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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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哀しみの御座

お読みいただき、ありがとうございます!

 青き水の上天を背にして、ヒトガタが殺到する。今や塔の屋上は、ヒトガタたちで半ばまでが埋まっていた。


『忌々しき血に、裁きをッ!』


『止めてくれ、姉さんッ!』


 吼えた大水蛇(アエリア)の口から放たれた瀑布のごとき水の奔流を、アステリオが掌をかざして受け止める。

 黎一たちは前へは出ず、フィーロを囲むように陣を組んだ。最前列が黎一、脇に蒼乃とアイナ、フィーロの後ろにマリーが並ぶ形だ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)……風巧結界(デフト・ウィンド)!」


「風に漂う小さき友よ、その身を棘とし(くびき)となれ! 微風封罠(ブリーズ・ピラー)ッ!」


 風を顕す黄金の魔力(マナ)と、蒼乃がばら撒いた無数の風弾が重なった。黄金の領域に触れた瞬間、ヒトガタたちの速さが鈍る。かと思うと、ひとまわり大きくなった風弾に突っ込み動きを止めた。


「いっ……けえっ!」


「――銀月(ぎんげつ)黄牙(こうが)


 黎一の風刃と、アイナが腰だめの構えから放った黄金の剣風が、動きの止まったヒトガタを薙ぎ払う。


「地の底に在りし英霊よ、猛々しき息吹を大地に放て! 地霊息破(タイタス・ブレス)ッ!」


 姿を消してすり抜けて来たヒトガタたちもまた、マリーが放った地の魔法に意図を阻まれ、同じ運命を辿った。地は風に強い。風の領域の中でも、威力を弱めることはない。

 だがその間にも、新たなヒトガタたちが無数に水のドームから湧き出てくる。


(えいくそっ! 無限湧きなんてゲームの中だけにしやがれ! これじゃ大水蛇(あいつ)に近づけ……)


 めくるめく思考を、中央にいる大水蛇(アエリア)の咆哮が遮った。

 魔律慧眼(カラーズ)で見ると、風の領域がたちまち群青へと染まっていくのが分かる。


「げ、っ……!」


「ちょっとなに⁉ 変な声出さないでよ!」


「場の魔力(マナ)を置き換えられてるッ!」


「うっそ⁉ 大水蛇(あいつ)も⁉」


 蒼乃が、表情を硬くする。

 思い起こせばアエリアが召喚したであろう鉄紺巨蟹(カルキノス)も、場の魔力(マナ)を制御する結界を使ったのだ。主であるアエリアが同じ手を使えるのは、当然と言えば当然である。しかし場を染め上げる速さは、鉄紺巨蟹(カルキノス)のそれをはるかに凌駕していた。


(威勢よく挑んだはいいが! キリがねえな!)


 ふたたび風巧結界(デフト・ウィンド)を繰り出した後、魔律慧眼(カラーズ)で周囲を観察する。

 ヒトガタたちは蒼乃やアイナが倒す側から、変わらぬ勢いで水のドームから生まれ出てきていた。大水蛇(アエリア)もまた水のドームに身体を預けながら咆哮を繰り返し、隙を見つけては水流を放ってくる。


(場に対する干渉力も強すぎる……。地精王獣(ベフィモス)と同じか、それ以上だ! 六天魔獣(ゼクス・ベスティ)を超えるほどの魔力(マナ)が、大水蛇(あいつ)にあるはずないのに……ん?)


 ふと、巡らせた視線が上天を覆う水のドームで止まった。水のドームは依然として輝きながら、屋上の金属質な床に水模様を生んでいる。


(まさか御座(みくら)ってのは……屋上(ここ)じゃねえのか⁉)


 遺跡が変容してからの景色が思い起こされた。

 湖水を汲み上げる水車、水を階層に流す水路、澱んだ黒い水が流れ落ちる滝――。

 それらひとつひとつが繋がり、脳裏にひとつの仮説を生む。


『……さすが、察しがいいね。ソウマが自慢するだけはあるな』


 我が意を得たりとばかりに声をかけてきたのは、ふわりと隣に表れたアステリオだった。


「あんた、なにを……⁉」


『いや、いつだったかのソウマの親バカぶりを思い出したのさ。うちの子は頭の回転が速いんだ、ってね』


「……こんな時に、下らないこと言わないでくださいよッ! で、本当なんですか?」


『ああ、察しの通りだよ』


 幾度目かの水流を、アステリオは右の掌だけでそれを受け止めた。吹き散った水飛沫を、蒼乃が張る風の結界が散らす。


御座(みくら)ってのは屋上(ここ)だけじゃない。姉さんが造り上げたこの迷宮(ダンジョン)すべてが……御座(みくら)そのものなのさ』


 アステリオが語る間も、新たなヒトガタたちが襲いかかってくる。

 アイナの剣撃と蒼乃が放つ竜巻が、ヒトガタたちを薙ぎ散らした。マリーは風の結界を邪魔しないためか、補助と回復に専念している。


『湖の水とともに、魔力(マナ)と同胞の思念を汲み上げる。あふれる怨嗟を、澱んだ滝として流す。清らかなる水のみを上天へと運び、来たる希望を運び奉る。……姫様の力を感じ取った姉さんが、この湖の水の魔力(マナ)から創ったんだ。おかげでボクも、恩恵にあやかれているけどね』


