プロローグ ダンジョンが現れた日
2019年。地球に異世界から魔族が侵攻した。
魔族の使う魔法によって現代兵器は根こそぎ消滅。人類は戦争もできずに敗北し、地球は魔族の支配下となった。
2020年。日本政府は魔族と交渉の末、ダンジョン実験場となることで優先保護地域となる協定を結んだ。
──そして、日本にダンジョンが現れた日。ある家庭の食卓。
……。
夕方、食卓を囲んでテレビを付けると、そこには空飛ぶモンスターが映っていた。
『見て下さい!! 今!! 池袋サンシャインビルから鳥型のモンスターが飛び立ちました! まるで恐竜のプテラノドンのようです! 信じられません! 本当に今は2020年なのでしょうか!?』
テレビのニュースキャスターがカメラに向かって必死に訴えかけている。それを見て母さんは息を呑んだ。
「お父さん……ウチは大丈夫かしら?」
「仕方ないだろ。日本は……いや、世界中が魔族に支配されてしまったんだから」
「怖いわねぇ……」
「魔族は危害は加えないと言ってる。心配いらないさ」
「でもねぇ……信じられないわ……」
母さんがテレビに視線を向ける。そこでは先程のテレビキャスターが池袋の映像を見ていた。
『あ……あ!! 鳥型モンスターが見えない壁にぶつかって引き返していきます!』
「しかしなぁ。まさか異世界があるとは……魔族や魔王なんてものがいるなんて未だに信じられないよ」
父さんがそう言った時、急にテレビキャスターの声色が変わった。
『え? は、はい。今映します……』
キャスターから何者かがマイクを受け取る。それは小学生くらいの少女だった。しかし、明らかに人間とは違う。
長い銀髪に頭から真っ直ぐ伸びた2本のツノ。被り物やCGに見えない「ツノ」。それが人間ではないのだと実感させた。
『この国の者達よ安心するが良い。モンスターが外に出ることはない。人に危害を加えることはないのじゃ』
「何言ってるんだか。魔族がミサイルとか戦車とか魔法で全部消しちゃったんじゃないの! 危害があったら困るわよ!」
母さんが机を叩いて叫ぶ。これはヒステリーになってるな。早く食って部屋に戻った方が良さそうだ。でないとそろそろ矛先が俺に向くぞ……。
『妾はダンジョン管理局を任せられておる者じゃ。妾達が出現させたダンジョンには魔法障壁が張られておる。もう一度言う。安心するが良い』
ダンジョン?
「なぁ、今ダンジョンって言った?」
「言ったわよ。アンタ20歳にもなってニュースも見てないの!? そんなだからアンタはいつもいつも……ゲームばっかりしてるからそんななのよ!!」
すごい剣幕で母さんが怒って来た。ヤベ、地雷踏んじまった。
「あぁ……俺、部屋に戻るから……」
「ああホントに何なのアンタは!! 私達に迷惑ばっかりかける! 学校も辞めるしかなくなっちゃうし!! ちょっとはまともになりなさいよ!!」
助けを求めるように父さんを見ると、父さんは関わりたくないような様子でスマホに目を落としてしまう。母さんを怒らせたくないらしい。
なんだよ。引きこもってるのは俺のせいじゃないじゃん。人と合わないんだから仕方ないだろ。
「聞いてるの!? アンタはホントに……何で……アンタなんかねぇ……っ!!」
いつもの流れが始まったので聞かないようにしてテレビにだけ集中する。聞いちまうと無駄にダメージ食うんだよなぁ……。
『管理局は探索者を募集中じゃ! ダンジョンを攻略し、手に入れたアイテムは全てお主達の物……大金持ちも夢ではないのじゃ!』
へぇ。ダンジョン管理局に行ったら探索者になれるのか。
「もうお父さん! この子にも言ってやってよ! いつまでも引きこもってないで出て行けって!!」
「ほら、母さんもこう言ってる。お前も早く家を出なさい」
……なんだよ。俺だってがんばってるのに。俺だって早く出たいっつーの。
「人が真面目に話しているのに聞いてるの!? 早く出て行きなさい!!」
テレビ画面に目を向ける。テレビの中の少女は画面に向かってニカリと笑顔を向けた。
『探索者になったら特典満載! スキルツリーと探索者用スマホを与えるのじゃ! なんと! 魔法も使えるようになるぞ〜! いつでも申請に来るがよい!』
怒る母親、笑顔の少女。
……。
『未知の冒険を求める者達よ! 剣を持て! 妾達魔族はお主達を全力でサポートしよう!』
探索者、かぁ。
脳裏に散々プレイしたダンジョンゲーが蘇る。鎧を来た戦士が強敵を倒す1シーン……あの時の達成感が。ダンジョンゲーだったら大好きだし、アクションでもRPGでも、なんでも上手くやれるのに。
……もし、ダンジョンがある世界だったらってずっと思ってた。周りの目を気にしたり、人付き合いで判断されない、腕だけで生きていける世界。
未知の世界、強敵との命懸けの戦い、財宝。やり遂げたら、絶対達成感があるよな。
もしかしたら俺の好きなダークソウ◯よりずっと楽しいかも。
ワクワク感が湧き上がって来る。今まで家の中で死んだように生きてた時間が一気に動き出した気がする。
俺でもできるかな。このまま家にいて疎まれるより、未知の冒険の方が絶対楽しい。
……。
なってみるか、ダンジョン探索者。
次話から本編です。プロローグから2年後。探索者となった彼が、とあるダンジョンでボスと戦っている所からスタートします。彼の「担当」である本作のヒロインも登場しますのでお楽しみに。
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