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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで
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闇を薙ぐ光【レオン】

お読みいただき、ありがとうございます!

 同時刻――アンドラス湖畔。

 雨は、一段とその強さを増していた。湖面に雷が落ちる度に、砲撃に似た音が耳をつんざく。

 そんな中、レオン・ウル・ヴァイスラントを中心とする討伐隊はなおも戦い続けていた。


「方陣、狭めよッ!」


 号令によって、ずいぶんと少なくなった冒険者たちがじりりと後退を始める。

 今や討伐隊は、その数を三分の一にまで減じていた。レオンが連れてきた五十弱と合わせても、百五十には満たないだろう。

 その目の前から、勢い衰えぬ魔物の群れが襲い来る。目の前にした獲物たちの命を、刈り取らんために。


(我、死線に在り……か!)


 振るった片刃剣(サーベル)が、小鬼(ゴブリン)の首を刎ねた。続く動きで、空いた左掌から光弾を放つ。光弾は狙い違わず、樹木人(ウッド・ノイド)の一体を打ち倒した。

 隙を突くつもりか、数体の小鬼(ゴブリン)が死角から近づくのが見えた。


小鬼(ゴブリン)にしては賢い)


 すぐさま左手を払い、光刃で薙ぎ倒す――その動きに移る直前。

 やおら後衛から飛び出てきた巨漢が、棍棒の一振りで小鬼(ゴブリン)を打ち倒した。

 記憶にある顔だった。先日転移してきた勇者(ブレイヴ)の一人、ダイゴ・ミフネだ。


「すまない、助かったよ!」


「これで合格でいいかい⁉ 王子さんよォ!」


「ハハッ、考えておこうッ!」


 敢えて言った礼に不敵な笑みで応じるミフネに、軽口を返す。

 この依頼(クエスト)国選勇者隊(ヴァリアント)の二次募集の選抜試験を謳ったものだった。勇者(ブレイヴ)たちの参加を促すための方便だったが、わりと真面目に取った者もいるらしい。


(その剛直さ、嫌いではないが……なッ!)


 ふたたび片刃剣(サーベル)で、数体の小鬼(ゴブリン)を薙ぐ。その時、湖の中央にそびえ立つ迷宮(ダンジョン)が視界に入った。


(しかし……。何なのだ、あれは)


 いくつもの鉄の水車と瓦礫を組み合わせたような外観は、妙な圧迫感を与えてくる。荒天の隙間から時折見える頂には、なにやら水の膜のようなものが見て取れた。その中を泳ぐように蠢く巨大な影を見た時は、妙な胸騒ぎがしたものだ。


(遺跡がこれだけの変容を遂げた……。となればあの娘と国選勇者隊(ヴァリアント)は無事で、内部を攻略しているということか?)


 不思議と、彼らが命を落とすとは微塵も思っていなかった。あの少年には、そう思わせるなにかがある。

 転移してきた当初に情報を確認した際は、気にも留めていなかった。所持する能力(スキル)も魔法工学の開発部門やギルド職員などに向いたもので、戦闘向けとは思えない。


(伝説の魔物に、新たな迷宮(ダンジョン)……。渦中にいるのは、常に彼だ。あの娘にしても、彼が助けなければ……)


 少年は自らの働きによって、周囲の見立てをことごとく覆した。

 国選勇者隊(ヴァリアント)となった後もいくつかの迷宮(ダンジョン)を攻略し、その名声を聞かぬ日はない。なぜか最初の発見者(ファースト・シーカー)に拘っているらしく、それを悪し様に言う声はある。しかし裏を返せば彼らだけで迷宮(ダンジョン)を攻略できるわけで、今のところ国家にとっては模範的な英雄だ。


(本当に気にせねばならぬのは、彼なのかもしれない)