「だからいきなり湖の魔力(マナ)が枯渇したのか……。じゃあ、この騒動も全部……」


『姫様をお迎えに上がる前準備、ってところかな。まあ姉さんも、姫様から来てくれるとは思ってなかっただろうけど』


 水のドームからは、ついに黒い淡水蛇(アクア・サーペント)までもが姿を現した。

 蒼乃が吹雪の檻によって、その動きを縛める。だが水流を幾筋も放たれれば、ひとたまりもないだろう。


「ちょっと、ヤバいの出て来たよ⁉ そろそろジリ貧なんですけどッ!」


『まあそんなわけで、だ……。この迷宮(ダンジョン)そのものをどうにかしないと、姉さんは止められない。今の姫様の御力だけだと、ちょっと無理だろうね』


 せっつく蒼乃の声には取り合わず、アステリオはおどけるように言う。

 背後のフィーロがしゅんとしているが、今は構っている場合ではない。


『キミならできる……。そう思って、ここまで連れて来たんだけど?』


「どうやって……!」


『とぼけなくても感じるよ……彼女の能力(ちから)を。持ってるんだろ?』


「……ッ!!」


 見透かすようなアステリオの視線に、ひとつの解が生まれる。

 それは、初めての迷宮(ダンジョン)で出会った存在。地の底であった女傑。父の名を、最初に出した存在。

 たしかに彼女の力は、黎一の中に息づいている。


『その様子だと、一度は使ったみたいだね。キミが聡明でよかったよ。だが今は、出し惜しみしてる場合じゃない。……ボクの能力(ちから)もあげよう』


 そう言ってアステリオは、黎一の額に手を当てた。

 意識に広がった祠堂、その中に在る石碑のひとつに、光が灯る。


「この能力(スキル)は……」


『組み立て方は任せるよ、ソウマの子よ』


 目の前にひしめく魔物の群れ。その中心に鎮座する大水蛇(アエリア)。与えられた能力(スキル)の力。

 ――ひとつの手番が、黎一の頭に浮かぶ。


(やって、やれなくはねえか……!)


 剣魔法による弾幕を張りながら、右隣で魔法を撃ち続ける蒼乃に視線を向けた。


「おい、蒼乃……手、出せ」


「へ、っ⁉ なんでこんな時に……」


 文句を言いながらも左手を差し出す蒼乃の手を、しっかり握った。

 温もりを感じながら、蒼乃に与える能力(スキル)を入れ替える。


「これ、って……!」


「このままじゃジリ貧だ。あの能力(スキル)を遣う。だからその前に……やること、分かるな?」


「ちょっ……こんなの無理だよっ!」


「今、それができるのはお前だけだ。頼む」


 蒼乃はしばし口を引き結んでいたが、やがてこくりと頷く。

 それを見た黎一は、アイナとマリー、フィーロにちらと視線を巡らせる。


「蒼乃を、大水蛇(アエリア)のところまで行かせたいんです。……フィロ。もう一度、ルナと一緒に行ってくれ。できるか?」


「うん! もう、なかなおりしたもん!」


 にぱっと笑うフィーロの頭を、空いた左手でわしわしと撫でる。

 するとアステリオが、すっとフィーロの側に(かしず)いた。


『……今は敢えて、フィーロと呼ぼう。その御力を、黒き剣に』


 フィーロはぽかんとした顔をしていたが、ややあって手をポン、と打つ。


『れーいち。おこげちゃん、ちょっとだけさわらせて』


「ん? ああ……」


 剣魔法を放ち終えた愛剣の柄をフィーロに向けてやる。

 するとフィーロは、柄頭のところをひょいと触った。


「ずびび」


 次の瞬間――。


『……んおほお、おぅおおッ⁉』


「おおうおぅ⁉」


 脳裏に、官能的な濁声が響き渡った。

 それに釣られて、黎一の口からも変な声が出る。


『てめえアステリオッ! いきなり変なことさせんじゃねえッ!!』


「おいお前、いきなり変な声出すんじゃねえよっ!」


『仕方ねえだろいきなりケツ穴に指突っ込まれたようなもんだぞっ!』


『……やっぱりか。相変わらず面白いもの作るね、ダイダロス』


 ダイダロスの声で成功を悟ったのか、アステリオはけらけらと笑っている。

 その反面、周囲の女性陣からは冷ややかの雰囲気が伝わってきた。数多の刃物が突き立つような感覚が、たまらなく痛い。


『さ、やれることはやった。行こうか、ソウマの子よ』


「クソッタレ、あとで覚えてろよ……!」


 軽い調子のアステリオを尻目に、黎一は大水蛇(アエリア)へと視線を向けた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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