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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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古き縁

お読みいただき、ありがとうございます!

 大粒の雨が容赦なく降りしきり、雷がそこかしこの湖面へと落ち続ける。

 そんな中、黎一たちは塔の外壁から突き出た水路の上を、泡に包まれて進んでいた。


(頼むから、雷の直撃だけは勘弁してくれよ……!)


 泡に包まれて水上を進むさまは、湖によくあるアヒルボートに似ている。雷に直撃されれば漏れなくアウトだ。それでなくても水路に落ちれば、感電は免れない。


(それにしたって、一体こっからどうやって……ん?)


 ふと前方に、巨大な構造物があることに気づく。よく見ると、金属でできた巨大な水車だった。車輪に似た水車には瓶らしきものが取り付けられ、水路の水を汲み上げている。

 上空や水路の真下には、同じ形状の水車があった。どうやら下層から連続して組まれた水車を用いることで、湖から水を汲み上げているらしい。


『カッ、懐かしいもん持ってきやがって。水を汲み上げて魔力(マナ)を得るなんざ、オレ様たちの頃にゃとっくに廃れてたぜ』


(あれで魔力(マナ)を? えらい前時代的だな)


 にわかに聞こえて来た、”剣”の濁声に応じる。

 ちなみに”剣”の声は、周囲には聞こえない。手段は不明だが、精神に直接語りかけているらしい。


『お前らが焉古時代(レリック・エイジ)って呼んでる頃より前は、こうやって地水火風の実体から魔力(マナ)を取り込んでたんだよ。作ったヤツの記憶が、昔懐かしいブツを再現したんだろうな』


魔力(マナ)を取り込んでるのは、アエリア……。ってことは、水車(こいつ)を辿っていけば!)


『そういうことだっ!! なんとかして水車を昇れっ!』


 振り向きながら、やはり泡に包まれているアイナたちに上の水路を指し示す。

 水の膜のせいか、声がうまく伝わらないのだ。


(って……簡単に言うなよなっ!)


 改めて水車を見ると、瓶は人ひとりが入れるほどの大きさではない。どうにか入ったとしても、落ちたりすれば一巻の終わりだ。

 するとアイナが、やおら泡を割って飛び出した。水路の縁を蹴り、水車へと足をかけたかと思うと、その身を上の水路へと躍らせている。


(いやそういうの無理だしっ!)


 このまま流れに任せて進めば、水車に激突する。

 ふと後ろを見れば、マリーはまだ泡の中でなにやら魔法を唱えていた。


「風の精、その身と羽を以て我が身を運べ! 浮遊風羽(フロート・フェザー)!」


 くぐもった、あどけない声が響く。黎一とマリーを包む泡が、水路からふわりと舞いあがった。さながらシャボン玉のように、荒天の中を頼りなさげに昇っていく。


(よっしナイス、マリーさん! これで……)


 と、思ったのも束の間だった。

 背後に、なにかの気配を感じる。振り向いてみれば、壁の穴にいくつかの影があった。


『ケガサレタ。ミクラノミチヲ……』


『カトウナモノドモ……』


 影はすぐさま、半魚人(サハギン)淡水蛇(アクア・サーペント)の形を取った。水路の中へ入ったかと思うと、高速で黎一たちへと迫ってくる。


(まずいっ!)


 黎一はともかく、空中に泡と浮いているマリーは無防備だ。魔法で反撃はできようが、足場がない空中では不利は免れない。

 迫った淡水蛇(アクア・サーペント)の一匹が、マリーに向けて口いっぱいの水流を吐き出す――。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 無足瞬動(ペネトレイト)ッ!」


 ――直前、黎一は泡の内側を蹴って飛び出した。

 能力(スキル)の加護を得た躍動が、一瞬にして泡を割りマリーへとたどり着く。

 空いた左手で、マリーの腰に手を回した。腰を抱いた時の温もりと、大きく柔らかいものが当たる感触に、鳥肌が立つのが分かる。


「ふ、ん……グッ!」


「わわわっ!」


 すぐ下を、魔物が放った数条の水流が過ぎ去った。

 息が詰まりそうな加重を堪え、そのまま上層の水路を目指す。だが、わずかに届かない。


(えいクソッ!)


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)! 無足瞬動(ペネトレイト)ッ!」


 強烈な加重が、ふたたび黎一を襲った。マリーも同じなのだろう。目を回したのか、一言も発しない。

 消え去りそうな意識の中、水車の瓶を足場に三度、無足瞬動(ペネトレイト)を使って飛ぶ。

 ようやく上の水路にたどり着き、流れる水の中にざぶりと身を沈めた。


「うお……ッ……ゲハッ……ゴホッ……」


『おつかれさん。相変わらず、無茶するなあ?』


(お前が……言ったんだろうが……)


 なおも咳き込みながら、相棒たる愛剣に悪態をつく。隣ではアイナが、ぐったりしたマリーに細管癒水薬(スリム・ヒールエキス)を飲ませていた。

 その時。


「キキッ!」


「ギョオオオッ!」


 水車の方向から、甲高い鳴き声が聞こえた。

 見れば水車のバケツを利用して、数体の半魚人(サハギン)が水路へと入り込もうとしている。


「相手をするだけムダだ! 壁まで行くぞッ! マリー殿、動けますかッ⁉」


「うぅ、おえっ……」


「チッ……私が引きつけるッ! ヤナギ殿、マリー殿を連れて壁へッ!」


「え、あっ、いや、逆の、ほうが……」


 皆まで聞かず、アイナは水路の上へと飛び出した。荒天の中を器用に飛び回り、半魚人(サハギン)たちと剣劇を繰り広げる。


(うああっ、もうイヤだああっ!)


