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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第三章 俺と彼女が、王女の闇を祓うまで

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マリーの決意

お読みいただき、ありがとうございます!

 炎が渦巻く地下墓地(カタコンベ)の中心で、闇と光が交差した。

 一撃を弾かれた黎一は、影とラレイエのすぐ傍に降り立つ。


(なんだ、あいつ⁉)


 現れたのは、影で西洋甲冑を形作ったかのような姿の騎士だった。上背は黎一より頭ひとつ分大きい。雰囲気は深淵騎士団(アビサル・オーダー)に似ているが、馬には乗っていない。自らの背丈ほどもあろうかという黒塗りの大剣を、片手で握り締めている。


(まだだ……! まだやれるっ!)


 風の結界は消えたが、剣の光は消えていない。周囲の不死者たちや黒棘は、先ほどの連撃と蒼乃とフィーロの炎で討たれている。残るはラレイエと影騎士だけだ。

 そこまで考えた時、黒騎士が大剣を振るった。大ぶりな剣とは思えない速さで、黒い刃が黎一へと迫る。


「げ……っ!」


 愛剣の柄を両手で握り締めて、受け止める。片手で振るっているにも関わらず、剣ごと圧し斬らんと言わんばかりの凄まじい剣力だ。深淵騎士団(アビサル・オーダー)とは比べ物にならない。

 そこへ薄ら笑いを浮かべたラレイエが、黒棘の長杖(スタッフ)を振るった。


(かばね)に根づく徒花(あだばな)よ、骨の棘もて()を喰らえ。屍花弔棘(カダベラス・ソーン)


 周囲の地面に、無数の闇の花が咲く。花弁の奥から黒い棘が伸びるのが、魔律慧眼(カラーズ)がなくても分かった。回避や妨害をしたくとも、目の前にいる影騎士の剣圧がそれを許さない。


「……さすがにこれなら、止められないわよね?」


一心深観(ディープ・フォーカス)で……いやダメだ! 能力(スキル)を付け替える余裕がねえ! それに棘を潰してたら影騎士(こいつ)に叩き斬られる!)


 針山のごとくなった黒い棘たちが、黎一に向かって伸びる。


(えいくそっ! 急所だけでも外して、離脱を……!)


「……竜呪・仄光刃檻(ぴかぴか)っ!」


 幼い声とともに、暗き天井から光の刃が降った。それは黎一を囲むように突き立つと、黒い棘をたちどころに弾き散らす。


魔力(マナ)が違う……。その呪、まさか……」


 なおも斬り結んでいる影騎士が、はじめてくぐもった声を上げる。その意識が、彼方で両手を構えるフィーロへと向いた。

 色々聞きたくなるワードが出た気がするが、今は構っている状況ではない。


(今だッ!)


 ラレイエの戸惑う声をよそに、渾身の力で影騎士の大剣を弾き飛ばした。黒い鎧は一瞬たじろいだが、すぐに返しの斬撃を繰り出してくる。


(これ以上、付き合ってられるかっ!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 無足瞬動(ペネトレイト)ッ!」


 ふたたび能力(スキル)を発動し、すんでのところで黒い斬撃から逃れた。風の結界がないおかげで、押しつぶされそうな加重が身体に圧しかかる。


屍花弔棘(カダベラス・ソーン)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)魔力追跡(マナ・チェイス)! 微風排撃(ブリーズ・リパルス)ッ!」


