぐらいである。
ワシはその愛らしい子に高梨悠斗と名付けた。
これは子供の頃の悠升との戯言に起因する。悠升から自身の名前の由来を訊かれた時だ。
「一合の十倍が一升。ワシの十倍幸せになって欲しいという願いを込めて、悠升と名付けた」
ワシはそう答えた。
「ならボクの息子はその十倍の悠斗だね」
悠升がそう言っていたのを思い出したのである。
話は前後してしまうが……。悠斗を自宅へ連れ帰った後、あまりに痩せていたのもあって、旧知の仲である(先代の)宮田先生に相談したところ「一度きちんと検査した方が良い」と進言され、一週間程入院させることになった。
結果、健康状態には何の問題もなかったが、その後に出たDNA検査の結果で少し妙な話になった。
無論、悠斗は悠升の子供で間違えなかった。そこは安心してほしい。ワシも半ば確信していたこととは言え、はっきり証明されたのは嬉しかった。
ただ調べられた悠斗の遺伝子には、幾つか不明な点があったそうだ。例えとして相応しいか判らないが、と前置きした上で説明されたのが、ネアンデルタール人のようなホモ・サピエンスではない別人種の遺伝子が多分に混じっているということである。
ワシも美咲も純粋な日本人であり、当然、悠升も日本人である。つまりは悠斗の母親が、ホモ・サピエンスではない別人種の可能性がある、ということらしい。
増田聖奈を見たのは、それこそベランダから飛び降りた時が最初で最後だったが、ワシの事務所の近所に店を構えていた増田人形店ご夫妻のことは以前からよく知っていた。
至って普通の日本人に見えた。少なくともアジア人の顔をしていた。
これは鵜呑みには出来ないが、増田聖奈は奥さんが不貞の末に出来た子。いわゆる托卵子ではないかという話は、商店街に昔からあった噂だった。
DNA云々については、本人である悠斗を含め、誰にも言っていない。




