4月
その子は、俯きがちに佇んでいた。
この日は快晴。日陰を歩く彼からは、陽に当たるその子が妙に眩しく見えた。
彼はただ、その姿を見ていた──
◇
それは、高校の入学式翌日だった。
放課後の校門前。
彼女は携帯を見ているようで、顔は見えない。
高めの身長。清楚な雰囲気。真っ直ぐで艷やかな黒髪が胸元で揺れている。
制服を着崩すことはなく、派手さや色気は無い。代わりに、膝上丈のスカートから出る細い足が際立っていた。
目が離せないまま、彼は校門へ向かう。
ふと、その子が顔を上げた。
眉ラインで切りそろえられた前髪。黒目の大きな、クリッとした瞳。唇の自然な赤色以外に化粧っ気はまるで無く、幼ささえ感じる。飾り気のないその顔が……
可愛い。
彼はほんの一瞬、そう思う。
その瞬間、その子が嬉しそうに笑った。
『嬉しい! 楽しい!』を全身から溢れさせたような笑顔。
それを見た瞬間、彼の周りからその子以外が消えた。
やたら鮮やかに切り抜かれるその子。その姿だけが強烈に焼き付けられていく。
校舎の方へ戻るその子と、校門へ向かう彼。
二人がすれ違う瞬間。
目が合わないかな……こっち見て笑わないかな……。
──彼は確かにそう思った、のだが。
それは本人も気づかぬまま、心の奥底へ閉ざされた。