第5話 チャクラム使いのゴブリン戦
トレントを倒してから2時間後、俺は地下2階層へと進み、モンスターの群れと戦っていた。だだっ広い空間に5体のゴブリン。そいつらが投擲武器のような物を投げてくる。
「ギギッ!!」
ゴブリンの手から放たれたのは刃の付いた円形の武器。ネットで見たチャクラムという武器に似ている。それは、空中で高速回転すると、真っ直ぐ俺の方へと飛んで来た。
「へっ! 速度は中々だがそんな直線の攻撃当たらねぇよ!」
飛んで来たチャクラムをサイドステップで避ける。俺の真横を通り抜けたチャクラムは、壁にぶつかった瞬間跳ね返って来た。
「っぶねぇ!?」
ギリギリで体を捻り、もう一度チャクラムを躱す。跳ね返ったチャクラムは、鎧にビシリと傷を付けて飛んでいった。
ヤバかったぁ……っ!? あのまま油断してたらヘルムごと首飛んでたぜ。
「ギギ!!」
「ギギッギ!」
「ギギギ!!」
「ギッギギ!」
「ギギィ〜!」
そこかしこから飛んで来るチャクラム。それを避けても、跳ね返って来るからあまりに鬱陶しい。流石に不利だと感じた俺は、トレントと戦った時に手に入れたあの武器を使うことにした。
「しゃあ! 上手く効果発揮してくれよ!!」
鑑定で読み取った効果通りなら……。
「こうすりゃいけるだろ!!」
ショートソードからソイル・ツリーピアへと持ち替えて部屋を走り回る。追いかけてくるゴブリン達。ヤツらが直進に並んだ瞬間を狙ってソイル・ツリーピアを地面へ突き刺した。レイピアの先端から直線上に木々が生えていく。
1本、2本、3本、4本、5本。
街路樹ほどの木々がゴブリン達を巻き込みながら物すごい速さで伸びていく。
「ギギ〜!?」
「ギア!?」
「ギギギッギ!?」
「ギギア!?」
「ギギ〜ギ!?」
木の枝に絡め取られて身動きが取れなくなったゴブリン達。俺は、木に登って1体ずつ確実にナイフでトドメを刺していった。1体40ptか……武器と集団での攻撃がとにかく鬱陶しかったが身動きが取れなくなればこっちのもんだ。
最後のゴブリンを倒した時。伸びていた木が掻き消えるように消滅し、カランカランとゴブリンの使っていたチャクラムが床に落ちた。
「お、これもドロップになるのか?」
『これはスクィジゴブリンの使う武器、クロウスラッシャーだな』
「効果も知ってるんですか?」
『通常だとただの投擲武器だが、このダンジョンだと効果が違うかもしれない。鑑定した方が良いだろう』
そりゃそうか。思い込みで使って効果が違ったら死に直結するか……さっきのゴブリン戦も鑑定でソイル・ツリーピアの効果が分かってたから突破できたようなもんだし。
鑑定魔法を使って内容をスマホにメモする。今手に入れたクロウスラッシャーはこんな感じだ。
名称:クロウスラッシャー
分類:チャクラム
属性:風
効果:投げると風の斬撃を帯びて飛ぶ。物体に当たると跳ね返る。使用回数1回。
チャクラム型が5本。これにブレイズナイフを加えると投擲用武器が7本ある。
『ここの武器は消費型が多い。油断しているとあっという間に使い切るぞ」
「そうですね、武器の残数には気を付けます」
ブレイズナイフは一度効果を発動してしまうと跡形もなく消えてしまう。ここの武器は全部そうだ。消費アイテムばかりだな。今の所使用回数2回はソイル・ツリーピアだけだし。
だけどその分特別なスキルや魔法が無くても属性攻撃ができるのがありがたいな。俺は特殊技スキルが無いから。
◇◇◇
広間を抜けて通路を進む。地下2階も1階と同じような石造りの迷路だ。だけど、モンスターはゴブリンがメイン。フロアによって構成が違うのかも。
『ヨロイ君、前方にゴブリン種が2体いる。恐らく先ほど倒したスクィジゴブリンだろう』
さっきの奴か。右に曲がるL字の通路。その手前の直線に2体のゴブリン。あの構造なら、試したい事ができるな。
バッグに括り付けていたクロウスラッシャーを1本取り出す。円形状の刃の中心に指を通して回してみる。ガントレットの指先にある溝にチャクラムが上手くハマって回しやすい。回転が早くなるにつれ、チャクラムの回転が安定してくる。
『君の投擲スキルは投擲武器であるチャクラムの補助もしてくれるだろう』
「便利ですね」
『基本スキルは便利な物さ』
応用が効くのはいいな。基本スキルしか今のところスキルツリーに出現していない俺でも、基本スキルを広く解放すれば色んな状況に対応できるようになるかも。
「ふぅ……行くか」
チャクラムを回転させながらゴブリンに向かって走り出す。
「ギッ!?」
手前のゴブリンの攻撃を避けて、敢えて2体のゴブリンに挟み込まれるよう2体の間に滑り込む。
「オラァ!!」
奥にいるゴブリンに向かってチャクラムを投げる。チャクラムは俺の指から離れた瞬間、風の斬撃を纏って真っ直ぐに飛んで行く。
よし、鑑定した内容通り。あの風の斬撃のおかげでどんな投げ方をしても真っ直ぐ飛ぶな。
「ギャア!?」
クロウスラッシャーの風の刃がゴブリンを真っ二つにする。背後から攻撃を狙うゴブリン。敢えて反撃をせず、敵の攻撃回避に集中した。
体勢を低くして敵の攻撃を避ける。それとほぼ同時に、俺のクロウスラッシャーが壁にぶつかって跳ね返って来る。それがもう1体のゴブリンに直撃。首を跳ね飛ばされたゴブリンがバタリと地面に倒れ込んだ。
さらに通路を反射したクロウスラッシャーはその後俺の頭上を4往復してから砂のように崩れ去った。
『狙いは分かっていたが、ワザと挟み撃ちに遭うとは……心臓が止まるかと思った』
「クロウスラッシャーで挟み撃ちに対処できるか確認したかったんですよ。っていうか、心配してくれたんですね」
『あ、あぁ……担当だからな、当然だ』
恥ずかしそうに言うリレイラさんは可愛かった。
……。
フロアをひととおり回って階段を発見する。3階層に降りようとした時、筆記魔法で壁に書かれた文字が目に入った。
「どれどれ……?」
赤い文字を触ると、ボワリと文字が大きくなって読めるようになる。そこにはこう書かれていた。
──この先ボスがいるぞ。気を付けろ。
ボス、か。
こんな所に筆記魔法があるのも気になる。もし俺の前に入った探索者の物なら、構造が変わるグンマダンジョンの中で、今でも残っているのはどうなんだろうか?
「何でこんな所に残っているんだ?」
『ボス部屋周辺はある程度固定されているのかもしれないな』
確かにそうだ。でなければ筆記魔法でこのメッセージが残っている事に説明が付かない。このダンジョンはランダムな場所と固定された場所があるんだ。その一つがボス部屋周辺って事だな。
「念を入れておきます」
スキルツリーを開く。先程までで獲得したレベルポイントを使って新たなスキルを解放する。
──投擲スキルがレベル2へ上がりました。
今俺の使える武器は投擲武器が多い。強化しておいた方が良いだろう。
「よし、気合い入れるか」
俺は、ボスがいるという地下3階へと降りた。
次回、初ボス戦です。果たして461さんは勝つことができるのか?
次回は20:10投稿です