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年上(ロリババア)の神様と普通に恋愛するだけの話  作者: 火海坂猫


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五十三話 もう一つの告白

 列に並んで二十分ほど待ったところで二人は店内へと案内された。美味しそうなケースの立ち並ぶ正面のショーケースを横目に喫茶スペースへ。そこはテーブル数は少ない物のテーブル間の距離はしっかりととってあり落ち着いて過ごせる雰囲気だった。案内された席について九凪と奏はメニューを手に取る。


「僕はこの本日のおすすめセットにしようかな」

「私も同じので」


 日替わりのケーキとドリンクのセットを九凪が選ぶと同じものを奏も選ぶ。ただドリンクは彼がコーヒーで彼女は紅茶だ。これまでも奏がコーヒーを飲んでいるところを九凪は見たことがないので、多分苦手なのだろう。


「お待たせしました」


 しばらく待っていると店員がおすすめセットを持ってくる。今日の日替わりケーキは様々なフルーツのあしらわれたタルトのようだった。フルーツの新鮮で甘い匂いにタルトの香ばしい匂いが食欲を刺激する。


「美味しい」

「ほんとね」


 二人してケーキを口に運んで思わず笑みを浮かべる。コーヒーと紅茶をそれぞれ口に運んで口の中の甘さを消してもう一口、再び笑みが浮かんだ。


「果物はパイナップルに桃とみかんも入ってるね」

「メロンも入ってない?」

「あ、ほんとだ」


 複数の果物が入っているので一口ごとに味の雰囲気が違う。九凪もフルーツタルトは作ったことがあるが一種類の果物しか使ったことはなかった。

 こういう店であればいろんなケーキを作るために果物も種類をそろえているからこういったタルトも作れるが、自宅で作るとなると複数の果物を買っても残してしまうことになるからだ………けれどいずれ店を持つことを考えれば試作は必要だろう。


「真剣そうね」

「え、うん」


 考え込んで黙ってしまっていたのか奏から声をかけられる。


「やっぱり店に食べに来るのも勉強になるなって」

「それなら誘ったかいがあったわね」


 安堵するように奏は微笑むが、それがどこか力なく感じるのは彼女の目的が別にもあるかだろう。そのことを指摘するわけにもいかない九凪はどうしたものかとコーヒーを飲んでお茶を濁す。


「ねえ、高天はなんで急にパティシエになろうなんて思ったの?」

「そんなに急かな?」

「急よ…………だって私なんか最近まで高天がそんな趣味持っていたなんて知らなかったわけだし」


 確かに九凪は他者にその趣味について話したことはほとんどない。だからそれを知っているのも言葉巧みに聞き出した春明くらいで…………ふと彼は気づく。


「そういえば三滝にも話したことなかったっけ…………この前進路の話をした時に初めて知ったことになるのか」

「あ、いや実はその少し前には知ってたの」

「え、いつ?」

「朝川の奴が高天に貰ったクッキーを食べてるところにたまたま遭遇してね」

「あ、あー…………」


 九凪は思い出す。月夜にせがまれてクッキーを焼いた時にお裾分けとして春明と奏の分も学校へもっていったのだ。しかしその日は偶々奏との接点が薄く渡すのを忘れてしまっていた…………だから彼女の分は結局月夜のお腹に収まったのだ。


「ごめん、別に三滝のことを忘れてたわけじゃないんだよ」

「偶々巡り合わせが悪かったってのは朝川から聞いたからいいのよ」


 だからそれほどショックは受けなかった…………もちろんそれに絡んで散々春明から煽られたのは良い記憶ではないが。


「ただほら、その時にあんまりその趣味を誇ってないって聞いたから」


 それで気を遣って奏は九凪との話題には出さなかった。後から思えばそういう話を彼に踏み込むネタにできなかったのが彼女の臆病なところなのだろう。


「うんまあ、動機は正直あんまり褒められたことじゃないからね」


 別に悪いわけでもないのだけど、九凪の中では子供っぽい理由過ぎてどうしても自慢できるような話ではない。


「でも、それならなんで急に進路をそう決めたの?」

「それは…………」


 直接的な理由を答えるのならそれは必要に迫られたからだ。月夜との将来のためにあの場である程度明確な進路を示す必要があって、考え着いた中で一番まともな選択肢がパティシエとなって自分の店を持つことだった……………でも、別に彼は消去法でそれを選んだわけじゃない。いやいやそれを決めたわけじゃないのだ…………それがなぜかと考えてみれば一人の少女の顔が浮かぶ。


「なんだろう、これまでは自分為にお菓子を作っていたけど…………誰かに喜んでもらえるのも悪くないなって思ってね」


 あの日、彼の屋いたクッキーを食べて喜ぶ月夜の顔を思い出す。ああいうものが見られるのなら、別に始めた動機が誇れないものだっていいかなと九凪には思えたのだ。それが彼女を喜ばすことができるなら、それだけで誇れることなのだと思えた。


「…………それって月夜ちゃんよね」

「う、うん」


 奏の言葉で九凪は思索から現実に引き戻される。話の流れからすれば他に相手はいない。否定しようもなく九凪は認める。


「そんなに喜んでくれたの?」

「え、あ、うん。とっても」

「よかったわね」


 そう口にする奏の表情に悪意はなかった…………ただ、素直にそのことを喜んでいるというようにも見えなかった。


「三滝……」

「私はさ」


 何か言おうとする九凪を遮るように奏は言う。


「自分で言うのもなんだけど、結構頭はいい方なのよね」

「あ、うん、それは知ってるけど」


 奏の能力は全体的に非常に高い。頭がいいだけではなく運動神経も抜群だ。


「でも、感情的になりやすくって…………そうなると冷静に物事が見れなくなっちゃうのよね」

「…………それも知ってる」


 感情豊かなのは悪いことではないけれど、かっとなりやすいのは奏の欠点だ。


「高天を誘う時も、今日もずっと私は舞い上がってたの…………浮かれて高天のことも多分よく見えてなかったわ」

「え、それはどういう…………」

「でも、今月夜ちゃんのことを思い出した高天の顔を見て全部吹き飛んじゃった」


 落ち着いた声色と表情で奏は九凪を見る。


「私さ、朝川との付き合いが長いから、落ち着いてれば人の感情とかがどこに向いてるのとかよくわかるのよね…………そのせいで、ずっと勇気が出なかったのもあるんだけど」

「三滝、僕は…………」

「ごめん、言わせて…………全部もうわかっちゃったけど、それでも言いたいの」


 力なく、懇願するように奏は九凪を見る。それに彼は何も言えなかった…………ただ、次に彼女が口を開くのを待つしかなかった。


「あなた好きです。私と付き合ってください」


 敗北を自覚してしまった彼女の、その言葉を。


 お読み頂きありがとうございます。

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