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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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待ち焦がれし時【月】

お読みいただき、ありがとうございます!

 水のドームから頭を出した大水蛇(アエリア)の口から、激流が迸る。仇なすものすべてを薙ぎ倒さんとする水の刃は、月の目の前で水飛沫となって掻き消えた。

 フィーロが自らの力で、水に込められた魔力(マナ)を打ち消したのだろう。


(サンキュ、フィロちゃん!)


「風よ、我を導く翼となれ! 風翼言祝(ウィンディ・ブレス)ッ!」


 わずかに生まれた隙に呪を解き放つと、手足が一気に軽くなった。

 勢いに乗じて走り出す。活性快体(ヴァイタライズ)のおかげで、フィーロを背負いながら動いても疲れることはない。


『小賢しいッ!!』


「空を漂う風竜よ! 貪り食らえ、我が敵をっ! 風竜顎咬(トルネード・ファング)ッ!」


 憎悪に満ちた声とともに吐き出された水流と、短杖(ワンド)の先端から放たれた竜巻が交差する。巻き込んだものを微塵に砕くはずの竜巻は、想いと魔力(マナ)を帯びた水流を巻き込みながら消滅した。


(ウソでしょッ⁉ 竜巻(トルネード)で、しかも相性勝ちしてるのにッ⁉)


 この異世界の属性は四すくみである。火は水に、水は風に、風は地に、地は火にそれぞれ弱い。

 月が得意とするのは、守護属性である風。大水蛇(アエリア)の属性は水。いかほどの力を持っていようとも、強い言葉の風魔法であれば戦える――。

 そんな算段で挑んだが、はやくもつまづいた形になる。


(近づいて斬空風刃(スラスティング・エア)を当てないと! でもあの威力じゃ、打ち消しだって微風(ブリーズ)じゃ無理……ッ!)


 屋上の縁に沿って走る。目指すは蛇の頭の陰になる位置、首元だ。

 しかしそれを読んだのか、大水蛇(アエリア)はやおらドームを形作る水の膜の中へと首をひっこめた。


(って、あんたもかッ!)


「フィロちゃんっ! あいつの動き止められない⁉」


「んんぅ~! じっとしてくれてたらできるっ!」


(やっぱり、まだ力の制御がうまくいかないんだ……!)


 独り言ちて屋上に戻るうちに、ドームの斜め上の位置に大水蛇(アエリア)の頭が現れる。

 直上から水流が降り来るが、フィーロが右手をかざすと飛沫となって消えていく。先ほどから見ている限り、フィーロが力を使うにはしばしの溜めが必要らしい。


(だったら、知ってる手でやってみるッ!)


 左手に、先ほど拾った鉄鼠色の短杖(ワンド)を握る。

 はぐれる前、刹那聞こえた相方の声を思い出す。


黎一(あいつ)は、死ぬな、って言った……ッ!)


