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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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遺された因果

お読みいただき、ありがとうございます!

 黎一たちは青き魔力(マナ)に染まる建造物の中を、上層を目指して昇っていた。

 あたりは変わらず金属質の青色をした壁と床だが、先ほどよりも地形そのものがやや捻じれている。おかげで壁が障害物になっていたり、床がたわんで坂になっていたりで、進むのにえらい時間がかかることには閉口した。


(ぼちぼち、地上まで戻ってきてるはずなんだがな)


 昇ってきた階層を数えるに、今は地表部分のはずだ。しかし先ほどから上へと昇る階段があるのみで、外へと至る出口どころか窓すらない。


「上に昇る階段……。やはり建造型か」


「みたいですね。上層(うえ)、どのくらいまであるんだろ」


 アイナと蒼乃が話す中、マリーは先ほどから一言も発しない。

 地表に上がるまでの間に万霊祠堂(ミュゼアム)に関する諸々を話してから、ずっとこの調子だった。その表情に怒りはないが、どこか悲しそうだ。


「……んもう、いつまでそうしてるんです?」


 振り向いて呆れ顔で言ったのは蒼乃だった。

 その口調には妙に活力があり、先ほど意識が飛んでいた者とは思えない。万霊祠堂(ミュゼアム)による能力(スキル)付与の実演を兼ねて、無足瞬動(ペネトレイト)の代わりに活性快体(ヴァイタライズ)を渡したおかげだろう。


「別に意地悪で黙ってたわけじゃないんですって。なんなら私は……」


「……そんなこと気にしてるんじゃありません」


 蒼乃の言葉を、マリーはむすっとした口調で遮る。


「触れられたくないことがあるのは分かります。わたしにだって、そういうのありますから」


(お姫様にも、そういうのあるのか)


 才色兼備、さらには家柄にまで恵まれている。

 一見すれば非の打ちどころのない少女だが、人知れぬ苦労はあるのかもしれない。


「でも……わたしくらいには話してくれたっていいじゃないですか。同じ国選勇者隊(ヴァリアント)の、仲間なんですから」


(その繋がりを、まだ信用できずにいるけどな。……いや、それを怒ってるのか)


 王族であり国策と直接関わるマリーのことを、おいそれとは信用できなかった――。

 蒼乃が言わんとしたところはまさにそこなのだろうが、マリーの真意は別の部分にあるらしい。


(まったく、ただでさえめんどくさい状況だってのに……)


 感情を小さなため息として吐き出しながら、階段を昇った時。

 周囲に満ちた青が、揺れる。同時に傍らにいるフィロが、ちらりと黎一を見た。


「……れーいち」


「ああ、分かってる」


 応じている間に、群青から沁み出た揺らぎが人の形を取る。

 あたりを囲んでいるものだけでも、十は下りそうにない。幾度目かの遭遇だが、今までで一番数が多い。


「遺跡が変容してから、露骨に数が増えたな」


「……風刃恩寵(ウィンド・ウェポン)! それじゃ、よろしく」


 蒼乃の軽い言葉とともに、アイナが構えた長剣の片刃に風の魔力(マナ)が宿った。

 意図を察して能力(スキル)を切り替え、解き放つ。


勇紋権能(サインズ・ドライヴ)万霊祠堂(ミュゼアム)風巧結界(デフト・ウィンド)


 周囲に、風が渦巻いた。魔律慧眼(カラーズ)で見ると、今は水を顕す青い魔力(マナ)に満ちた空間を、風を顕す黄金の魔力(マナ)が照らしている。


『ピイィ……』


『グ、ギ……』


 囲んでいたヒトガタたちから、苦悶の声が漏れ出た。

 巧結界(デフト)と名のつく能力(スキル)は、周囲の大気に満ちる魔力(マナ)の分量を変える効果である。使った属性の魔力(マナ)分量を高めるとともに、その属性を弱点とする属性の魔力(マナ)の分量を減らすのだ。


