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第三十一話 君がいたという過去③

それまで当たり前のように続けてきた会うことも、触れることも、話すことも、笑い合うことも。

その全てが奪われて、残酷な世界にその家族だけが放り出されたと思っていた。

死というものはそれほどまでに冷たい断絶になるのだと、慧はあの日、絶望的に思い知らされた。


どれだけ願っただろうか――。

叶うことはないと知りながら、どれだけ求めただろうか――。

弟が死んでしまうことがない世界を。

弟が生きている世界を。

言葉にも出来ぬ喪失感だけを胸に抱いて――。


だから、彼を初めて見た時……その顔を見た瞬間、


「……っ」


……慧には、分かってしまったのだ。


この男の子は――弟だ、と。


声が震える。呼吸が乱れる。幽かな予感が慧の中で膨らんでいく。

でも、そんなことはあり得ない。何故なら弟はもういない。いないはずなのだからーー。

それが世界の嘘であるはずがない。なのに――


優しくて透明な微笑み。


それでも男の子の笑顔は弟とそっくりだった。


「奏多」


心の中で弟の名前を呼ぶものの、誰かが男の子のことを別の名前で呼んだ。そして、男の子がその誰かのもとに駆けていく。


「……か、なた」


慧は目を見開いて立ち尽くしていた。

思いもよらない名を耳にした忘我ゆえに。


「かなた、かなたか……。そうだよな……生きているわけがないよな……」


慧は何度も、何度もその名前を反芻する。

言葉にすれば、想いは形を持って湧き上がってきた。


何時からだろう。奏多のことを気にかけるようになったのは。

何時からだろう。奏多を見て、弟の死を思い出すようになったのは。


やがて、奏多のことを調べるうちに、一族の上層部がひた隠しにしていた弟に纏わる極秘情報を得ることに至ったのだ。


そう――弟も、奏多と同じく『破滅の創世』の神魂の具現として生を受けたという事実を――。


生きている。弟は今も生きている。

確かに今こうして弟は奏多として間違いなく存在している。

その事実は途方もなく、慧の心を温めた。


引き離された自分の片方。それを探し続ける旅路。


その証左のように奏多と弟は繋がっている。


「それでも……」


言葉は有用だ。しかし、万能じゃない。

どんなに言葉に嵌めようとしても、到底伝えきれない思いもある。

たとえ言葉にできたとしても、伝えられないことだってある。


死んだ弟は帰ってこない。

過去に縛られているだけだ。


だからこそ、慧は夢中になっているだけかもしれない。

三人の神のうち、最強の力を持つとされる『破滅の創世』という存在に。

いや――今はもう自分達しか知らない『弟』の存在に。


「もし、あのまま弟が生きていたら……」


言葉が慧の心の端から流れ出す。

――胸に抱く憤怒にも似た感情を、瞳に宿しながら。


「俺達は今とは違う関係になっていたんだろうな」


もしそうなら、今とはまた違う形になっていたかもしれない。そんな『もし』を知ることは出来ないけど。

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