【第十一章】僕が創る世界(2)
仕事にも慣れ、最初は苦手だと思っていた田中さんとも、今ではすっかり仲良くなっていた。
そんな頃――僕は転職を決めた。
田中さんは「マジかよ」と驚きながら、なんとか引き留めようとしてくれた。
時安リーダーにも理由を訊かれたけれど、僕の計画にはまだ成功の保証なんてないし、どこかから可琳に情報が漏れるのも避けたかった。だから何も言わなかった。
田中さんは最近、彼女ができてますます性格が丸くなった。仕事以外の話をすることも増えた。
そんな田中さんに、「今年からクリスマスに花火が上がるらしい。町興しの一貫だそうだ」と聞いた。もちろん田中さんは、彼女と一緒に見るつもりだと言っていた。
花火――。
僕にとって、それは美しい思い出でもあり、苦い記憶でもある。
できることなら、幸せな思い出で上書きしたい。
*
礼美さんの会社に転職して、新しい生活にもようやく慣れてきた。
街はすっかりクリスマスモードに染まり、イルミネーションがきらめいている。
今月末までの案件が順調に進み、少しだけ肩の力が抜けた。
クリスマスの計画は着々と立てていたけれど、そろそろ勇気を出さなくてはいけない。
――もちろん、可琳を誘うつもりだ。
でも。
スマホを手に取るたび、あと一歩が踏み出せない。
迷っているうちに、クリスマスはもう目前に迫っていた。
『ねぇ! 可琳からクリスマスの予定を訊かれたんだけど!?』
怒った顔文字つきで、礼美さんからメッセージが届く。
間髪いれずに追撃。
『まだ誘ってなかったの!? クリスマスはもう三日後だよ!?』
読んだ瞬間にポコッと効果音が鳴り、パンチしてくる、ゆるキャラのスタンプが届いた。
『すみません、今日、誘い増す』
『誘います』
慌てて訂正してメッセージを送ると、即座に「がんばれ!」のスタンプがポンッと返ってきた。
……よし、深呼吸。
スマホの画面をじっと見つめる。
『可琳、久しぶり。元気にしてますか?』
ココココ
『ずっと連絡できなくてごめん』
ココココ
『僕は今でも、君のことが大好き……』ココココ、『君のことを毎日思って……』ココココ、『君のことを忘れた日は一日も……』ココココ
メッセージを打っては消し、打っては消し。
最適解を求めて、何度も修正を繰り返す。
あんな別れ方をしてから、一度も連絡を取らず、いきなりクリスマスの予定を訊いて誘うなんて高度な文章、どうやったら書けるんだ?
プログラムのコードを書く方が何倍も楽ちんだ。
何が正解かわからない。
どう書けば、可琳にこの思いが届くのだろう。
何度も推敲を重ね、最終的に僕が送った文章は――
『二十五日のクリスマス、よかったら一緒にご飯を食べませんか? 〈MAHORA〉ではなく、現実世界で。午後六時に、商店街のクリスマスツリーの前で待ってます』
送った瞬間、急に心臓が暴れ出す。
考えすぎて、僕の頭はいつにも増してポンコツになっていた。
――え、ちょっと待って。
なんでこんなに、味も素っ気もない定型文みたいなメッセージになったんだ!?
せめて、「会いたい」とか「元気にしてた?」とか、そういう言葉を入れるべきだったのでは!?
青ざめた瞬間、あっという間に「既読」がついて――
『了解!』
敬礼ポーズの可愛いスタンプが、一つ。
えっ……これ、OKってこと……?
肩の力が一気に抜けて、へなへなとベッドに倒れ込んだ。
もはや、全身のバッテリー残量0%。
ほっとしたけど……不安だ。
こんな、「業務連絡ですか?」みたいなやり取りで、ちゃんと誘えたことになるんだろうか。
……いや、もう考えるのはやめよう。
これ以上メッセージを送る勇気は、僕にはもう残っていなかった。




