表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/40

【第十三章】君と創る世界(2)- 最終話 -

「もうすぐ、この世界は終了する。すべてのデータは消去されるんだ」


 僕と可琳は、思わず目を合わせる。可琳の瞳も不安そうに揺れていた。


「洵が目覚めたあと、君たち二人が、この世界で手を取り合ったとき。この世界が消去されるように、プログラミングしたんだ」

「どうして!?」


 思わず大きな声で叫び、僕は圭の肩を強く掴んだ。


「せっかく……やっと父さんに会えたのに! もう二度と会えなくなるなんて……そんなの嫌だ!」


 震える手で必死に引き止めようとする僕を、圭はそっと見つめる。そして優しく僕の手に触れ、静かに微笑んだ。


「正体がバレてしまったのは誤算だったね。……でも、最後に父親として、洵と話せて嬉しかった。可琳ちゃん。洵と会わせてくれてありがとう」

「父さん……!」

「もともとこの世界は、眠っている洵のためだけに創った世界だ。現実で生きていく二人にはもう必要ない。ここに囚われるんじゃなくて、前を向いて生きてほしんだよ、洵。……それが、父さんの願いだ」

「そんな……」


 すがるように、圭の胸に顔をうずめる。

 父さんの、懐かしい匂いがする。とても温かい――。


「ハチ……つらいけど、お父さんの想いを無駄にしないように、私たち、現実の世界でしっかり生きていこう?」


 可琳が優しく、僕の背中をさすってくれた。

 その手もまた、温かい。


「さあ、もうすぐこの世界は終わる。本当のお別れだ。二人とも、幸せになるんだよ。……洵、父さんはいつだって、お前の幸せを願ってる」


 圭の声が、深く胸に染みた。

 心が、追いつかない。やっと、やっと父さんと会えたのに!


