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嵐の夜に

主人公が生まれるちょっと前からスタートします。

タイトルはまぁ、うん。パクリジャナイヨ。

聖天歴 1225年 風1月 護神の森 ガルムの氏族 村落

ーーーーーーーーーーーーーーーー


 強い嵐の夜だった。風は吹き荒れ、稲光が舞い、雨は地を穿つ。雨季ならいざ知らず、この時期には異様な空模様に、集落の皆は浮足立っていた。結界でも張ればいくらかはマシになるのかもしれないが、いつまで続くとも知れぬこの状況で、魔力を無駄に消費するのも得策とは言えない。

 誰が言い出したわけでも音頭をとった訳でもないが、一時の安息と仲間とのつながりを求め、避難所でもある村の集会所に、村人のほとんどが集った。かくいう私もその一人だ。いくら村を束ねる立場とは言え、自然には抗えるわけもない。せめてとばかりに、集まった皆を凍えさせないよう、火の小精霊の力を借りて部屋を暖めるくらいしかできない。あぁ、全くもっていやな天気だよ、本当に。


 「セドリック!これで全員かい?ったく、私が号令を出す前に集まりおって。普段もこれぐらいきびきび動いてほしいもんだよ。」

 「まぁまぁ母さん。お小言はそれくらいにしてください。今は非常事態ですし、皆不安なんですよ。」

 「いつも母様、母様と後ろをついて離れなかったあんたが、随分と言うようになったもんだよ。それで?全員集まったのかい?」


 息子のセドリックが小生意気なことを言ってくる。普段は禄に自分の意見を言いやしないのに、こういうときだけは率先して動くもんだと、嫌味の一つでも言いたくなるものだ。まぁ何も間違ったことをしているわけじゃないし、むしろ皆をよく見ているものだと褒めるべきなのだろうが。


 「昔の話はやめてくれよ、母さん……。長老様方を除けば全員……あれ?おーい。だれかユリアを見たやつはいないかー?」

 「こっちにはいないっすよー。」

 「こっちにもー。」


 前言撤回。息子の目は節穴だった。


 「よりにもよって身重のユリアを放ってくる馬鹿があるかい!あんたが真っ先に迎えに行くぐらいしなきゃいけないんだよセドリック!そんなんだからあたしゃこの年になっても隠居できないんだよ!」

 「まってくれよ母さん!今回は避難勧告が……いや、出てなくてもせめて様子を見にいくらい……。俺、行ってくる!」


 そういうや否やセドリックは外へ飛び出そうとした。


 「待ちな!あんた一人で行ってどうするんだい。あたしと……そうだね、テオドール!あんたもきな!あたしとセドリックで結界と水避を張るから、あんたはユリアを抱えな。できるだろ?」

 「……。(コクリ)」

 

 テオドールは寡黙だが、エルフとは思えないほど体格が良く、力が強い。妊婦ひとり抱えるくらい訳ないだろう。

 雨脚は少しずつ、確実に強くなってきている。この村が樹上にあるとはいえ、限度がある。ここと祠は聖樹の結界があるからよっぽどのことがない限り安全だ。だが、個人の家ともなると、さすがに壊れはしないと思いたいが、絶対ではない。早くいかねば。


 「母さんが結界、俺が水避でいい?」

 「それでいいよ。一滴でも通したら後でみっちりと魔法の復習だから覚悟しときな」

 「えぇ!?」

 「雨粒を通さなきゃいいだけなんだ。しっかりとやんな。」


 魔法の詠唱を始める。はてさて、バカ息子は成長しているのやら。


 「『其は何物も通さぬ不可侵の領域。閉じて覆え。【絶界】』」

 「『汝は水、我は油。混ざらず交ざらず雑じり合わぬ存在。決別せよ。【水避】』」


 私たち3人を半球状の2層のベールが覆う。水避もうまく発動しているようだ。もっともこれじゃあ正しく水しか避けられないがまぁ及第点だ。


 「やるじゃないか。満点は上げられないが、今回については必要充分だ。行くよ!」


 一向に弱まる気配のない嵐の中、ユリアの家がある村の西側に向かう。道中、他の家が崩れた様子はないが、だからといって安心できるわけではない。ユリアの家だけ崩壊、そこまでいかなくとも雨漏りや浸水している可能性がある。それにこの騒音。あの子にとってどれだけの負担になるか。早く集会所につれていかなければ。

 ほどなくしてユリアの家の前に着く。


 「ユリア!あたしだよ!今回の嵐はひどい!集会所に避難するよ!ここを開けておくれ!!」


 声をかけたものの返事はない。風雨で聞こえないのだろうか。あるいは返事ができない状況……?