 不思議と、口の端が笑みの形に変わる。

 他人に興味が湧いたのは久しぶりだった。富、家柄、才能、容姿――すべてを持って生まれた人生において、興味の対象足り得たのはほんの数人だ。


(もっと語り合う時間を取りたいものだ。互いにこの死地から生還できれば、だがな)


 上位小鬼(ホブ・ゴブリン)の巨体を、光の刃で真っ二つに断ち割った。もはや何体目かなど、数えてすらいない。

 方陣に目をやると、連れてきた冒険者たちの半数ほどがすでに倒れていた。意外にも新米(ルーキー)であるはずの勇者(ブレイヴ)たちが耐え抜いてはいるが、崩れるのは時間の問題に思える。


(レイイチ君、生き残れそうかい?)


 姿の見えぬ少年に、胸のうちで問いかける。

 きっと彼なら、めんどくさそうな顔をしながらも前を向くだろう。常に傍らにいる、同郷の少女とともに。


(いや、心配ないか。君は死なない……彼女と、共にある限り)


 そこまで考えた時――。視界が、ぐらりと揺らいだ。

 無意識のうちに膝をついたのだと分かるまで、数瞬を要する。


(く、っ……! いつにも増して、早いな……ッ!)


「……殿下ッ!」


 甲高い女性の声と、前方からの衝撃音と魔物の断末魔が重なった。膝をついたところを狙ってきた魔物を、倒してくれたらしい。

 そのまま、肩を貸される形で方陣の内側へと引っ張り込まれる。


「殿下、お気を確かに!」


「ああ……大丈夫、だよ。ロベルタ」


 傍らを見れば予想通り、専属補佐官であるロベルタの悲痛な顔があった。

 自慢の金髪は雨や泥で見る影もなく崩れ落ち、身に纏う鎧もほとんどの部位を欠いている。先ほどまで手にしていた盾も、今の攻撃で失ったらしい。


「お顔の色が優れません……。どうかお退がりください! 前衛はわたくしが引き請けます!」


「ハハ……今この場で、顔色が良い者などおるまいよ」


 軽口で応じながら、膝に手をついて立ち上がる。鎧の隙間に忍ばせた、煌めく青色の液体が入った細い瓶を呷る。

 気づかぬうちに傷を受けたわけではない。魔力欠乏症(マナ・ロスト)――魔力(マナ)の遣いすぎを原因とした、身体の不調だ。


(まったく興味深いな……! すべてを得て生まれたと思っても、こうして何かしらの欠落があるのだから……!)


 生まれ持った疾患とも言うべきものだった。身に宿した魔力(マナ)の総量が、極端に少ない。

 肉体的な問題はない。修練と技巧を以て、強力な魔法を扱うこともできる。しかしこうした消耗を強いられる戦では、水薬(ポーション)の類が必須となるのだった。


(故にこそ、君に興味があるのだよ……すべてを持たぬ身から、すべてを得ようとする君に!)


 ふたたび塔の頂に目をやった時、視界の端に数頭の多頭蛇(ヒュドラ)の影が見えた。その身体は通常の種と違い、表皮が黒く染まっている。


(強化種か……厄介な)


 通常の多頭蛇(ヒュドラ)であっても、銀等(シルバー)(・ランク)が十二人編隊(パーティ)でやっと倒せるか否か、という相手だ。この状況で複数、しかも強化種と接敵すれば、結果は火を見るよりも明らかだった。


「あまり長引かせるわけにもいかんか……賭けに出るとしよう。ロベルタ、あれは残してあるな?」


 その言葉に、ロベルタが顔をこわばらせた。即座に意図を察したらしい。


「き、危険ですッ! おやめくださいッ! それよりどうか殿下だけでも、この場から脱出を……」


「どのみち同じ事だよ。道を拓かねばならん。なにより、背を討たれる将ほど惨めなものはあるまい? ……上官として命じる。やれ」


 ロベルタは意を決した表情で、腰鞄から掌に乗るくらいの石を取り出した。左手に握りしめると、周囲に向かって声を張り上げる。


「今から魔物を引き寄せる! 総員、防御に徹せよ!」


 ロベルタが取り出したのは、挑発魔石(プロボック・ストーン)と呼ばれる魔法道具(マジック・アイテム)である。

 地面や壁に叩きつけると奇声らしき音とともに魔力(マナ)を散布し、周辺の魔物たちを引きつける効果を持つ。もっぱら大規模な討伐戦において、周辺に散った魔物の誘導などに用いられる品だ。