(まあ、あいつらには辛いわな。言わば水そのものみたいな存在(もん)なんだろうし)


 この世界において、水が苦手とするのは風――。アエリアの言葉を真とするならば、今の状況は水より生まれ出たヒトガタたちにとって、苦痛以外のなにものでもないだろう。


(しかもこっちにゃ、火の守護属性はいない)


 かつて探索した小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)には六天魔獣(ゼクス・ベスティ)たる地精王獣(ベフィモス)が眠っていたせいか、地の魔力(マナ)が満ちていた。おかげで守護属性が風である蒼乃が、体調不良にまで陥ったりと散々な目に遭ったのである。

 だが今回、それぞれの守護属性は蒼乃が風、マリーが地だ。黎一とアイナは元より守護属性がないため、大気の魔力(マナ)の影響を受けずに済む。


(つまりこの面子……水の迷宮(ダンジョン)とは、めちゃくちゃ相性がいいわけだ)


「雲に住まいし風の竜! 貪り食らえ、我が敵を! 風竜顎咬(トルネード・ファング)ッ!」


 それを裏づけるかのごとく、生き生きとした蒼乃の声とともに渦巻く風が放たれた。風は竜のようにうねり、手前にいたヒトガタの一体を屠る。そのまま勢いを弱めることもなく、奥のヒトガタたち二体を喰い散らした。


「――刻穿(せんこく)


 アイナの、滴り落ちるような声が響く。黄金に染まった斬撃の渦が、殺到していたヒトガタたちに襲いかかった。強化された風の魔力(マナ)を宿した剣技の前に、ヒトガタたちは溶け消える暇すら与えられず葬られていく。


「わあああ~! みんなすごいねえ!」


「お~、そだな~……」


 目を輝かせながら見ているフィーロを、腑抜けた声であやす。

 万霊祠堂(ミュゼアム)の存在が知られた以上、手加減をする必要はなくなった。攻撃役(アタッカー)である蒼乃とアイナの火力は留まることを知らず、ほとんどの場面で黎一が攻撃に回る前に勝敗が決している。


(ダメだ、いかん……敵地なんだ。油断なんてしようもんなら……)


『……チカラヲ、フタツ?』


『オナジダ。アノモノト』


 囁き声に目を向けてみれば、遺跡の天井に漂うヒトガタたちが黎一を見ている。


『ウラギリモノ』


『オワラセタモノ』


『イマイマシキモノ』


 青が、歪んだ。群青と化した魔力(マナ)の中に、なにかの気配が生まれる。


『ソウマ……ソウマ……ッ!』


 青き深奥から声が響く。くぐもってはいるが、先ほど聞いたアエリアのものだ。


(父さんを、知っている……?)


『ソウマニツラナルモノガ、ヒメサマトトモニ……ッ!』


 青き揺らぎが、鼓動のごとく脈打つ。しかしよく見ると、ゆっくりとなにかの姿を形作っているのが分かった。巨大な胴に高々と掲げた両手、八本の足を持った姿には見覚えがある。


『ホシトナリ、ホシトノボリシモノ……ワガマネキニコタエヨッ!』


(やっべ……!)


「……下がれっ!」


 黎一の叫びと同時に揺らぎは形を取り、流星のごとく降り来たる。

 それは、鉄紺色の甲殻を持った巨大なカニだった。体長は胴の横幅だけでもおよそ二メートル、ハサミも入れれば四メートルほどか。


『ユケッ! 鉄紺巨蟹(カルキノス)ッ!!』


 鉄紺巨蟹(カルキノス)と呼ばれた巨大なカニは、アエリアの声に応じるように両のハサミを打ち鳴らす。


(ったく、こっちはこっちでめんどくせえな……ッ!)


「……フィロ。マリーさんと一緒にいろ」


 フィーロが下がったことを見届けると、黎一はゆっくりと愛剣を構えた――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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