 左手の甲が熱を持った。勇者紋(サイン)が、白く輝く。


「……閃雷翔纏ライトニング・アクセルッ!」


 身体が、白い雷光に包まれた。

 風よりも強い力が腕を、足を、全身を駆けめぐる。


「行っくよ……ッ!」


 屋上の床を蹴り、一足飛びに大水蛇(アエリア)の眼前へと迫る。蛇の表情が、動揺に染まった。


「冷厳なりし吹雪の御霊(みたま)! 我が意に応え(くさび)となれ! 封雪叫風(ブリザード・ハウル)ッ!」


 左手の短杖(ワンド)をかざして叫ぶ。

 想像よりも、はるかに広く烈しい吹雪が吹き荒れた。蛇の胴が生えている水のドームの一角が、分厚い氷に覆われる。


『小癪な……ッ!』


 呻く大水蛇(アエリア)には応じず、右手に握りしめた短杖(ワンド)を高々と掲げる。


「空に揺蕩(たゆた)う風の精、我が手に集いて刃となれ! 斬空風刃(スラスティング・エア)ッ!!」


 短杖(ワンド)の先端にある黄水晶から、白く渦巻く風の刃が噴き上がった。

 白き雷光とともに飛翔する。風の流れに押されるままに、蛇の頭を目がけて振り下ろした。狙いは違わず、蛇の双眸の間を風刃が斬り裂く。


『ギヨアアアアッ!! き、貴様……ッ! 貴様アアアアッ!!』


 斬った箇所から、魔力(マナ)と思しき群青の光があふれ出した。蛇の苦悶と、女性の怨嗟、ふたつの声が雷鳴とともに響く。

 だが次の瞬間、大水蛇(アエリア)の周りに無数の水塊が生まれた。眼前の月を目がけ、砲弾のごとく襲い来る。


「わわわわっ!」


 水塊は、ひとつひとつが一メートル弱はあろうかという大きさだ。直撃したらどうなるかなど考えたくもない。かといって、微風(ブリーズ)などの弱い言葉で打ち消せるとも思えない。

 大水蛇(アエリア)の前から飛び退り、なんとか躱した。しかし大水蛇(アエリア)は、その間に次の水塊の群れを生み出している。


(動きを封じに来たっ!)


 背中から、動揺するフィーロの気配が伝わってくる。強大な力も、場の状況を見て的確に用いることができなければ、無いも同じだ。幼いフィーロに、それを求めるのは酷だろう。


黎一(あいつ)は……まだ、来ないよね)


 雷光を纏い、増え続ける水塊を避けながら、相方の顔を思い浮かべる。

 フィーロの行方が分からない以上、援けにはくるだろう。だがそれは、月のためではない。


(色々、言っちゃったからな)


 それでも遺跡が変容した時は、来てくれた。

 目を開けるとちょっと焦った顔があった時は内心、嬉しかった。


(フィロちゃんだけでいい。もう喋ってくれなくてもいい。だから……)


 思考が途切れかけた時、目の前にひと際大きな水塊が現れた。すんでのところで躱すと、いつの間にか同じくらいの大きさの水塊が周囲に溢れている。視界の端で、いくつかの水塊が溶け合わさるのが見えた。


(水塊同士がくっついて……!)


 その時、背に負ったフィーロが力を放った。身体が妙な倦怠感に襲われ、纏っていた雷光が消える。

 水塊のことごとくが、揺らぎ弾けてただの水となり、屋上の床に染みを作る。どうやら、溜めに溜めた力を放つ機を伺っていたらしい。


「んぅ~、うえのおみずもけせるとおもったのに」


「平気よ。ありがと、フィロちゃん」


「えへへ……」


(違う。この子、ちゃんと分かってるんだ……)


 笑い合った瞬間――。視界の外で、水が爆ぜる音がする。

 見ると水のドームの直上から、大水蛇(アエリア)が伸びあがるようにして月へと迫っていた。


(あいつ、いつの間に氷を!)


 今、白雷を含めたすべての加護は消えている。フィーロも力を放ったばかりだ。

 大きく裂けた蛇の口が、月を飲み込まんと開かれる。


(間に合わ……)


 目を閉じた時――光が、またたいた。

 あさっての方から飛び来た光の鏃が、大水蛇(アエリア)の側頭を直撃した。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)……風巧結界(デフト・ウィンド)


 聞き覚えのある、陰気を帯びた声がする。周囲の水の魔力(マナ)が薄らぎ、風の魔力(マナ)が場に満たされていくのが肌で分かった。大水蛇(アエリア)も不利を悟ったか、水のドームへと身を隠す。

 入れ替わるように、ひとりの男が月を庇うように前へと立った。


「あ……」


 声が漏れる。

 ざんばらな黒髪も着込んだ防具も、ぐっしょりと濡れていた。だが陰気な中にも鋭さを見せる眼光は、消えていない。

 塔を登る間も、戦う間も、片時も忘れなかった姿が、そこにあった。


「れーいちっ!」


「……もう、遅いよ。バカ」


 微笑みながら、悪態をつく。

 八薙黎一は微笑むどころか振り向きもせず、ただ剣を振って応じた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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