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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第一章 俺と彼女が、異世界でやることを決めるまで
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背中合わせ

お読みいただき、ありがとうございます!

 ロイド村での戦闘は、黎一たちの優勢で進んだ。

 大群は、黎一が炎の剣で薙ぎ払う。屋根上の射手は、蒼乃が風の盾で矢をいなし、風弾で撃つ。

 生き残っている村人たちを誘導しながら、村の奥へと進んでいき――やがて辿り着いた時計塔と噴水が立つ広場で、黎一と蒼乃は背中合わせになって戦っていた。


(それにしても、こんな大量の魔物……どこから湧いて出やがった⁉)


 噴水からわずかに溢れる青の魔力(マナ)で強化した水の弧刃で、小魔(インプ)を屠る。倒した数は、三十から先は数えていない。

 どうやら火災の原因は、この小魔(インプ)が使う火の魔法らしい。水の魔法で優先的に倒したおかげか、延焼はだいぶ収まったように見えた。しかし魔物の勢いは留まることを知らず、噴水広場は無数の屍が転がる地獄絵図と化している。


『どっからって? この先にある穴倉よぉ。お前らは”小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)”って呼んでるがな』


 襲来の波に隙間ができた時、脳裏にふたたび声が響いた。

 聞き覚えのある単語に、眉をひそめる。


迷宮(ダンジョン)から……⁉ 結界が張ってあるはずじゃないのか⁉)


 小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)という迷宮(ダンジョン)講義(レクチャー)の中でも名が挙がっていた。なんでも入り口に小さな木々が群生しているのが、名の由来だそうだ。与しやすい魔物が多く、王都から近いことも相まって、駆け出し冒険者に人気の迷宮(ダンジョン)らしい。

 だがこうした迷宮(ダンジョン)には王国によって結界が張られており、魔物の湧出を防いでいるとも聞いている。


『どっかのバカが表層の結界を解きやがったからなぁ! おかげでお前を見つけることができたから、オレ様としちゃありがたいがよぉ!』


(じゃあ、あんたがいるのも!)


『フン、いいカンしてんじゃねえか。その小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)の奥底よぉ。だからとっとと……』


「……声の人、なんだって⁉」


 不意に、風弾を撃ち出していた蒼乃が割り込んでくる。

 白い肌には汗で黒髪が張りつき、新品の防具には傷や煤汚れがついているが、目立った外傷はない。ちなみに黎一の中で誰かが喋っているという事実は、状況もあってかあっさり受け入れていた。


「近くの迷宮(ダンジョン)の結界が解かれて、魔物があふれ出したらしい!」


「大ごとじゃないっ!! てか応援まだこないのっ⁉ 勾原たちはっ⁉ (ここ)にいるはずだよね!!」


(言われてみりゃ、たしかに)


 存在を忘れていたが、勾原たちもロイド村への運搬任務を引き受けていたはずだった。しかしここまでで見たのは、村人たちだけだ。


(あいつら、まさか魔物にやられ……!)


 端末を取り出すべく、トラウザのポケットに入れようとした時――。


「そこの方、冒険者の方ですかッ⁉」


 左手が、女性の声で止まる。

 見れば少し離れた位置に、ぱっと見三十そこらの女性が立っている。よれた浅黄(あさぎ)色のスカートに白ブラウスと、いかにも中世の庶民女性といった出で立ちだ。

 問いに無言の頷きを返すと、女性はいきなり走ってくるなり黎一の足にしがみついた。


「お、お願いですっ! お助けくださいっ!」


「あ、いや、ちょ……っ」


「だああっ今こいつにしがみつかないでください色々面倒なんでっ! てかもうみんな逃げてますから早く行ってくださいっ! 中央の通りなら……」


「違うんですっ! 娘が、娘がまだ家に……ッ!」


 女性の言葉に、蒼乃と顔を見合わせる。

 広場の周囲の家はほとんど燃え盛っており、中にはすでに焼け落ちている家もあった。早く救出しなければどうなるかは、考えるまでもない。


「ど、どこですかっ!」


「あの家です! 早くッ……!」


 続く言葉が聞こえる前に、女性が指さす広場に面した家が、ひときわ大きく炎を噴き上げた。

 女性の顔が、絶望の色に染まる。


「ああ……っ! フィロッ! フィーロッ!」


「待ってッ! そっち、まだ魔物が……!」


 スカートをたくし上げて走り出す女性を、蒼乃が制止しようとした瞬間――。

 別の家の陰から飛び出した大きな影が、女性の胸を斬り裂いた。


「あ、っ……」


 息が、漏れる。女性の身体が、乾いた音を立てて斃れ伏す。


(死んだ……のか……?)