「げえっ……ってことは……」


「全員、方陣組み直せッ! 小さく纏まるんだ! 急げえッ!」


 ロベルタの声に、聞き覚えのある声が反応する。記憶が正しければ、かつて轡を並べたことがある金等(ゴールド)(・ランク)の冒険者たちだ。


(ありがとう……! やはり持つべきは戦友だな!)


 方陣の中央で、片刃剣(サーベル)を大上段に構える。ちょうど天を指す形だ。掲げた刃が白く輝く。レオンの周りにいくつもの光がまたたき、軌跡を描いて回り始めた。さながら、夜天を廻る星のように。

 その間にも、冒険者たちは方陣の輪をしっかり狭めていた。残りは、百に満たずといったところか。視界の片隅では、アマムラやヨモシロが負傷した冒険者たちを庇いながら戦う様が見えた。


(ミフネもやるが……やはり彼らも優秀だ。ここで使い潰すには、さすがに忍びないッ!)


 ロベルタに目で合図すると、挑発魔石(プロボック・ストーン)が魔物の群れの中に投げ込まれた。

 瞬きほどの間を置いて、耳障りな音がする。魔物たちの影が音の中心を目指して群れ始め、やがて黒いひとつの塊となる。今だけは、方陣を見ている魔物はいない。


(さあ、終わりにしようかッ!)


「……光輝閃斬レディアント・ストロークッ!!」


 光満ちた刃を、天へと突き出した。刃に纏った光が、荒天の空へと放たれる。が、すぐに一筋の光槍となって飛来し、集った魔物たちの中心へと着弾した。

 ――閃光。一瞬遅れて、衝撃。

 散りゆく光のひとつひとつが刃となって、周囲にいる魔物たちを斬り散らしていく。


「すごい、魔物が一瞬で……!」


「チッ、あんな隠し玉持ってやがったのかよ……!」


 勇者(ブレイヴ)たちがささやく声とともに光が収まった時、そこに動く影はなかった。光で焼けただれた魔物たちの骸が、累々と横たわっている。

 黒き多頭蛇(ヒュドラ)の死骸は興味をそそられるが、今はそれどころではない。


「よ、し……。後詰と合、流……ぐっ!」


 身体が浮く感覚を、ロベルタの身体が受け止めてくれた。


「殿下ッ……! 総員、撤収ッ! くぼ地の丘まで一度退くぞ! 退けっ、退けえっ!」


 続けて発した甲高い声を合図に、方陣が徐々に崩れ始める。冒険者たちが移動を始めたのだ。


(レイイチ君たちがどの辺りにいるかは分からんが……この魔物たちは迷宮(ダンジョン)から出てきてるわけではない。一度、体勢を立て直して……)


「……う、うわあああっ!」


 悲鳴が、脳裏の算段を吹き散らす。

 声のしたほうに目をやれば、森のほうから無数の魔物たちが殺到してくる。背後を見れば、湖の中にも黒い影が見えた。


(バカなっ! まだ、これほどの数がいるだと⁉)


 引き返してくる冒険者たちが、方陣を組みなおす。

 その数は、先ほどよりもさらに減っていた。


(ここまでか……? いや、まだ彼らがいる)


 雲間から垣間見える、塔の頂に視線を移す。変わらず水の幕が張っているが、その中がわずかに光ったように見えた。


(レイイチ君、急げよ……!)


 レオンは心の中でそう告げると、ふらつく身体を引きずって片刃剣(サーベル)を構えた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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