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ルーザー・ブレイヴ ~異世界転移で女子と強制ペア!底辺スキルの覚醒と工夫で最強の英雄になった件~  作者: 朴いっぺい
第一部【勇者降臨】 第二章 俺と彼女が、少女のカタチに気づくまで

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幽玄なる虚穴

お読みいただき、ありがとうございます!

 遺跡の螺旋階段を下りた先にも、やはり工場らしき風景が広がっていた。

 金属質の青い壁に、剥き出しのパイプや鉄骨らしきものが見える遺跡を進む。先頭にアイナ、次にマリー、間に黎一と手をつないだフィーロ、最後尾が蒼乃といった隊列だ。


(一番後ろがいいんだけどな……)


 前後を女性に挟まれた状態というのは、なんとも言えず具合が悪い。右手に刃物を持っていることを考えても、蒼乃にフィーロを任せて最後尾に行きたいところだった。しかしフィーロが、頑として蒼乃とは手を繋ごうとしないのである。

 そんなフィーロはというと、周りの風景に目を輝かせながら歩いている。


「フィロちゃん、あんまりはしゃぐと疲れちゃうよ」


 殿(しんがり)にいる蒼乃が、フィロに言う。だがフィロは少し蒼乃に視線を向けたのみで、変わらぬ速さで歩いていく。背後から、わずかばかりのため息が聞こえた。

 

(途中で抱っこやおんぶ、とか言われなきゃいいけど……)


 湖畔の戦況もあるため、一行の足取りは結構な早足である。それにも関わらず、飛び跳ねながら歩いてついてくるのだから大したものだ。

 程なく、二つ目の螺旋階段が見えてくる。どうやらこの遺跡は、縦穴の中に金属の床でいくつかの階層を設けた構造らしい。


「ここって、焉古時代(レリック・エイジ)じゃどういう場所だったんですか? かなり殺風景ですけど……」


「んん~。仮説じゃ、今の魔力湧出点(マナ・スポット)と同じような使われ方をしてたみたいですよ?」


 気分を変えたいらしい蒼乃の質問に、マリーが応じる。

 焉古時代(レリック・エイジ)の遺跡には魔物が出ない――。その安心感からか、声の調子は少し明るい。


「……そんなに昔から吸い上げてるのに、魔力(マナ)ってなくならないんですね」


「そこ、よく分からないんですよぉ……。焉古時代(レリック・エイジ)の記録でも湧き出る魔力(マナ)を回収、伝導する仕組みのことは残ってても、魔力(マナ)そのものに関する内容はほとんど残ってないんです。世界の恵み、みたいなあやふやな記述になってたりしてて……」


「それだけ発達した文明で、エネルギー源に対しての研究が何も為されていない……? 実際こうして枯渇する魔力湧出点(マナ・スポット)まであるのに……?」


「不思議ですよねぇ。まあ……あるのが当たり前、みたいな感じだったんでしょうね。なくなるなんてことが、考えられないくらいに」


 蒼乃とマリーのやり取りを聞きながら、ふと気になって視界を魔律慧眼(カラーズ)に切り替える。

 途端、遺跡全体に青色が広がった。だが少々青い、といった程度のもので、視界に影響を及ぼすほどの濃さではない。


(たしかに小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)ほどじゃねえな……)


 最初に訪れた焉古時代(レリック・エイジ)の遺跡――小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)の奥地では、地を顕す緑の魔力(マナ)が色を変ずるほどの濃度になって満ちていたものだ。封印されていた地を司る六天魔獣(ゼクス・ベスティ)の一柱、地精王獣(ベフィモス)の影響もあったのだろう。ちなみに魔力(マナ)の含有量は、ざっくり百年くらいは保つらしい。


(仮に無限に溢れるのが当たり前、なんてエネルギーがあったとして……。そんなもんまであったのに、なんで文明は滅びた? そこにいた奴らはどうなった?)


 かつて浮かび上がってきた疑問が、ふたたび頭をもたげる。

 だが目の前に広がる青の光景に、答えはない。


(父さん……。そんな時に一体、なにやってたんだよ……?)


 答える者がいない問い。心の中だけで、終わらせようとした時――。

 周囲の青色が、震えた。


(……ッ⁉)


 それは水面に起こる波紋のように、風に揺れるさざ波のように。はたまた、脈打つ鼓動のように。

 うち震えるその度に、青はどんどん濃くなっていく。


「……れーいち」


 不意に、手を引かれる。

 見れば手を繋いでいたフィーロが、不安げな顔で黎一を見ていた。


「フィロ、どうした……?」


「なんか……こえ、きこえる」


「声……?」


 フィーロの言葉に、一行全員が立ち止まる。

 あたりを見回してみるが、他に動く者の気配はない。もちろん、声など聞こえない。


「なんて、言ってるんだ?」


「んぅ……。『マッテタ』、『オカエリ』って……」


 背筋に、怖気が走る。

 ふたたび青が震え、たわむ。気づけば色の濃さは、かつて見た小さな木立の迷宮(リトル・グローブ)に迫るほどのものになっていた。


「……来るぞッ!」


 アイナの鋭い声と同時に、いくつかの影が揺らぎから湧き出るように現れた。

 体長はフィーロと同じか、少々大きいくらいだろうか。水を人型にして宙に浮かべたらこうなるだろう、といった見た目である。しかし目鼻があるはずの部分にそれはなく、のっぺりとした顔面に笑みの形に歪んだ口だけが存在していた。

 ――その数、五体。


『ヨカッタ』


『モドッタ』


『トキハキタ』


『ワレラノトキ』


『イマフタタビ』


 はっきりと分かる声が聞こえた瞬間、アイナが片刃の長剣を構えて進み出た。


「アオノ殿、付与の魔法を。ここは私たちがやる」


「……お二人は、フィロちゃんをお願いしますね」


 続けて進み出たのは、錫杖を構えたマリーだ。


「え、お願いって……この数だったら、私たちも戦った方が!」


 アイナの剣に風の魔力(マナ)を与えながらも、蒼乃が動揺した声で言う。


「不意打ちされたら(かな)いませんから。他にいないなんて保証はありません」


「なあに、すぐ終わらせてやるさ」


 軽口とは裏腹に、アイナの表情に余裕はない。

 水の”ヒトガタ”たちもまた、甲高い声ともつかぬ音を上げながら揺らめている。


(いやアイナさんはいいとして……マリーさんは戦えんのかよっ⁉)


 問いを口にするより早く、青がひときわ大きく脈打つ。

 それが、戦いを告げる鐘となる。ヒトガタたちは群れを為して、アイナたちへと迫った――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

お気に召しましたら、続きもぜひ。

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