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年上(ロリババア)の神様と普通に恋愛するだけの話  作者: 火海坂猫


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二十二話 感想はそれぞれ

九凪が最初に選んだのは妖精の国をモチーフにしたアトラクションだった。木製っぽく装飾をあしらわれた乗り物に乗ってゆっくりと妖精の飛び交う森の中を進む。激しさも驚きもなくただその光景を楽しむだけのアトラクションになる。


「ほうほう、化生けしょうが大量に飛び回っておるのう」

「け、化生?」


 まるで懐かしいものでも見るように感想を述べる月夜だったが、奏にはその言葉の意味が分からなかった。古めかしい言葉なのだろうとは想像できるが日常で聞く単語ではない。


「あー、妖怪みたいなもんだ」

「…………よく知ってるわね」

「偶々知ってただけだ…………しかしこの光景でそんな感想がでるか」


 呆れるように春明は周囲を見回す。キラキラと輝く鱗粉を残像のようにして飛びまわる妖精たちの光景はとても幻想的だ。別段こういうものに興味のない彼でさえなかなかのものだと思う光景に対して出てくる感想が化生とは、流石にどうかと思えてしまう。


「妖精って知らない?」

「知らぬ!」


 尋ねる九凪にきっぱりと月夜は答える。


「あの羽虫のような化生が妖精というのか?」

「うん、そうだよ」

「あれは何をするものなのじゃ?」

「なにって…………悪戯いたずらとか?」


 いきなり聞かれると九凪も特に詳しいわけではない。彼のイメージとしては森に迷い込んできた人を騙したり悪戯を仕掛けたりというような可愛らしい厄介者という印象だった。


「ふむふむ、つまり悪い化生なのじゃな!」

「悪い…………いやうん、そうなのかな」


 なんとなく妖精はいいものというイメージがあるから悪戯も可愛いで済ませられるが、そういう前提がなければ確かに厄介なだけかもしれないと九凪は思う。


「い、いい妖精もいるのよ?」


 自分の好きなものが悪い印象になるのに耐えられず奏が口を挟む。実際全体としては人間に友好的なイメージが強いからこうしてアトラクションのモチーフにもされているのだ。根っからの厄介者であればこんな扱いにはされないだろう。


「それこそ邪悪極まりないのもいるがな」

「なんでそんなこと言うのよ!」

「だが事実だ」


 妖精も種類が多い。それこそ人に対する悪意に満ちた妖精だって存在する。子供聞いたらトラウマになりそうな所業をする奴だって珍しくはないのだ。


「色々おるのだのう」

「…………一応これは作りものだからね」

「わかっておる」


 夢を壊すのもあれだけど本物だと思われても困る。念のために九凪が口にするが月夜は夢壊れたようでもなく最初からわかっていたと頷く。事情が事情だからそういうものが実在すると信じていてもおかしくないと九凪は思っていたのだけど、そういうわけではないらしい。


「しかしこのアトラクションとやらはこの化生どもを見るだけなのか?」

「まあ、そうだね」


 一応簡単なストーリーはあり森に迷い込んだ旅人を妖精が案内して最後には妖精の里で歓待をするというものだ。登場する妖精も様々で小さなものから人と変わらない大きさの妖精まで代わる代わる登場する。


「そうか」


 それを期待するでも落胆するでもなくただ月夜は受け入れる。


「あんまりこういうのは好きじゃなかった?」

「九凪はどうなのじゃ?」

「…………まあ、楽しんでるよ」


 逆に尋ねられて九凪はそう答える。別に彼にこういうファンタジーな趣味はないが入って詰まらないように出来てはいない。むしろ普段見ない世界観だからこそ新鮮で楽しめているような気もした。


「ならばよい!」


 彼が楽しんでいるならそれでいいというように月夜が頷く。満足げなその表情はしかしアトラクションを楽しんでいるものではない。


「月夜は楽しい?」

「うむ!」


 九凪と一緒だから楽しいとその表情は告げていた。多分これが別のアトラクションでも全く同じ返答を彼女はすることだろう。


「…………色々乗ってみようね」


 切っ掛けとしてはこれでいい。


 色々試してみればきっと月夜の好きなものだって見つかるはずなのだから。


                ◇


「これはなんじゃ?」

「ええと、スピードとかスリルを楽しむものかな」


 次に九凪が選んだのはシンプルなジェットコースターだった。ファンタジーなアトラクションはどうも月夜の琴線に触れなかったようだから別方向に舵を切ったのだ。


「おい、顔色悪いぞ」

「別に苦手じゃないわよ」

「誰も聞いてないんだが」

「なんで私の隣に高天がいないのよ」

「そりゃ基本二人一組だからだろう」


 九凪と月夜の後ろの席では奏と春明が座っていた。顔色の悪い奏に対して春明のほうはあきれ顔だ。


「苦手なら待っててくれても良かったのに」

「だから苦手じゃないわよ!」


 気遣うような九凪の言葉に奏は思わず叫び返す。


「ええと、ごめん」

「あっ、えっ、別に高天に怒ったわけじゃ…………」

「進みだしたぞ」

「!?」


 春明と勘違いして怒鳴ってしまった奏は戸惑うが、彼女が冷静になる前に無情にもコースターは進み始める。


「あっ、ちょっと待っ…………!?」


 もちろん一度進み始めたジェットコースターが止まることなどない。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ”あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 急速な落下に奏の声が響き渡る。


「ふむ、この乗り物には妖精とやらは出てこぬのじゃな」


 それと対照的に落ち着いた九凪の声が、風圧に紛れることもなくしっかりと聞こえた。


 お読み頂きありがとうございます。

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