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ボクの周りの女の子は何かと問題がある……  作者: はなだ とめX
第1章 彼女は数多の愛が欲しかった
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ep.4 遠山先輩との出逢い ~side紗枝

 努力の甲斐あって、わたしは難関進学校である北頭学院高等部への合格を果たすことが出来た。


 両親は小躍りして喜んでいたが、わたし自身も驚いていた。最後の最後まで模試はD判定だったからである。ただ受験まで残り一週間というところで、ユウ君が作ってくれた予想問題が見事なまでに的中していたので、もしかしたらという希望はあった。


 入学式の当日、新入生代表の挨拶はユウ君だった。つまり入試をトップで合格していたのだ。壇上で挨拶をする彼の姿を見て、その時に初めて知った。


 おそらく本人にとっては、わざわざ言う程のことでもなかったのかもしれないが、恋人としては少し寂しい。


 また小学1年生から中学3年生まで、奇跡的にずっと同じクラスだったが、高校で初めてクラスが離れた。わたしは1年2組で、ユウ君は1年8組である。


 北頭学院は成績でクラスを分けられる。8組は特進クラスであり、7組が準特進。成績が悪くなるにつれクラスの数字が小さくなる。ちなみに1組は部活動特待生を含めたスポーツクラスである。


 更に言えば、教室の席順も成績で決まっていた。定期考査後に席替えがあり、窓際一番後ろに成績1位の人が座り、その隣が2位、そして3位と、成績が下がるにつれ前の席になる。ちなみにわたしは中央前から2番目の席だった。


 成績やその順位付けがあからさまであり、厳格な校風に思われるが、学習以外の面では案外自由だった。金髪であっても、制服を着崩していても、教師に注意されるようなこともない。そもそも数年前にそれらを規制する校則自体が撤廃されている。――本校は個性と自主性を重んじている――とのことだ。


 ともかく、ユウ君と同じクラスになろうとするなら、学年で36位以内に入らないといけないわけで、200位台後半のわたしでは到底無理そうなミッションだった。


 イケメンで高身長、しかも成績優秀。当然、校内や登下校時の電車の中でもキャーキャー聞こえてくる。


 だから登下校の時はずっと手を繋いで――わたしがカノジョだ――と周囲に見せつけるようにしていた。ユウ君に限って女遊びをするようなことはないだろうが、牽制しないと余計なハエが集って来るのだ。


 いずれコウちゃんが戻って来るとは言え、今のわたしにはユウ君しかいないのだから……。


 それなのに高校生になってからずっと、わたしは寂しい思いばかりさせられていた。


 どうやらユウ君はラグビー日本代表U16に選抜されたらしく、夏休みにも海外に行くことになっているらしい。その為、入学してからの週末の殆どを、ラグビーの練習に充てていた。さらには恋人になって初めてのゴールデンウィークですら、関西までラグビーの試合に出掛けていった。


 丁度その頃に出逢ったのが、遠山先輩だった。


 「君、一年生? 可愛いね。サッカー部のマネージャーにならない?」


 ユウ君が早退してしまって一人でとぼとぼ下校していた時のことだった。振り返ると栗色マッシュの垂れた大きな目をした、ユウ君とは少し方向性が違うイケメンの先輩が微笑んでいた。


 「すいません。わたし、カレシがいますので」


 最初はわたしもキッパリ断った。


 「いいよ。いいよ。カレシがいても。付き合おうって言ってるわけじゃないんだからさ」


 「……でも」と答える間もなく、わたしは遠山先輩に肩を抱かれ、強引にサッカー部の部室へ連れて行かれてしまった。


 その後、サッカー部の色とりどりの髪色をした先輩たちから紡がれる耳ざわりの良い言葉に、わたしはちょっと舞い上がってしまった。実際楽しかったのだ。そして誘われるままに、わたしはサッカー部のマネージャーになったのである。


 早々に帰宅しても暇な時間を過ごすだけだった。どうせユウ君はいないのだから……。


 それに以前から多少ルールを知っている野球やサッカーを応援する女子に少し憧れがあった。ラグビーはルールが難解すぎて応援しづらいのだ。


 それから数人の女子と一緒にわたしはサッカー部のマネージャーとして頑張っていた。ユウ君にはまだ言ってなかったが、彼自身が殆ど学校にいないのだから伝えようもない。


 そしてゴールデンウィーク。サッカー部の練習試合が終わった後、遠山先輩たちにカラオケに誘われた。


 カラオケへ行くのは初めてではなかったが、ユウ君やコウちゃんとカラオケに行ったことはなかった。中学生の時、クラスの友達に誘われても、ユウ君とコウちゃんは二人顔合わせて苦笑いしていた。そもそも彼らがマイクを持って歌っている姿が想像できない。


