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5. 戻ってきました、貴女と一緒にいたいから

「……それでは、今年の新任教員に挨拶をいただきましょう。白峰先生、お願いします。」

「はい。」

 私はまた、私立彩雲女子学園に戻ってきた。先生ではなく、新任の理科教諭として。

「本日より、こちらでお世話になります、白峰蔦子と申します。理科を担当します。専攻は生物学です。卒業生として、母校で働けることを大変うれしく思います。わからないことはたくさんございますので、ご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いいたします。」

 挨拶をして一礼をすると、職員室の先生方からぱちぱちと拍手をいただけた。

 その先生方の中に、天海先生がいらっしゃることを私は見逃さなかった。

 あの時から、何も変わっていない。

 職員室での着任式が終わると、私はすかさず天海先生に声をかける。

「天海先生。」

「おま……ごほん、白峰先生、なんだろうか。」

「お話したいことがございますので、この後に生物準備室へ、一緒に来ていただいてよろしいでしょうか。」

 天海先生はまるであの頃と変わらない呆れ顔で私に笑いかけてくれた。

「……いいだろう。」

 雑務を終わらせて私と天海先生は生物準備室へ向かう。 

 生物準備室の中もあの頃と何一つ変わっていなかった。いや、一か所だけ変わっていた。

 コーヒーノキ。きっと、あの時私が天海先生にプレゼントした、あの子。

 あの時は小さな苗木だったあの子は、小ぶりだけれど見事な木に成長し、真っ赤な実をたわわに実らせていた。

「天海先生。」

「……なんだろうか。」

「私は、この大学での4年間、天海先生の隣に立てるような、一人で生きていけるような、そんな人になりたいと願って、そうなれるよう私なりに頑張って、そして今日、正式にこの学校の先生になりました。……天海先生。また、言わせてください。」

「ああ、言ってくれ。」

 天海先生? あの頃よりも優しい顔ですね?

「大好きです。4年間離れていても。ずっと天海先生のことを想っていました。あの時から気持ちは変わりません。……私と、付き合ってくださいませんか。」

 もう何度も言ったこの台詞。これで駄目なら、すっぱりと諦めるつもり。

 もし駄目だったとしても、先生と同じ理科教諭として、先生の同僚として傍にいられるだけで幸せだ。

 そう思おうとしていたその時、私は肩を抱かれた。

「……全く、根性があって諦めの悪い奴だ……。いくらお前が社会人1日目の新人といえども、もう立派な大人だ。……お前も私と同じ、先生だ。……もう、断る理由もないな。」

「……え。」

「私は、お前、いや……白峰蔦子。君が好きだ。」

「えっ…。」

 先生。天海先生。今、私が好きだとおっしゃいましたよね?

「実の所、私は君に惹かれていた。だが、君を信用しきれず、思春期の気の迷いだと決めつけて、たとえ本気でも君と歩む自信が持てなかった。……それでも、君は、何度断られても私の前に戻ってきてくれた。私から一つ、いいか。」

「なんでしょうか。」

「蔦子。私と付き合ってくれ。私の……スールになってくれ。」

「……!! 喜んで……!! もちろん、です……!!」

 中等部3年生の春休み前から、2回の告白と2回の玉砕、7年の時を経て、私は天海先生と結ばれることができた。

 嬉しいけれど、嬉しすぎてその事実を飲み込み切れなくて、私は涙が止まらない。

 涙があふれてきて、まともに前が見えない。

 私の目から滝のようにあふれる涙がタオルで拭われていく。

 はっきりしてきた私の視界には、穏やかな顔をした天海先生がいた。

「本当に、あの実がなる頃に来てくれるとはな。あの木を世話する度に、君を思い出していた。……君を信じて、よかった。」

「貴女の傍に居たくて、私は理科教諭の道を選んだのですよ。……ずっと、一緒にいてくださいね。」

「……ああ、もちろんだ。……そうだ。君のコーヒーの実を一緒に食べよう。あのまま食べても、甘くて美味しいらしい。」

 天海先生は私をコーヒーノキのそばまでエスコートすると、その実を優しく摘み取って、私の口へ運んでくれた。

 天海先生のコーヒーの実は、優しくて甘酸っぱくて、まるであの時初めて天海先生に恋した時の気持ちみたいだった。

「甘酸っぱくて美味しいです。天海先生が、ずっと愛情込めて育ててくれたんですね。私からも……良いですか?」

「ん? あ、ああ。お願いする。」

 天海先生、ぼーっとしてますね? それなら……攻めちゃいます、ね。

 コーヒーの実をそっと摘み取って、天海先生の口にそっと、食べさせる。

「初めて食べたが、甘くて美味しいな。」

 もう一粒のコーヒーの実を咥えて、きっとコーヒーの実に気を取られているであろう、はむはむと動く天海先生の唇にそっと、キスをする。

 咥えたコーヒーの実と一緒に、そっと舌を天海先生の口へと挿していく。

 私の舌が優しく食まれるうちに、コーヒーの実の甘さが私をさらに蕩けさせていく。

 どれほどキスしていたのでしょう。

 唇を離し、瞳を開くとそこには、コーヒーに入れられた角砂糖のように甘く溶けた天海先生がいた。

「コーヒーの実と君のキス、甘いのはどちらなのかわからなくなってしまったよ。」

「……先生のキスも、甘くて美味しかったですよ。」

「……あの苦いコーヒーも、こんな甘い味がするんだな。」

「あんなそっけなかった先生と、こんなに甘いキスをしてるなんて。あの頃の私に教えてあげたいです。」

「……生徒相手にこんなこと出来るわけがないだろう。……全く。先生になってまで告白してくるとは……。」

「先生同士ならお付き合いに何の問題もありませんよね。……よろしくお願いしますね。お姉さま。」

 天海先生を抱きしめて、彼女の耳に囁く。たっぷりの、吐息を込めて。 

「……!!!」

 天海先生の身体から激しく鼓動が伝わってくる。

「……君の根性の強さと愛の重さは本物だ。……もう私は、いや、あの頃から、私は君に惹かれていたのだろうな。」

 私の中で、何かがぷつんと弾ける音がした。まるで小さな果実を嚙み潰したかのように。

「……天海先生。もう、我慢できません。……7年間溜めてきたこの想い、受け取って、くれますね?」

 天海先生の返事も待ちきれず、私は7年間で膨れ上がりきった想いを浴びせるかのように、甘く熟した果実を食べ尽くすかのように、天海先生の唇を貪っては舌で撫で尽くした。


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