 ふたたびマリーの腰に手を回すと、雨に打たれながら水路の中を進む。水嵩は黎一の腰までくらいだが、雨風とぐったりしたマリーのおかげで進むのもひと苦労だ。


(ちくしょう……! なんだって、俺が……こんな目に……ッ!)


 心の中で毒づいた瞬間、マリーの身体がずるりと滑った。

 勢いで、腰を抱いていた左手が胸元の柔らかい部分を握り込む。


「んっ……」


「ひ、えっ……!」


「ご、ごめんなさい……。ちょっと気持ち悪くて、力が入らなくて……。気にしないから、平気です……」


「い、いや……。とりあえず、は、離れて……」


「ん……っ。壁まで、じゃ……ダメですかぁ?」


(この人ワザとやってんじゃねえだろなマジでっ!)


 などと言い合ううちに、なんとか壁までたどり着く。

 後ろを振り向けば、首尾よく半魚人(サハギン)たちを屠ったアイナが追いついてくるところだった。


「よし、無事だな!」


「全然、無事じゃねえっす……」


「どうした? 怪我か⁉」


「レイイチさんが、ちょっとおイタしただけです……」


「だからそういう言い方……ッ!」


「……バカをやってる場合かっ! もたもたしていると来るぞっ!」


 アイナの声が、珍しく怒気を含んだ。

 水車のほうを見てみれば、早くも後続の魔物たちが昇ってきている。


「だああっ! クソッタレええッ!」


 怒りを風の刃に変えて、壁に五芒星の陣を叩き込む。あとは先程と同じ要領だ。

 ――程なく、塔の外壁に大穴が空いた。


「お返しですよ……ぉ! 地神涙滴(ガイアズ・ティア)ーッ!」


 直後、復活したマリーの魔法が生んだ大岩が、水車を直撃する。

 重さに耐えきれなくなった水路は金属が軋む音を立てながら、魔物たちとともに湖面へと落下していった。


(とりあえず、虎口は脱したか……)


 独り言ちながら、壁の穴からふたたび塔の中へと進む。入った先はやはり金属製の階層に水を湛えた形状だが、なぜか魔物の気配はない。

 位置としては、先ほどいた階層のひとつ上だろう。だが魔力追跡(マナ・チェイス)で探った蒼乃の魔力(マナ)は、今の階層よりさらに上に位置している。


「アオノ殿の位置は分かるか?」


「生きてますけど、さらに上っすね。あの滝、階層ひとつ分またいでやがったのか」


「どうしますかぁ? 水路はもう壊しちゃいましたし……」


(別の方向に穴ぶち空けるか? でも、いい塩梅に上の水路があるとは限らねえ……)


 不安げなマリーの声に、脳みそを回転させ始めた時――。


『……やあ、よく来たね。たどり着いてくれるか、ヒヤヒヤものだったよ』


 脳裏に響く中性的な声に、思わず身構えた。

 アイナとマリーにも聞こえたらしく、得物を構えて互いの背を庇っている。


『失礼、姿を見せていなかったね。ちょっと待っておくれよ』


 声が止むと、中空にぼんやりとした人影が浮かびあがった。

 年の頃なら二十歳を過ぎたくらいか。真っ白な髪と、色白で中性的な顔立ちを持った美青年である。身体には、神話に出てくる神々が纏うようなキトンを纏っている。


『ようやく形を取ることができた。驚かせてしまったね、人の子らよ』


「人の子……? あんたも竜人か」


『ああ、いかにも』


 構えを解かずに問うと、美青年は胸に手を当てて礼を取った。


『ボクの名はアステリオ。……巻き込んでしまってすまない。何度か助けようと思ったんだけどね。姉の力の干渉が、思ったより強くてさ』


「あのアエリアとやら、そなたの血族か」


 アイナの問いに、美青年もといアステリオは首肯を以て応じる。


『キミたちが連れ込んだあの娘の影響だよ。あの娘が持つ純然魔力(ピュア・マナ)が、時の流れに沈みこんだボクらの思念を呼び起こしたんだ』


純然魔力(ピュア・マナ)? 聞いたことないんですけど……」


 マリーの戸惑う声が聞こえた時、右手に持った愛剣がちりっと震えた。


『ハンッ、おとなしく寝てりゃいいものを。夢見がちなのは姉弟そろって相変わらずだな……アステリオよ』


 聞こえぬはずのその声に、アステリオが目を見開く。


『その声っ!! キミ、まさか……ダイダロスかい?』


『おうよ。もっとも声以外は、このザマだがな』


『ひょっとして、君も置いていかれたクチ? 残念な者が揃いも揃って……運命(さだめ)とはかくも酷なものか。悲しいねぇ』


「……おい、あんたら。盛り上がってるところ悪いんだが」


 古の存在たちのやりとりを、うんざりした声で止めに入った。

 果てしなく気になる内容なのは間違いないが、一刻を争う状況である。(よすが)を懐かしむのは後にしてもらいたい。


『おっと、ごめんよ。じゃあ行こうか』


「行くって、どこに……」


『姉と、キミたちのお仲間のところだよ。道はボクが開く』


 アステリオは表情を引き締めると、言葉を続ける。


『あの娘のことはともかく、その紋を持つ以上は業を背負ってもらうよ……レイイチ・ヤナギ』


「……なんで俺を知ってる!」


『キミには姉を、アエリアを止める義務がある。ソウマと同じ力を持つ存在(もの)としてね』


 言葉が終わらぬうちに、階層の中央に明かりが灯った。

 仄暗い中に光が立ち昇るさまは、どこかへ誘っているかのようだ。


『さあ、進もう。無事に終わらせてくれた暁には……そうだな、思い出話くらいはしてあげるよ』


 アステリオはそう言うと、中性的な顔をニッとゆがめた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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