 「ユリア!扉を壊すけどいいね!あとであたしが直してやるから!!扉から離れな!!『打ちk』」

 「ちょっ!母さんストップ!ストップ!一回扉を開ける努力をしようよ!ほら、ちょっと押したら空くかもしれないじゃん。こんなふう……に……?」


 セドリックが扉に手を当てると、大した抵抗もなく開いた。私は思わず部屋に飛び込んだ。


 「ユリア!大丈夫かい!!」


 部屋はもぬけの殻だった。寝る直前だったのか、部屋にはあの子が好きな花の香が焚かれていた。外の様子にそぐわない、優しく、春の訪れを感じさせる香りだ。そんな香りと対象的に私は血の気が引いていくのを感じた。

 奴隷狩りにあったのか?この状況で?いや、争った形跡はない。それにいくらお腹に子供がいるとはいえ、あの子はその辺の雑魚にやられるほど弱くはない。なにせこの村で私の次に魔法の扱いが上手いのだ。ではいったいなぜ。この嵐の中、わざわざどこへ。

 まとまらない思考を必死に巡らせ考える。しかし答えは浮かばない。考えこんでいると、テオドールがその滅多に開かない口を開いた。


 「……祠にいったのでは?ここからならあそこの方が集会所より近い。」

 「まさか!この嵐のなかわざわざなんで……。」


 祠……!その発想はなかった。確かにあそこなら集会所より強い聖樹の結界が張られている。それにあの子はあそこにいる爺婆どもの世話役をしてたこともある。しかし、あの子の力量があれば集会所に向かうのだってできたはずなの、いったいなぜ祠に……。いや、今はそれどころではない。


 「セドリック!テオドール!祠に向かうよ!普段は世話役以外立ち入り禁止だが、長の権限で許可する!ユリアを迎えに行くよ!」

 「了解!」

 「……。(コクリ)」


 セドリックとテオドールを引き連れ、祠へと向かう。気は進まないが、あそこにユリアがいる可能性が高い以上、行かないわけにいかない。

 5分ほど歩くと、祠の入り口が見えてくる。ここの聖樹は集会所の聖樹よりも旧く、結界は比べるべくもなく強い。祠の内側は雨一滴すら通しておらず、まるで。


 「長老方を下手に刺激したくない、結界を解くよ!セドリック、あんたも水避を解きな。一瞬濡れるが、すぐに祠に入れば問題はない。3数える。3、2、1!」


 結界を解くと同時に祠へと入る。私情を挟むならこんなしみったれたところなんざ、近寄りたくもないが、今はあの子が優先だ。どうか、どうか無事にいておくれ。あんたとお腹の子は私の、私らの希望なんだ。

Tips:祠

・祠とは言っていますが、その実、700年以上生きたエルフたちが余生を過ごす、聖樹の洞です。(勿論外で過ごす人もいます。)

・なーんで村長さんはしみったれた場所なんて表現をしたんでしょうね。


Tips2:エルフの出生率

・長い時を生きるエルフですが、普通のヒトと変わらない確率で妊娠します。しかし、無事に生まれてくるとは限りません。出産までに3割が、出産直後にまた3割が亡くなります。そして残りの4割のうちの10%が無事に成人になれます。(要するに妊娠成立時の4%が大人になることができる。)

・また、エルフは排他的であり、氏族内で婚姻関係を結ぶことが多いです。交流のある他氏族がいれば、氏族間の婚姻もあります。しかし、ガルムの氏族はある特殊な事情からここ200年程、他の氏族との関係を断っています。つまり、遺伝子的多様性が低くなっています。関係ない話ではありますが、ここ40年の間に生まれた子の殆どが流産、あるいは障害をもって生まれており、亡くなっています。なんででしょうね。

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