 サッカー部でのカラオケは大盛り上がりだった。サッカー部の人達は皆、歌が上手く盛り上げ方を心得ていた。カラオケがこんなに楽しいものだと、わたしは初めて知った。


 カラオケの後、その熱狂に当てられたのか、わたしは頭がぼんやりしていた。体もぽーっと熱かった。そしていつの間にかわたしは、遠山先輩と二人きりでホテルにいた。


 最初はベッドに座って、ユウ君とコウちゃんの話ばかりしていたと思う。


 それを遠山先輩はニコニコ笑顔で聞いてくれていた。


 「それで、そのカレシとはえっちしたの?」


 「キスはしましたが、それ以上は求めてくれなくて……」


 「話を聞くと、どうやらそのカレシは堅物のようだね。まあ初めて同士は上手くいかないから、それが原因で別れちゃうカップルって結構いるからね。良かったら、僕が教えてあげようか?」


 それからは何もかもが瞬く間だった。いつの間にやら遠山先輩とキスをしていた。ファーストキスはユウ君に捧げることが出来ていたのに少し安堵していたような記憶がある。が、それ以降は朦朧として、遠山先輩に触れられるだけで、体に電気が走るようなゾクゾクした感覚に溺れた。


 気づくと、わたしは処女を失っていた。


 「どうだった?」


 と優しく訊かれた。


 確かに一瞬、痛みはあったが、気持ち良かった。初めてだったが、セックスってこんなにも心が満たされるものだと知ってしまった。


 その翌週もわたしは遠山先輩とセックスをした。今度は遠山先輩の家だった。前回と違って、込み上がってくるような快感はなかったが、労るような優しいセックスだった。その時にコンドームの付け方も教わった。ユウ君とそうなった時に必ず要る知識だからである。


 ただわたしの中に罪悪感はあった。


 ユウ君がラグビーばかりに明け暮れているからとは言え――。恋人になって初めてのゴールデンウィークに放っておかれているとは言え――。ユウ君との初体験の為の練習とは言え――。


 これは裏切りではないか? 浮気ではないか? と思う部分もあったからだった。


 ユウ君のいない夏休みが始まった。


 夏休み中は合宿や練習試合など忙しない日々が続いた。初めて経験することばかりで、胃がムカムカすることもあった。炎天下を走り回り、偶に嘔吐してしまうこともあった。


 それでも練習の後はほぼ毎日のように遠山先輩に抱かれるようになっていた。


 夜遅くに帰宅して、道向かいの電気がついていないユウ君の部屋を見ると良心の呵責が込み上げてくる。ユウ君には彼是ひと月以上会っていない。それがすごく不安だった。


 だからわたしはハナちゃんに相談することにした。こんな時頼りになるのはいつもハナちゃんだった。


 ハナちゃんとは中学1年生の時に別れて以来、直接会ったことはなかったが、ずっとLINEで繋がっていた。実はハナちゃんが引越しする前にアドレスを交換していたのである。


 ただこのことをユウ君は知らない。


 わたしは敢えてハナちゃんと連絡を取り合っていることをユウ君に話さなかった。ユウ君とハナちゃんがまた接近してしまうことを恐れていたからだ。


 ユウ君と恋人同士になった時もハナちゃんにはすぐに報告した。


 どんな反応をされるか恐ろしかった。怒り狂うかもしれないとも考えた。絶縁されることも覚悟した。それでも言わなければなら無いと思った。


 『あら、そうなの。おめでとう』

 

 ところがハナちゃんから返って来た反応は意外と素っ気ないものだった。

 

 やはりあれは子供の頃の話であり、そんな昔の淡い恋心など、既に忘れてしまったのかもしれない。ハナちゃんなら、何処ぞの御曹司の婚約者がいたとしても、不思議でない気がした。


 ハナちゃんがユウ君に興味がなくなっていることが判ると、わたしは心の底からホッとした。


 だから今回も、ハナちゃんには包み隠さず正直に遠山先輩のことを相談したのだ。

 

 「ユウ君が好きなのに、遠山先輩も好きになってしまった。どうすればいいんだろ?」


 その時は電話だった。


 「ねえ、紗枝、ポリアモリーって知ってる?」


 初めて聞く言葉だった。


 「正直に話せば、悠斗君も判ってくれるかもしれないわよ」


 ハナちゃんのアドバイスはそれだけだったが、早速わたしはポリアモリーについていろいろ調べた。記事を読み、ポリアモリー関連の動画を幾つか視聴した。


 そして、それはまさにわたしにとって、天啓だった。


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