Prologue
「つ、蔦子ちゃん! 私の……スールになって!」
「白峰先輩、私の……スールになってくださいませんか!」
もう何度この手の台詞を聞いたやら。
あんまりにこの告白《スール希望》が多すぎて、最近はお断りするときにもう何も思わなくなってきてしまった。
最初こそ申し訳無さでいっぱいだったけれど、数多くの告白《スール希望》を断り続けるうちに耐性が出来てしまったのかしら。
あ、自己紹介が遅れました。
私の名は白峰蔦子。
私立彩雲女子学園の高等部1年生です。
自分で言うのもおこがましいけれど、成績はたいてい全科目とも満点かそれに近いもの、運動も人並み以上にはだいたい出来る。……つまり文武両道。
さらに、友人に言わせれば私は美人らしい。平安女性のような艶のある黒髪に白絹のような肌に華奢な身体。
ここまで来て私にどんな印象を抱きました?
……非の打ち所がない。欠点がない。……ええ、まあ、勉強はしてるけれど。
……自己紹介なのに恥ずかしくなってきました。このくらいにします。
あ、スールについてもお話が必要ですね。一緒に私の通う学校についてもお話します。
私の通う私立彩雲女子学園は、明治頃に設立されました。
第二次世界大戦終戦後の頃に混乱で潰れてしまった他の学校の生徒を受け入れていた時期があるらしく、その頃にキリスト教の学校から入ってきた生徒達が、上級生と下級生で姉妹の契りを結ぶ『スール』という制度を持ち込んだようです。
元々は上級生から下級生に声をかけて下級生が承諾すれば成立するものだったようですが、その後長い時間を経るうちに、下級生から上級生に申し出る例や、同級生同士でもスールを結ぶ者が出たようで、今では「互いを高め合うために結ばれた、擬似的な姉妹関係」という意味合いになったようです。
ただ、戦後の当初から、「特別な関係」や「恋人のような関係」という意味もあるようで、スール希望はそれ即ち相手への愛の告白と同義とされています。
前振りが長くなりました。
私は大勢からスール希望をいただいておりますが、その何方ともスールになる気はありません。
私にはもう、心に決めた女性がいますから。
私を、ただの女の子として見てくれる、優しくて穏やかなひと。
天海 紅葉先生。