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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第三章 俺と彼女が、王女の闇を祓うまで

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石鬼の陣

お読みいただき、ありがとうございます!

 そびえ立つ古城を背にして、いくつもの影が宙を舞う。

 遠目に見ると、翼が生えた人間だった。だが灰色の体躯に、猛禽の頭と蝙蝠の翼がついた存在など、まともな人間ではない。

 それが各々で異なる得物を持ち、鈍色の空に群れをなして飛び回っている。数はざっと三十ほど。


石像魔(ガーゴイル)か! またベタな場所で出てきやがって!)


 黎一は内心で毒づきながら、フィーロをおぶって走り出した。

 悪魔たちの視線は、先頭を走るマリーに注がれている。

 マリーも気づいているのだろうが、なぜか足を止める様子もない。


(待て待て待てっ!)


 弓を持った石像魔(ガーゴイル)たちが、マリーに向けて一斉に矢を放つ。庇うには、距離が遠すぎる。

 その時――。マリーが右手の錫杖を掲げた。


「地精の君、汝が遣わす盾を欲す! 地君盾招(ガイアズ・シェル)!」


 刹那の間を置き、城の石畳を破って巨大な岩塊が、マリーに向かって飛んだ矢のことごとくを弾き落とす。


「土塊に宿る妖精よ、汝のその身を礫とせん! 地精礫招(ロック・ショット)ッ!」


 マリーの声とともに、岩塊が弾けた。扇状に広がった無数の石の礫が、石像魔(ガーゴイル)たちを叩き落す。その数は、一気に半ば近くまで減じている。


(違う魔法を組み合わせて、性質を変えた!)


 しかし音で呼び寄せられたのか、真横にある外壁の向こうからさらに十数体の影が躍り出てくる。

 魔律慧眼(カラーズ)で見てみると、石像の翼のあたりが黄金の魔力(マナ)に包まれているのが見て取れた。


(石像のクセして風……⁉ そうか、空を飛ばすのに風の魔力(マナ)が付与されてるのか!)


地霊崩(ちれいほう)!」


 呪の名を呼ぶとともに、地に剣を突き立てる。外壁から緑の魔力(マナ)が噴き上がり、数体の石像魔(ガーゴイル)が落下した。

 少し前を走っていた蒼乃もまた、外壁上の石像魔(ガーゴイル)に向けて短杖(ワンド)をかざす。


「風、我が意に従い仇なす者を刻め! 旋風刻刃(ウィンド・ラッシュ)ッ!」


 風とともに、見えない斬撃が荒れ狂う。だが小鬼(ゴブリン)程度ならあっさり斬り刻むはずの魔法は、石像魔(ガーゴイル)たちの身体を少し傷つけただけだ。


「ちょっとなにあいつら! 全然効かないんだけどっ!」


「あいつら風の属性だ! 火を使ってやれ!」


「ああんもう先に言ってよバカッ! ……熱風鳳破(フェーン・ブラスト)ッ!」


 蒼乃は毒づきながらも、さっさと火の魔法に切り替える。守護属性が風であるためか、地属性の魔法だけは苦手らしい。

 正面を見ると、剣や槍を手にした石像魔(ガーゴイル)たちがマリーに向けて飛び掛かっていた。だがその背に、ロベルタが追いつく。


「我が身を挺し、道征く友の盾とせん! 献身挺護(ディボート・フォーム)!」


 呪を唱えたロベルタの身から伸びた青い光が、マリーとの間を繋いだ。

 直前、一体の石像魔(ガーゴイル)がマリーに振るった刃が、マリーの二の腕を直撃する。


「……ッ! この程度なら!」


 だが顔をしかめたのはロベルタだった。当のマリーは痛みを気にする風もなく、群れの中へと突き進む。


「地の底に在りし英霊よ、猛々しき息吹を大地に放て! 地霊息破(タイタス・ブレス)ッ!」


 マリーが喚び起こした地の魔力(マナ)が炸裂し、襲い来た石像魔(ガーゴイル)たちを片っ端から打ち砕く。

 なおこの間、マリーは傷ひとつ追っていない。ロベルタの防具に、いくつかの傷がついたのみだ。


(ムチャクチャするな……。マリーさん、あんな戦い方する人だっけか?)


