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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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道なき道

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一たちがいる足場の周りは、はやウナギに似た黒い水蛇たちに囲まれていた。

 目の前にいる黒い水蛇に、風を纏った愛剣を振るう。


「んなろっ……!」


 群青の水面に、黎一が斬り斃した黒い水蛇が沈んでいく。しかしそのそばから、新たな水蛇が姿を現した。


(クソッ、たれぇっ!)


 自ら放った風刃を後追いの風刃に食わせ、巨大な鏃と成して水蛇の群れへと放つ。黄金の鏃は中空に弧を描き、数体の水蛇を水に沈めた。


「――潰天(かいてん)


地精礫招(ロック・ショット)ッ!」


 上段から振るわれたアイナの剣と、マリーの放つ石礫が、近場にいた水蛇の一体を屠った。前方へと続く足場が、わずかながら手薄になる。

 アイナの技を以てしても一撃必殺といかないのは、蒼乃がかけていた風の付与がないからだろう。


(よしっ、いける!)


「前だっ!」


 同じことを考えたらしいアイナの声より早く、駆け出す。

 ここで水蛇たちの相手をしていても埒が明かない。なにより、止まっている場合ではない。


勇紋共鳴(サインズ・リンク)……魔力追跡(マナ・チェイス)!」


 意識を、感覚で知っている蒼乃の魔力(マナ)へと向ける。

 ぽつりとした輝きが、脳裏に浮かんだ。感じるのはドーム状になった階層の、さらに上だ。


魔力(マナ)を感じる……! ってことは蒼乃(あいつ)は生きてる!)


 心が、少しだけ緩んだ気がした。

 しかし次の瞬間、別の感情が押し寄せる。


(なんで蒼乃(あいつ)のことになると、こうなるんだ……?)


 知らない感覚。感じたことのない感覚。

 心が熱を持ち、痛くなる。不快ではあるが、嫌ではない――。


「……レイイチさん、あれっ!」


 マリーの声で、ハッと我に返る。

 指し示された先は階層の端、これまでの構造では上層への階段があった場所だった。しかしこの階層は壁が溶け合わさったようになっており、階段は影も形もない。


「げえっ……!」


「アオノ殿はっ⁉」


「まだ生きてはいます! けどやっぱり、ここの上層(うえ)に出たみたいですっ!」


 走りながら問うてくるアイナに、息を切らせながら応じる。

 後ろからは、黒い水蛇たちがわらわらと迫ってきていた。このまま壁際に追い詰められれば、逃げ場はない。


「えい、クソッ……! いけえっ!」


 中空に浮かべた氷刃を連ねて、暗く濁った水へと導く。突き立った冷気はたちどころに水面を凍らせ、黒い水蛇たちの動きを阻む。

 まるっきり時間稼ぎの体だが、今は少しでも考える時間が欲しい。


(あんの幽霊女……! 意地でも俺らをここで仕留める気かっ!)


 すべてを蹴散らして、ふたたび先ほどの滝ができるのを待つか――。

 そこまで思い至ったところで、手にした愛剣がちりっと震えた。


『……ッハアアアアッ!』


「うおぅ⁉」


 例によっていきなり聞こえてきた濁声に、思わず叫ぶ。

 アイナはなにかを察した顔で、マリーは驚いた顔で黎一を見つめている。


『ようやく喋れるようになったぜ……。ったく、なんでテメエは毎度、面倒なヤツに突っ込みやがるんだ! ナニを突っ込むなら近くに手頃なのがいるだろうがっ!』


「黙れ黒マラッ! あいつは一体……って、そんなことは後でいい! あの蛇どもぶっ潰すから力貸せっ!」


『ああん? 小賢しいこと言うわりに脳みそ筋肉でできてんのか? んなことしなくたって道はあるだろうが』


「どこにあるんだ、んなもん!」


『カカカッ、ハナっから見えるなんて言ってねえよ。道がねえなら作ればいい、ってことよ』


 視界の隅では、マリーがそそっとアイナに寄ってなにやら話している。

 剣の意思だと教えてられているのだろうが、可哀想なものを見るマリーの視線がなんともいただけない。


焉古時代(まえ)の遺跡を迷宮(ダンジョン)にしたまではよかったがな……力を御しきれてねえ。集まった魔力(マナ)のデカさと、自分や手下の感情に振り回されてやがる』


「それでもこれかよ……? で、どうすりゃいい」


『試しに剣に色纏わして、そこらへんの壁を斬ってみな。そうすりゃ意味が分かるだろう』


 言われるがままに風を顕す黄金を刀身に纏い、手近な壁を斬りつける。

 すると、刀身がずぶりと壁の中に吸い込まれた。本来ならあるはずの、硬く弾いてくる感触もない。


「なっ……⁉」


『言ったろ? 想起物質化(マテリアライズ)、って言うんだが……そいつがうまくいってねえのよ。魔力(マナ)をかき乱してやれば、簡単にブチ抜ける。ま、それなりの量の魔力(マナ)は必要だがなあ?』