「ハチのお父さん……ありがとう!」


 可琳が大きな声で叫んだ。


「あの日、きちんとお礼を伝えることができなかったから……私もこの世界に救われた。ハチと、私を救ってくれて、本当にありがとう!」


 圭が微笑むと、世界が白く輝き始める。


「父さん……本当はもっとたくさん、話したかった。これからの僕達を、見ていてほしかった。でも……」


 僕も拳を握りしめて、叫ぶ。


「ありがとう、父さん! ずっと見守ってくれて……会えて、本当に嬉しかった。これからは、可琳と一緒に、未来を創っていくよ!」


――次の瞬間。


 圭の笑顔とともに、β世界から強制ログアウトされた僕たちは、屋上のテラスで目を覚ました。

 ツリーのイルミネーションが僕たちを優しく照らし、どこかから小さく、クリスマスソングが聴こえてくる。


 頬を伝う涙は止まらなくて、呼吸もままならず、僕は情けないくらいに、くしゃくしゃな顔になっていた。胸の奥には、まだ父さんの温もりが残っている。


「ハチ……」


 可琳がそっと背中をさすってくれる。

 その手の温かさに、少しずつ呼吸が落ち着いていく。

 僕は嗚咽をこらえながら、声を絞り出した。


「可琳……父さんに会わせてくれて、ありがとう」


 掠れた声でそう伝えると、可琳も優しく笑ってくれた。


   *


 少しして、僕たちはようやく落ち着いてきた。

 グラスに残っていたスパークリングワインは、すっかり気が抜けていたけど、それすら楽しく感じる。

 可琳がグラスを持って微笑む。


「気が抜けて、ただのワインになっちゃったね」

「まぁ、泡がない分、じっくり味わえる……ってことで」


 可琳がくすっと笑う。僕も小さく笑い返した。


「もう一度、窪くんのラーメン、食べたかったなぁ」

「こっちの世界で食べればいいよ。見た目はβ世界と違うけど、味は同じだったよ」

「でも……あっ、そうか、〈MAHO――」


 言いかけた可琳の言葉を遮って、僕は少し得意げに言う。


「さすがに窪の店の改装工事は断られちゃったんだけど、お店の前にテラス席を作ってもらったんだ。今度一緒に食べに行こう。窪に、可琳のことも紹介したいし」

「すごい……抜かりないね」


 可琳が驚いたように目を丸くしたあと、すぐに声を弾ませて笑った。その笑顔が嬉しくて、僕も自然と頬が緩む。


「β世界で可琳と出かけた場所には、全部行けるようにしたい!」


 そう言って僕が微笑むと、可琳の瞳が不安げに小さく揺れる。何か考えるようにして、僕から視線を逸らした。


「ねえハチ。……ハチの気持ちはとっても嬉しいよ。でも、現実の私は、ハチと並んで歩くことも、走ることもできない。――本当に、私でいいの?」


 弱く震える声。

 さっきまでの笑顔が消えて、そこにあるのは、戸惑いと不安。


 ――それでも、僕の答えは決まっている。

 僕はまっすぐに可琳を見つめ、きりりと顔を引き締めた。


「可琳が不安になる気持ちは、よくわかるよ。どれだけ勉強して知識をつけたって、歩ける僕が、君が抱えている辛さを完全に理解することはできないと思う。もしかしたら、この先――僕の無理解から君を傷つけてしまうこともあるかもしれない」


 可琳が小さく息を呑む。その瞳が、揺れている。


「でも……傷つけてしまうかもしれない距離に行かなきゃ、君を幸せにすることだってできないんだ」


 可琳の瞳が、大きく見開かれる。

 僕は続けた。


「だから僕は――そういう覚悟をもって、君の隣にいる」


 沈黙が落ちる。

 可琳はぎゅっと唇を噛んで、潤んだ瞳で僕を見つめる。


「君は……僕の世界のバグを直してくれた。君がいてくれたから、僕の世界が輝いたんだ。だから今度は、僕が直していく。この世界のバグを」


 僕は拳を握り、言葉に力を込める。


「今日は、その記念すべき、最初の一歩なんだ。これからも、可琳といろんな場所に行って、いろんな景色を見たい。この世界の、可琳と一緒に」


 可琳の瞳からこぼれた涙が、頬を伝う。

 それでも、その涙の奥に、確かな笑顔が灯っていた。


「……うん。ありがとう、ハチ」


 可琳が溢れる笑顔で、小さく頷く。

 その笑顔が、愛しくてたまらなくなる。


「ってことで……えっと……」


 僕は小さく咳払いをして、再びポケットに手を伸ばした。

 すっかりタイミングを失ってしまって、今さらながら、緊張がこみ上げる。

 指先が少し震えるのを感じながら、僕はそっと、指輪の入った箱を取り出し、可琳の前に差し出した。


「僕と……結婚してください」


 一瞬の間が、永遠みたいに感じた。

 可琳は大きく目を見開く。息を呑み、指輪を見つめ、それから僕をじっと見つめ返す。

 そして――涙を拭い、とびきりの笑顔で言った。


「はい。ずっと一緒にいようね、ハチ!」


 心がふわりとほどけ、温かな気持ちで満たされる。

 僕は、可琳の薬指に、そっと指輪をはめた。

 可琳はその指輪を嬉しそうに眺め、指先で優しくなぞった。


 僕はそっと可琳に近づく。

 視線が重なり、ゆっくりと距離が縮まると、可琳は静かに瞳を閉じた――。

 そのとき。

 背後でエレベーターの扉が開く音がした。


「メリークリスマス!」


 突如、クラッカーが鳴り響く。

 僕たちは驚いて振り返ると、礼美さんと佐奈さんが、いたずらっぽい笑みを浮かべて立っている。その後ろから田中さんも、ひょっこり顔を出した。

 僕たちは、間抜けな顔で、みんなを見つめる。


「ほらー礼美……だから言ったじゃない。私達おじゃま虫よ……」

「だって、私だけ一人のクリスマス、寂しいじゃない! お姉ちゃんまで彼氏できちゃうし!」


 礼美さんが少し拗ねたように言うと、佐奈さんが苦笑しながら肩をすくめる。

 可琳のくすくす笑う声につられ、ふっと肩の力が抜ける。張り詰めていた気持ちがほどけて、自然と笑みがこぼれた。


 屋上に、賑やかな笑い声が広がる。

 僕たちはみんなで、楽しい夜を過ごした。


 温かな笑い声が、冬の夜空に弾む。

 空を見上げると、満点の星が輝いていた。


 僕の世界を、君が創る。

 君の世界を、僕が創る。


 そしてこれから、二人で――

 僕たちの世界を、創っていこう。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

 また、他の作品でお会いできたら嬉しいです*.。(❃´◡`❃)*.。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