【第十章】再び交わる世界(6)
システム開発部に移ってから、毎日があっという間に過ぎていった。
仕事量はかなり多くて大変だけれど、その分やりがいもある。何より、ハチのことを考える暇がないほど仕事に忙殺されるのは、今の私にとっては、むしろありがたかった。
久しぶりに外へ出ると、街はすっかりクリスマスモードだ。
吐く息は白く、イルミネーションがキラキラと輝いている。
あちらこちらのお店から、軽やかなクリスマスソングが聴こえてくる。
空を見上げると、ちらちらと雪が舞っていた。
ようやく、少しだけ仕事が落ち着いた。
心も、日常を感じることができるくらいの余裕が戻ってきた気がする。
毎年、クリスマスは礼美ちゃんの家で、礼美ちゃんと佐奈ちゃんと私で、持ち寄りの簡単なパーティを開く。この時期になると、いつも礼美ちゃんからクリスマスの予定を訊かれるのだけれど、今年はまだ連絡がない。
自分から誘うことが苦手で、いつも受け身でいたから、自分から「今年のクリスマス、どうする?」なんて訊く勇気もない。
情けない……。
実は二人とも、いつの間にか彼氏ができていて、今年は恋人と過ごすのかもしれない。
そんな可能性が頭をよぎったとき、不意に――ハチと佐奈ちゃんが付き合っているんじゃないか、という妄想が頭に浮かんだ。
……充分にあり得る話だ。
心がざわつく。
買い物を終えて、家に帰ってきた。
今日は冷え込んで、暖房を入れていても肌寒い。ひざ掛けをかけてキッチンに行き、暖かい紅茶を淹れて部屋に戻った。
たまには自分から行動してみよう。
そう思い、私は礼美ちゃんにメッセージを送る。
『ご無沙汰です。今年のクリスマスはどうする? また持ち寄りで、パーティーする?』
しばらくして、通知音が鳴った。
返ってきたメッセージを読んだ瞬間、心臓がぎゅっと締め付けられた。
『ごめんね……今年はちょっと仕事が入ってて、クリスマスは会えそうにないんだ。あ! それからね、なんと! お姉ちゃんに彼氏ができたんだよ! お姉ちゃん、今年は彼と一緒にクリスマスを過ごすみたい。あとで二人でいじってやろうね』
佐奈ちゃんに、彼氏……。
ハチと佐奈ちゃんの幸せそうな顔が、鮮明に浮かんだ。
震える指で、なんとか返信を打つ。
『そうなんだ、佐奈ちゃんよかったね! よろしく伝えといて』
送信ボタンを押した瞬間、喉の奥が苦しくなった。
ひざ掛けをかけたはずなのに、暖かい紅茶を飲んでいるはずなのに――。
寒い。
体の芯から冷え切って、指先まで凍りついたように震える。
ハチと佐奈ちゃんの笑顔が浮かぶ。
私が望んだ通りの未来になったはずなのに。
胸の奥が凍りついたように冷たくて、悲しくて、仕方がなかった。
これまで、誰が離れていっても、私には礼美ちゃんと佐奈ちゃんがいた。
二人はずっと私のそばにいてくれる。
だから、寂しくなかった……。
でも――
そうだよね。
二人にだって、二人の人生がある。
いつまでも一緒にいられるとは限らないんだ……。
結局みんな、私から離れていってしまう。
大切な人は、みんな――
スマホを握りしめたまま、ゆっくりと前にかがみ込む。
胸が張り裂けそうに苦しくなって、どうしようもなく、涙が溢れた。
結局、私は、誰からも愛されない。
私が愛した人は、みんな私から離れていく。
こんなことなら――
ずっとハチの世界にいたかった。
眠ったままのハチと一緒に、あの世界で、二人きりで、ずっと笑っていたかった。
「ハチに……会いたい。会いたいよぉ……」
震える声が、かすかに部屋に溢れ落ちる。
その時――
握りしめていたスマホが震えた。
画面を見つめる。
一通のメッセージが届いていた。
一瞬、何が起こったかわからなかった。
メッセージの送り主は……
――ハチだった。