 外壁上の石像魔(ガーゴイル)たちを地の剣魔法で撃ち落としながら、マリーたちを観察する。

 どうやらあの青い光は、一種の身代わり魔法らしい。被術者が攻撃を受けると、術者の同じ部位に痛みを転化するのだろう。盾と防具で身を鎧ったロベルタとの相性がよいのは分かる。

 だがそれを差し引いても、マリーの戦い方には少々危ういものを感じられてならない。


「……地霊崩(ちれいほう)!」


「我が想い、土塊の裁きと成してかの者どもを打たん! 岩礫砲破(ロック・ヴァルカン)!」


 ――やがて、黎一の剣気とマリーの魔法が、最後の石像魔(ガーゴイル)たちを打ち落とした。

 粉々になった石像の残骸が、外庭のわずかな緑を埋めている。その中を、蒼乃が憤慨した様子でマリーに近づいた。


「ちょっとっ! もう少し落ち着いて戦ってくださいっ! 私たちもこの迷宮(ダンジョン)来たことないんですからっ!」


「ごめんなさい……っ。けど、早く糸玉を追わないと……!」


「ずっとここにいるくらいなら逃げやしませんよ! てゆーかこの迷宮(ダンジョン)にいるのは分かったじゃないですかっ! なんならもう帰ったっていいくらいですっ!」


「そういうわけにも参りません。せめて居所くらいは掴まねば……。国選勇者隊(ヴァリアント)と雪崩れ込む時には、あの能力(スキル)は使えないのですからね」


 語気を強める蒼乃を制したのはロベルタだった。

 全身がほんのりと赤い魔力(マナ)に包まれているあたり、傷を徐々に回復させる火の魔法を使っているらしい。


「そりゃそうですけど……。あんな戦い方してたら、ロベルタさんが保ちませんよ」


「ふふっ、ご心配には及びませんわ。あれしきのこと、苦境とは呼べません。なにせ以前は、これに加えてラーレがいたのですから」


 ロベルタは遠い目で、外壁の向こうにそびえる城の尖塔を見つめた。

 釣られるように、マリーが口を開く。


「今の戦法、ラーレがいた頃に三人で編み出したんです。もっとも突っ込んで魔法を撃つのはラーレの役割で……。わたしは防御とか回復をやってたんですけどね」


(なるほど、ね。それにしたって……)


 呆れたようにため息を吐く蒼乃の横をすり抜けて、黎一はマリーたちに近づいた。


「焦る気持ちは分かりますけど、自重してください。思い出に引きずられて命落とされたんじゃ、こっちも仕事にならない」


 今まで黙って聞いていたおかげか、マリーの表情に影が差す。


「そ、そうですよね。ごめんなさい……」


「それに蒼乃(こいつ)の言うとおり、相手さんは逃げやしない」


 視線を外庭の奥へと向けた。糸玉はすでに見えなくなっていたが、敷かれた石畳には金色の糸がくっきりと見えている。

 不意に、ロベルタが前に立った。


「急ぎましょう。ぐずぐずしていると、面倒な相手に会うことになりますから」


「面倒な相手……?」


 蒼乃が聞き返した時、外庭に大きな影が生まれた。闇を顕す藍色の魔力(マナ)だ。


(なんだ、あれ? でっけえっ……!)


 あたりに、馬の蹄の音が響き渡る。続いて聞こえるのは、馬のいななき。それらは心なしか、暗い(あな)の底から聞こえてくるように思えた。


「ちょっ、なんでこんなところに馬……?」


「……遅かった、ようですわね」


 ロベルタの口惜しげなつぶやきとともに――。

 黎一たちの行く手を塞ぐように、黒い影がゆらゆらと近づいてくるのが見えた

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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