 黎一の着地を狙ってラレイエが放った魔法を、蒼乃の妨害魔法が打ち消す。

 その隙を突いて最短距離を無足瞬動(ペネトレイト)で駆け抜け、なんとか皆の元までたどり着く。


「レイイチさんっ!」


「……っん、げはっ、ごほっ!」


 マリーの声に応えようとして、盛大に咳き込む。加重で身体が悲鳴を上げているように思えた。ふんわり感じる温かさは、マリーの回復魔法だろう。

 その間に、あたりに生えた黒棘からふたたび無数の屍者が這い出てくる。


「懐に誘い込めば、いけると思ったんだけど……。さすがにやるわね、勇者(ブレイヴ)さんたち。ついでにそこのお嬢さんも」


「……そっちこそ伏兵まで用意してるとか、やるじゃない。性格の悪さ出てるわね」


 蒼乃の皮肉に、ラレイエは嘲るような微笑みを返した。


「伏兵なんて無粋なものじゃないわ。彼はヘクター……。わたしに尽くしてくれる騎士さまよ」


 しなだれかかるラレイエの肩に、影騎士――ヘクターは空いた左手を回す。だがその視線は、先ほどからフィーロだけに注がれている。


「さて、互いの駒も出揃ったかしら。……さ、マリー、ロビィ。行きましょう? 勇者(ブレイヴ)さんたちのお相手は、ヘクターにしてもらうわ」


「行くって……。ラレイエ、貴女なにを……」


「わたしの御座(みくら)へ。貴女たちを贄として捧げることで、わたしの復讐は完遂される」


 ラレイエは詠うように言いながら、左手を差し出す。その掌に生まれた黒い球体が、鼓動するように蠢き始めた。


(マリーさんたちを捧げて完遂……? それが国への復讐……?)


 咳で荒れた呼吸を整えながら、胡乱な思考が流れゆく。

 不意に、なにかが足にぶつかった。振り返ろうとすると、蒼乃が隣に寄ってくる。女体を感じてぞわりと肌が粟立つが、身を離す余裕もない。


「あんた、まだ()れる?」


「一応な。ただ影騎士(あいつ)は予想外だ」


「ね。私もまだいけるけど……フィロを押さえられるわけにはいかない」


 ちらと傍らを見れば、フィーロが無言のまま肩で息をしている。元気なフィジカルお化けが、これである。相当な量の魔力(マナ)を使ったのだろう。

 相手の属性を考えると、マリーとロベルタは戦力外だ。そこに加えて、不死者の無限湧きである。


(ちとキツイか。でも目的は果たした。ここは退く!)


「……タイミングは任せる」


 蒼乃は無言で、フィーロの頭をぽんと叩く。あらかじめ言い含められていたのだろう。黎一の側へと寄ってきて、手を繋ぐ。


「マリーさんっ! ロベルタさんっ!」


 蒼乃は短杖(ワンド)をしまうと、マリーとロベルタに向けて手を伸ばした。二人はハッとした表情で互いに手を繋ぎ、ロベルタが蒼乃の手を取る。

 それを見た、ラレイエの表情が変わる。


「まさか……この期に及んで逃げられるとか思ってないわよね?」


 不死者たちが、包囲を狭める。そこに、ラレイエの黒球が撃ち出された。先ほどの台詞を考えると、触れたらどうなるかは明らかだ。

 その時、蒼乃が足元に伸びた望郷一縷(アリアドネ)の糸を掴んだ。


望郷一縷(アリアドネ)ッ! 巻直(リワインド)!」


 途端。微動だにしなかった糸玉が、黎一たちに向けてころころと転がり始めた。


(どっちが早い……!)


 ――望郷一縷(アリアドネ)が持つ第二の力が、この巻直(リワインド)だった。

 唱えることで糸を掴んだ存在すべてを糸の起点まで転移する、同名の伝承さながらの脱出機能である。糸を掴んだ者と物理的に繋がっていれば、その者も一緒に転移してくれる代物だ。


巻直(こいつ)を当て込んで、ここまで引っ張ってみたが……! 間に合えっ!)


 目測は、黒球のほうがわずかに早い。

 その時――。

 マリーが、ふわりと動いた。


「……お二人とも、ありがとうございました。報酬はロビィから受け取ってください」


 振り向いたマリーは、穏やかな笑みを浮かべていた。悟ったような、なにかを決意したような、そんな顔だ。

 マリーはロベルタから手を離すと、黒球に向かって走り出した。


「ちょっとマリーさんっ⁉」


「マリー! お待ちなさいっ!」


 ロベルタが蒼乃から手を離し、マリーの後姿を追う。

 黒球がマリーの姿に届いた。黒いなにかは音も揺らぎもなく、小さな姿を呑み込んでいく。


(あ……っ)


 ――それが、最後だった。

 周囲の景色が逆行するように歪んだかと思うと、鈍色の空が目に飛び込んでくる。先ほどまでいた、迷宮(ダンジョン)の外庭だった。

 周りにはいるのは蒼乃と、黎一と手を繋いでいたフィーロだけだ。


「ちょっとウソでしょ。冗談きついって、これ……」


 蒼乃がへたり込み、顔に手を当てて天を仰ぐ。

 釣られて空を見上げる。最後に見たマリーの笑顔が、胸に去来した。


「なにが報酬はロビィから、だ。クソッタレ……。結局、未払いじゃねえか」


 心の中の笑顔に向けて毒づいても、応える者はいない。

 鈍色の空を渡る風だけが、黎一たちをぬるりと包んでいった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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