 ゆらりと黎一たちのほうに視線を向けた影は、小鬼(ゴブリン)を二回りも大きくした代物だった。手には血が滴る鉈のような片刃剣に、円形の盾。身体は、色も造りもバラバラの防具類で鎧っている。


小鬼頭(ゴブリン・リーダー)だぁ……⁉ 一層の階層主(フロア・マスター)じゃねえかッ!! なんでこんなのまで出てきてんだッ! 逃げろッ! 新人(ペーペー)二人でどうこうできる相手じゃねえッ!』


(逃がしてくれると、思うのかよ?)


 響いた濁声をいなすと、斃れた女性からもう一度視線を向ける。

 身体の奥に、沸々となにかが込み上げる。女性は苦手だ。だが娘を案じて身を顧みずに助けを求めてきた、母親だ。

 剣を構えて前に立った。今は”声”のおかげで、身体が強化されている。どちらが前に立った方がいいかは、考えるまでもない。


「……俺が受け止める。お前が仕留めろ」


「ちょっとマジでやる気なのッ⁉ どう見てもヤバそうだよあいつ⁉」


 蒼乃の言葉が終わる前に、小鬼頭(ゴブリン・リーダー)が動いた。

 辛うじて、視線で追いかけられる速さ――。かと思うと、刃を振りかぶって一気に急降下してくる。


『上だッ!』


(分かって、るッ!)


 両手に構えた剣で、受け止める。圧し掛かってくる小鬼頭(ゴブリン・リーダー)の剣撃を、辛うじて弾き飛ばした。何合も保ちそうにない。体力もさることながら、剣が保たない。


魔力追跡(マナ・チェイス)! 風礫招(ウィンド・ショット)ッ!」


 蒼乃が放った風弾が雲を引き、小鬼頭(ゴブリン・リーダー)の左肩を直撃した。だが防具の破片が弾けたのみで、そのまま突っ走ってくる。


「ちょっとこいつめっちゃタフじゃんッ!」


「おい当てられるなら何とかしろッ!」


「もうひとつの魔法なら……! けど近づかないと当てらんないッ!」


 怒鳴り合いながら、噴水の周りを回るように距離を取った。しかし小鬼頭(ゴブリン・リーダー)は屋根から屋根、果ては噴水すら足場にして飛び移り、回り込んでくる。

 ”声”の妙な力で強化されてもこのザマだ。蒼乃があの機動力についていけるとは、到底思えない。


(クッソ……! こうなりゃイチかバチかで組みつくか⁉)


『おい、お前』


(なんだよ今忙しい……)


『お前ら二人とも勇者(ブレイヴ)だろ? あの別嬪ちゃん、相手の魔力(マナ)を追いかけられるのか?』


(知るかそんなもん!)


『恥ずかしがらねえでちゃんと聞けよ。じゃねえとお前ら、間違いなく死ぬぞ』


 呆れた調子の濁声が響く中、跳躍から繰り出されたの一撃を辛うじて凌いだ。お返しとばかりに炎の剣撃を見舞うが、小鬼頭(ゴブリン・リーダー)のふたたび跳躍であっさり躱される。

 ずっと動き回ってるおかげで、体力は限界に近い。このままいけば、”声”の言う通り全滅は免れない。攻撃を当てるなら、蒼乃の力は一筋の希望だ。


(ええい、クソッ!)


「おいッ! お前の力って、敵の魔力(マナ)を追いかけるのか⁉」


「そうよっ! 生き物じゃなくても魔力(マナ)のある対象なら場所も分かるし魔法も追尾させられるっ! ってかそれ今さら聞くっ⁉」


 苛立った蒼乃の声を、脳裏に響く濁声が上書きする。


『……カカカッ! なら話は早えや! あの別嬪ちゃんの顔思い浮かべながら言ってみな! 勇紋共鳴(サインズ・リンク)、ってなッ!!』


(は、はあッ⁉ なんであいつの顔……ッ!!)


『嫌ならここでくたばるだけだなぁ⁉ カカカッ! 相性いい奴が死ぬのはちょいと惜しいが、これはこれで見ものだぜッ!』


(……ッ!)


 煽りに苛立ち、蒼乃の顔を思い浮かべる。

 汗にまみれ、隣り合って戦うその姿に、なぜか胸が高鳴った。

 右手の甲が、妙に熱い。


(こんな、こと……ッ!)


勇紋共鳴(サインズ・リンク)ッ!!』


 刹那――右手の甲にある紋様が、力強く輝いた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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