表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/260

転ずるは嵐

お読みいただき、ありがとうございます!

 屋上から見える曇り空を、白き雷光を纏った蒼乃が飛翔する。フィーロを背負ったまま、一気に大水蛇(アエリア)へと迫った。


『現れたな、売女(ばいた)ッ!』


 巨大な蛇が吼える。呼応するかのように、周囲に無数の氷塊が現れた。

 風の魔力(マナ)を内包した水のドームを喰らったことで、氷も操れるようになったらしい。


(ここでとっ掴まったら終わりだ!)


 黎一は剣に風を纏わせて、大水蛇(アエリア)へと走る。


「アイナさん! マリーさんを頼みます!」


 アイナは意図を察したのか、無言でマリーの護衛へと回った。

 そうする間にも、蒼乃は氷塊を砕きながら大水蛇(アエリア)へと突進している。しかし行く手を阻む氷塊の数も、見る見るうちに増えていた。

 その時――。蒼乃の周囲に、見覚えのある光が包み込む。


(……フィロか⁉)


 本来なら周囲の魔力(マナ)すべてを消す光は、氷塊だけを器用に破壊していく。

 煌めく氷片に光が反射する中を、蒼乃が飛んだ。

 大水蛇(アエリア)までの目測、あと三メートル。


『小癪、なあああッ!!』


 大水蛇(アエリア)の顎が、蒼乃を飲み込まんと動く。

 だが黎一は、すでに蛇の巨体の真下にいた。諸手に持った愛剣を、振りかぶる。


「おおおおおおッ!!」


 図らずも出た雄叫びの瞬間、力が漲った。

 感覚は、”お焦げちゃん”がもたらす身体強化のものだ。しかし今感じられる力は、さらに強い。

 そのありったけを込めて、大水蛇(アエリア)の身体目がけて剣を振り下ろした。


『ガッ……アアアアアッ⁉』


 鱗が飛び、血が重吹(しぶ)く。黎一の繰り出した斬撃は、蛇の巨体の一角を深々と薙ぎ斬った。

 蒼乃が大水蛇(アエリア)に届くまで、あと二メートル。


(普段の、威力じゃねえ……!)


 驚いていると、愛剣がちりっと震える。


『ヘッ! ひとつ上の(つるぎ)になったオレ様の力を見ろい!』


(お前、いつの間に⁉)


『あのガキンチョのおかげだ! アステリオめ、味なマネしやがるっ!』


 脳裏に濁声が響く中、刃を返して二撃目を見舞う。

 振るった焦げ色の剣は、伝説の存在に迫る力を持つのだろう大水蛇(アエリア)の身体を、易々と斬り裂いた。ふたたび、苦悶の絶叫があがる。

 蒼乃が大水蛇(アエリア)に届くまで、あと一メートル。


(よし……いけっ!)


 蒼乃が蛇の頭に――手を、ついた。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)……裏面創返(リバーシブル)ッ!!」


 蒼乃の声が響く。

 刹那の間を置いて、大水蛇(アエリア)の身体を彩る水模様が消えた。


『バ、バカなッ⁉ 力が……消える……』


 大水蛇(アエリア)が、攻撃することもせずに悶えはじめる。

 その間に、蒼乃は黎一の隣へと降り立っていた。アイナとマリーも、黎一の近くに走り寄ってくる。


「うまく、いったんですか?」


能力(スキル)は間違いなく使えましたよ。けど……」


『いいんだよ、あれで』


 マリーと蒼乃のやりとりを遮ったのは、ふわりと現れたアステリオだった。


『よくやってくれたね。姉さんはもう、水たちの加護を得ることはできない』


(だろうな。今のあいつは……風の属性なんだから)


 裏面創返(リバーシブル)――。アステリオから託された能力(スキル)で、手を触れた相手の守護属性を、一時的に能力(スキル)を使った者の属性に上書きできる。

 大水蛇(アエリア)御座(みくら)もとい迷宮(ダンジョン)の力で吸い上げた湖の力によって、無限に等しい魔力(マナ)を持つ。その加護を断ち斬る手段としてアステリオが提示したのが、能力(スキル)による守護属性の変更だったのだ。


(手を触れなきゃいけないってのが鬼門だったが……なんとかなったな)


 黎一が守護属性をもたない以上、特攻は蒼乃に任せる他なかった。

 切札の蒼乃とフィーロは、先の騒動でアイナが手に入れた焉古装具(アーティファクト)である、”隠霧護符(ミスト・アミュレット)”で姿を隠す。

 その間に水のドームを氷漬けにして、迷宮(ダンジョン)からの魔力(マナ)供給を一時的に封じる。

 大水蛇(アエリア)の巨大化は想定外だったものの、フィーロとダイダロスのおかげで、どうにか押し通すことができた――。


『我が、同胞たちが……。積み上げた力が……』


 大水蛇(アエリア)の身体からは、水塊とも人魂ともつかぬものがとめどなく溢れていた。のたうち回る身体が、少しずつ小さくなっていく。

 黎一の斬撃による傷も、癒える様子はない。すでに戦える状態ではないだろう。


『さあ、仕上げだ。やることは……分かってるね?』


 厳しい表情のアステリオの前に、フィーロが進み出る。


「おにーさん……」


「なあ、あんた。ほんとに……いいのか?」


 フィーロの言葉を継ぐように問うと、アステリオは困ったような笑顔になった。

 悲しげな、それでいてどこか吹っ切れた笑顔に見える。


『言ったろ? もうボクらがいていい時代(とき)じゃない』


「で……思い出話は?」


『ハハ、ちゃっかりしてるなあ。姉さんとの話の中で、大体話しちゃったけどね』


 アステリオは呑気な口調で言うと、軽く左手を振るう。

 すると黎一たちの身体が、泡とも光球ともつかぬものに包まれて、曇り空の中に浮かび始めた。


『まだネタがないわけじゃないけど……仕事が終わるまでお預けだよ』


 アステリオの背後、ずいぶんと小さくなったアエリアの周りに陣が顕れる。

 陣を織り成す模様は、先ほどドームの中にあったものと同じだ。しかし水を顕す青だったはずのそれは、今は風を顕す黄金に変わっている。


『認めぬ、認めぬぞ……! 永き時をさまよってきた我らの時を……我らの想いを……ッ!!』


 その鱗に、煌めきはない。代わりに、嵐を纏うがごとき旋風が蛇の身体を包みはじめる。


(ウソだろ⁉ 水の属性で作った紋を、風に適用させたのか……⁉)


『姉さん! もうやめろッ!』


 アステリオが放った水の鎖が、嵐の蛇となったアエリアを縛めた。

 が、属性の相性ゆえか、あっさりと打ち破られる。


『さア、ヒめサ……ま……! どウか……みクラ……へっ!』


 風を纏った大嵐蛇(アエリア)が、宙を漂う黎一たちへと躍動した――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