 ふたたび、壁を見る。斬ったはずの壁はすでに塞がっていた。

 不完全であるとはいえ、一気に消し飛ばさなければこうなるのだろう。


魔力追跡(マナ・チェイス)で刃をまとめて叩き込むか? それとも風巧結界(デフト・ウィンド)から、魔力喰鬼(ビッグ・イーター)……? いや、(こいつ)がこう言ってるってことは、それだけじゃ足りないってことだ。)


 マリーは守護属性ゆえか、風の攻撃魔法は得手ではない。アイナは魔力(マナ)を持たない体質なので、魔法を引き合いに出す時点で対象外だ。

 蒼乃がいれば、風の魔法をばら撒いてもらった後に魔力喰鬼(ビッグ・イーター)で吸収して叩き込む、といった手も使える。だがいかんせん、肝心の蒼乃がいない。


(一瞬でもいい、魔力(マナ)を増幅してやれば……)


 ふと、先の騒動での記憶が蘇る。

 苦い記憶だった。あんな思いをするのは、もう二度と御免だ。だがそこで見えたものが、今は突破口になる。そんな気がした。

 背後を見れば、黒蛇たちを縛める氷の水面ははやくもひび入っている。あまり時間はない。


(……やってみる、価値はあるか)


勇紋共鳴(サインズ・リンク)魔力追跡(マナ・チェイス)。……いけっ!」


 いつもの要領で、風の刃を五つ生みだす。刀身から飛び立った黄金の刃は黎一の意志に従い、壁に沿って並んだ。それぞれを繋ぐと、ちょうど五芒の形になる。


(よし、形を維持してくれた。これで……いい!)


万霊祠堂(ミュゼアム)風巧結界(デフト・ウィンド)ッ!」


 周囲に、風が巻き起こる。能力(スキル)魔律慧眼(カラーズ)に戻して見てみると、群青の中に生まれた黄金の光は、いつもよりもひときわ強い輝きを放っている。その中心には、風刃で描いた五芒星が在った。


『ほっほぉ……やるじゃねえか。そういうのでいいんだよ、そういうので』


(うるせえ)


 濁声に心の中で応じつつ、次の手番を思い描く。

 五芒の陣で、魔法を強化する――。以前に騒動を起こした級友たちが、黎一を陥れる際に用いた手である。


(まさか、あいつらの真似事することになるとはな)


 かつてこの手段で引き起こされた崩落によって、黎一と蒼乃は迷宮(ダンジョン)の最下層まで直行する羽目になったのだ。ちなみに級友たちが陣の作成に用いたのは魔法の道具(マジック・アイテム)だったが、今回は剣魔法で応用している。


万霊祠堂(ミュゼアム)魔力喰鬼(ビッグ・イーター)!」


 五芒の風に増幅された風の魔力(マナ)が刀身に集まってくるのが、はっきりと分かった。剣を引き絞るように構え、突きの型を作る。雷光すら迸らせる切先を、五芒の中心へと向けた。


「……いっけえっ!」


 突き出す。

 黄金の聖剣のごとき風刃は、狙い違わず五芒の中心点へと着弾した。五芒が強く輝く。風刃が、一瞬だけさらに大きさを増した。

 ――景色が、揺らぐ。

 

「……これほどとは、な」


 アイナの声が聞こえる中、青い金属質の壁が書き割りを破いたように崩れ落ちていく。その後の視界に広がるのは、一面の荒天。吹き込んでくる風と雨粒が、頬を撫でる。


「す、すごい……。ほんとに壁、崩しちゃった……」


 マリーの声を背に聞きながら、崩れた壁から顔を出した。

 壁際からは、鉄の水路が伸びている。大人ふたりが並んで通れそうな幅だ。どうやら階層の水は、水路を経て外に流れ出していたらしい。


『よおし、よくやった。あとは空飛ぶなり、飛んで跳ねるなり好きにしな』


(適当言いやがって……!)


 しかし上層には、この道と呼べるかすら怪しい道を往くしかない。

 アイナはすまし顔だが、マリーは外の荒天も相まって青ざめた顔をしている。


(道なき道、か。まあ……へたれ勇者の度胸試しにはちょうどいい、か?)


 不思議と、笑みがこぼれた。

 へたれ勇者と呼ばわった者の魔力(マナ)は、未だ上層に感じる。


(死ぬなよ、蒼乃……!)


「水、我らを包みて、まが為す想いを弾け! 泡盾想起(バブル・ガーダー)!」


 マリーの魔法が生んだ泡が、黎一たちひとりひとりを包む。どうやら、水上や水中の移動を補助する魔法らしい。

 黎一たちは泡の中で頷きあうと、水路の上を滑るように進み始めた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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